第11話 魔法蛇の攻略

 彼女のイライラは、誰かを殺したくなるくらいまで、たまっているようだった。


 店の中の物を次から次へと破壊していく。




 彼女の仲間はすでに店の中から逃げており、残っていたのは僕だけだった。


 さきほどから物は壊しているが、できるだけ人に攻撃をしないようにしていた。




 完全に怒りに任せて暴走しているわけではないようだ。


 とは言っても……蛇は彼女の首を絞めながら耳元で何か囁いている。




 なにを言っているのかまでは聞こえないけど、判断力を鈍らせ、なにか洗脳しようとしているように見える。




 仕方がない。


 僕になにができるかわからないけど、やるだけやってみよう。




 僕はできるだけ敵意がないフリをして彼女の視界から隠れ、背後から遠回りに近づいて行く。


 彼女もあえて僕を見ないようにしているようだ。




 やっぱり人を殺したいわけではないらしい。




 彼女の位置からだと陰になり見えない場所まで行くと、いっきに走って目から出ている蛇を捕まえる。




 思ったよりもしっかりとした手ごたえがあり、そのまま思いっきりひっぱった。。


 掴めるかどうか半信半疑だったけど、これならいけそうだ。




 蛇は大暴れしながら彼女からでるのを嫌がっている。


「うがぁ! 何をするんだ! このクソガキが。やめろ。お前らどこへ行きやがった! 逃げてないでこのガキを殺せ」




「お頭? そのガキが何をやっているっていうんで?」


 男たちからは蛇が見えていないため、僕が彼女の近くの空中をただ引っ張っているようにしか見えないようだった。




「いいからぁー、殺せばいいんだよ! なんならお前らを先に殺してやろうか?」


 盗賊たちはまだ迷っているようだった。




「この人を助けたかったら、動かない方がいいと思うよ。彼女何かに呪われているみたいなんだ」


 僕が優しく彼らにそう伝えると、僕の言葉に反応するように、盗賊たちが急に襲いかかってきた。僕の言葉は完全に逆効果だったようだ。




 なんでせっかく邪魔しないように伝えたのに!




「だから、この人を……」


 手下の盗賊が僕の顔のすぐ前を蹴りが通過し、足元を払われそうになる。


 だけど、僕が動けば動くほど蛇はどんどん彼女の身体の中から引っ張りだされる。




「イタイ、イタイ、早く殺せって言っているだろ」


 次から次へと僕に攻撃が繰り出されるが、盗賊たちは僕に指一本触れられない。


 蛇を持っているので、かなり動きは制限されているが、それでも彼らの動きはかなりゆっくりすぎる。




 それに、僕が蛇を持っていることで変則的に空を飛ぶように避けることができる。




 段々と彼らの動きにも慣れてきて、かわしていくことが楽しくなっていった。今までカムロンや母との手合わせはあったが、こんなにも同時に色々な人間から攻撃をされたことはない。


 しっかりと見て動けばなんとかなるものだ。




 今まで僕は怖い物だと思ってよく見ようとしていなかっただけらしい。


 今度はダドとドダの遠距離からの攻撃もかわせるかやってみよう。


 盗賊からの攻撃を避け続け、少しずつ蛇を引っ張りだしていく。




 なんという禍々しくも懐かしい魔力だろう。


 なんというのだろうか昔どこかで感じたことがあるような気がする。


 でも、それがどこだかは覚えていない。




「止めろー!!」


 彼女から蛇が抜ける瞬間、彼女は大きな声で叫んだ。




 止めろと言われても、こんなものを身体に入れている方が悪いに決まっている。この蛇をどうしたらいいのかは、なぜか身体が覚えている。 




 僕はそのまま引っ張りだしたところで、左手のひし形の痣から蛇に魔力を流し込んでいくと、蛇は光の羽となって燃えていく。




「ダメッ! 私が……私ではいられなくなっちゃう……おかしくなっちゃうの」




 燃えていく蛇を見ながらまだ彼女は何かを訴えていたが、先ほどまでのような凶暴さはもうなくなっていた。


 彼女は膝から崩れ落ち、そのままへなへなと座り込んだ。




 禍々しい魔力は光の羽で浄化されたかのように、キラキラと風に舞い消えていった。




 あのどこか懐かしい魔力はいったいなんだったのだろう? 


 それに僕はなんであの蛇の倒し方を知っていたんだろう?


 僕の中で急に疑問がでてくるが、今はその答えを探している暇はなかった。




「リーダーに何をしやがった!?」


 盗賊たちが僕を取り囲むが、大半の盗賊は息切れをしていて、今にも倒れそうだった。


 体感的にはあっという間だったが、結構な時間、蛇と盗賊たちと戦っていたらしい。




「いや、蛇が目からでてきていたから……」


「わけわかんねぇこと言いやがって! 全員でやるぞ!」




 先ほどまで怖気づいてしまっていた男たちとは思えないほど、今度は強気にそれぞれが手に武器を持って僕を囲みだした。


 でも、これだけの人数に囲まれているのにドキドキして口元が緩んでいる自分がいた。




「待ちなさい! 彼は私からエドキナの呪いから解放してくれたのよ」


 彼女は片目を抑え、かばうように僕の前に立ち上がってくれた。




 エドキナの魔法……? あんな邪悪な気味の悪い魔法を使う魔法使いがいるのか。


 僕はなぜか退治をしたのにも関わらず背中に嫌な汗が流れ落ちた。


 なぜかエドキナという言葉が僕の心の深くに突き刺さっていた。

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