第13話 非常識な王国騎士団

 僕が次に向かったのは、盗賊たちがいきそうなボットムの隠遁の酒場だった。


 ここは特定の盗賊がいるわけではないけど、情報交換でよく人が集まる場所だった。




 前にカムロンもそこで情報収集したというのを思い出したのだ。


 場所としては帰り道の途中だけど、少し遠回りをしながら安全な裏道を選択する。




 ボットムでは油断をしていると、場所によっては交通費を払わさせられたり、トラブルに巻き込まれる。




 だいたいの空気感でわかることも多く、普通の人であればそんな危ない場所は通らないけど。




 そのまま裏道を歩いていると、前から王国騎士団の鎧を着た二人組が歩いてきた。


 こんな裏道まで彼女を探しているらしい。




 僕は道を譲るように身体を半身にし、横を通り過ぎようとしたところで、いきなり蹴りかかってきた。




 なんて日だ!


 さっきもやられたばかりなのに僕は学習を全然していない。




 もう二度と油断はしない。盗賊と騎士団に近づく時には蹴られる覚悟をしておこう。




 僕はとっさに反応したが、先ほどの盗賊団の動きがイメージに残っていたせいで、反応がかなり遅れた。盗賊団と王国騎士団ではスピードが全然違ったのだ。




 僕はそのまま後ろに飛ぶと、廃屋の壁が簡単に壊れ家の中に転がり入った。




「おいっ無駄な争いを起こすんじゃない」


「いやーだって、あの女見つからないじゃないか。あの女の苦しむ姿が見られると思うと、さっきから興奮がおさまらないんだよ。いいだろ。こいつだけ殺したらちゃんと探すからさ。こんなところで俺たちに会ったのが運の尽きってことでさ」




「あぁ……めどくせぇな。わかった。その代わり子供なんだから苦しまずにやってやれよ」


「グフフフ……寄り道ついでにいいの見つけちゃったな」




 男はゆっくりと腰につけていた剣を抜く。


 なんなんだ。王国騎士団の奴がボットムとはいえ、いきなり襲いかかってくるなんて頭がおかしすぎる。どうする? 




 僕の手元には武器になりそうなものはなにもなかった。




 それにしても……あまり街中を歩くことがなかったけど。この国には本当に頭おかしい奴しかいないのか?


 もしくは僕がトラブルに巻き込まれやす体質なのだろうか。


 色々と将来が不安になってくる。




 僕が、四方に武器になりそうなものがないか探すと、部屋の隅には小さな子供が震えながら身を縮こませていた。




 小動物のように気配を消していたので、一瞬気が付かなかった。




 そりゃそうだろ。いきなり家の壁が壊れ変な男が入ってきた上に、王国騎士団の連中が剣を持って襲ってきているんだから。




 子供なのにまだ泣いていないだけ偉いが……。




 男はわざと俺が恐怖を抱くようにか、時間をかけながら入ってくる。醜悪な笑みが僕の頭を冷静にさせる。




 多分……反対側から逃げることはできる。だけど、僕が逃げたら僕が巻き込んだせいであの子は殺されてしまう。そんなのは……ダメだ。


「おぉ俺はラッキーだ。1匹かと思ったら、もう1匹部屋の中に隠れていたじゃないか。これは不可抗力だよな。ギュフフ。楽しみが2倍」




 王国騎士団、頭おかしすぎる。でも、正面から戦うのも……。


 そいつはいきなり剣を頭上から振り降ろしてきた。


 多分余裕だと思ったのだろう。何の芸もない。




 スピードは速いが……こいつの剣筋を見た覚えがある!


 いつもあの女性騎士に返り討ちにあっていた男だ。


 だから、仕返しをしたかったのだろう。




 僕はそのまま半身で避けると、女性騎士がいつもやっていたように腕を引っ張りながら片足を突っ張り、そのまま掌底で顎を一発打ち抜く。何度も見て真似した彼女の動きだ。


 男はそのまま頭から地面に落下していった。




「おい、何をふざけているんだ?」


 見ていた男も剣を抜いてこちらに近寄ってくる。


 僕は男の持っていた剣を拾い構える。




「お願いします。このまま引いてくれませんか?」


「それは無理な相談だな」


 その男はそのまま剣を、倒れた男の首へと突き刺した。




「なんで……?」


「あっそうだな。部屋が汚れるから外で殺してやった方が親切だったな」


 男はそういうと、男をひきずりながら家の外にでる。


 僕があっけにとられていると、男が声をかけてきた。




「坊主、助けてやれなくて悪かったな。こいつは俺よりも腕が立つから怪我をしたくなくてよ。俺は無意味な殺しはしたくないから。このまま何も見なかったことにしてくれるよな? まぐれは二度続かないぜ」


「えっ……はい……」


「いいこは好きだぜ」




 男は死体の男のからお金の入った袋を抜き取ると俺の方へ投げてきた。


「こいつにはもう必要ない金だからな。好きに使え」




 そして、そのまま裏路地の中へ消えていってしまった。


 いったい何が起こったというのだ?


 目の前で起こったことなのに、全然理解が追い付かなかった。


 だけど、とにかく王国騎士団の中では何か問題が起こっているのは間違いなかった。

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