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 再起動した視覚センサが最初に捉えたのは白衣の老人だった。彼は、特段の興味もなく、ニックのシェルを一通りチェックしたあとで、「もう帰ってよい」とだけ告げた。


 会社から出るとすでに夜の帳が降りていた。少し歩くと、頭はクリアなのに、まったく別人になってしまったような感覚を覚えた。


 フラフラと首都の街を歩く。歩道では多くの人がせわしなく歩いていた。この中の何体ほどが、オートマトンだろうか。政府は10年ほど前からオートマトンの生産数を公表することはやめていた。オートマトンに対する差別防止や権利保護のためだという。一説では人口の半数以上がすでにオートマトンだという話もあった。一時間ほど、とりとめのないことを考えながら歩き周ったあとで、商業ビルのエントランスに配置されているミラー型端末のアクセス・スペースを見つけた。


 そこにはスーツを着た男が無機質なインターフェースのAIに対して慌ただしく指示をしていた。その隣では子連れの家族が可愛らしいアバターから、レストランの紹介をうけていた。オートマトンの中には伴侶を迎え、許可を得た上でオートマトンの子供を育てることも多いと聞いてた。しかし、仕事一筋だったニックには縁がなかった。むしろ、他人との交わりを不要とする回路が仕込まれていただけではないか、と疑心をもった。


 端末に個人認証をかける。鏡に写った自分の顔に相対し、業務用のリソースにアクセスした。公衆網での利用は禁止されていたが、気にならなかった。膨大なデータベースから、自分の情報をクエリし、多面的に眺めた。それは今まで頑なに拒んでいた分析だった。そして――自分には『社会的価値』はなく、『代替可能な存在』だと判断した。


 当たり前だろう――オートマトンなんだから。


 そうして自嘲的に笑った。自分の仕事を誇りとしてた。こういった高度な情報分析を身につけたことも自信につながっていた。そのスキルが――まさか他人によって人工的に実装されたものだったとは思いもしなかった。


 ニックは死のう――と思った。


[Music: I Do](https://www.youtube.com/watch?v=hLpdyYz7DPc&list=PLf_zekypDG5qBT4O0u7pO6N7__F1FPIYw&index=3)

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