貧民街に追放された王子!【聖属の力】を使って聖賢者の騎士へ駆け上がる。目指すは最強!
かなりつ
第1話 生まれた瞬間に死ぬことが決まっていた王子
「なぜ、この子が……聖女であるわが妻セリアを闇の賢者より守った子が、死ななければいけないんだ!」
ブリゴット国のお城の一室に王様とその従者たちが集まっていた。
それぞれの顔には何とも言えない悲しみの表情に包まれている。
「マルジール王、それについては古代占星術使いのデュラールからご説明させて頂きます」
従者の一人の男がマルジール王とは目をあわせずに紹介する。
マルジール王と呼ばれた男の前には小さな双子の男の子がいた。まだ、生まれたばかりでスヤスヤとまわりの騒がしさとは反対に静かに眠っている。
二人とも濃い茶色のサラサラとした髪をしており、精悍なマルジール王とは違い、可愛いらしい優しい顔をしている。
デュラールと呼ばれた老婆は双子の王子に一瞥すると、王に対してゆっくりと頭を下げる。
その洗練された動きは老婆には似つかないしっかりとしたものだった。
「マルジール王、この度はお世継ぎがお生まれになりましたことお喜び申し上げます。花の精霊バルチーナ様のご加護がありますように」
「皮肉か? そんな挨拶はいい。それよりもなぜ、こんなに元気に生まれてきた次男を殺さなければいけないんだ」
「昨夜100年に一度と呼ばれる双竜の星が流れ落ちました。双竜の星が流れる時に生まれた双子は不吉の象徴とされているのは王もご存知かと思います。どちらかを殺すことが、跡継ぎを守り、この国を守るためには必要なことになります。それに……兄の方は生まれたのが賢者の月の羽衣の時刻でしたが、弟の方は……」
デュラールは大きなため息をつき、少し溜めてから話を続ける。
「日が変わり、デュランの月の樹木の時刻です。デュランの月に樹木の時刻に生まれた3代前の王が何をされたのかは王もご存知かと思います。それから……」
「うるさい! 生まれた日付や星がどんな状況であろうと、わが子がどう育つのかというのは関係があるわけがない。そんな迷信でわが子を殺せというのか」
「何をおっしゃります! 伝統と歴史が我が国を支えてきた礎ですぞ! 歴史を否定することはこの国を否定すること。それに……聖女様をお守りになったのは長男様だと聞いております。そうだろガフィル?」
ガフィルと呼ばれた男はデュラールが数歩下がった場所におり、うつむいたまま王へ声をかける。
「はいっ。闇の賢者から聖女様を守る魔力を発したのはここにおられる長男様で間違いありません。現在魔力は少なくなっておりますが、今後大人になるに連れて成長が見込まれるかと思われます。それに比べて次男様は……」
「なんだ、次男が何だと言うんだ? 双子である次男も変わるわけがないだろ」
「とても言いにくいことなんですが、闇の賢者エドキナと同じ魔力が宿っております」
その場にいた人たちがざわめきだす。
「なっ……そんな……そんなわけはあるわけがないだろ! エドキナは自分の魔力に耐えきれなくなり発狂して悪魔落ちしまったんだぞ。今も次元牢獄に閉じ込めておかなければ、世界中に厄災を振りまくと言われているのに! この子があんな恐ろしい魔女と一緒だというのか!」
マルジール王は自分に言ったことを否定するかのように首を振り、頭を抱える。
「ガフィルあれを……」
「はい」
デュラールから指示されたガフィルは、懐から親指大の小さな水晶を取り出す。
「王様、お子様たちにこちらを握らせてもよろしいでしょうか?」
マルジール王は今から起こることが予想できているかのように渋い顔をする。
できるだけ許可をしたくないのか、ガフィルからの問いかけに無言を貫きとおした。
「マルジール王……ここで拒否をしたところで結果は変わりません……」
「マルジール王、逃げても結果は変わりませんよ」
デュラールから強めに声をかけられ、ゆっくりと頷く。
「通常この水晶を使えば、個人の持っている魔力の色を確認することができます。例えば、私であればこのように」
ガフィルが水晶に触れ魔力を込めると、赤黒い炎が水晶の中を覆いつくす。
「さすが、ガフィル殿だな」
「水晶をあれだけの炎で覆えるのはさすが、筆頭魔法使い」
まわりで見ていた家臣たちは、ささやきあうように感心する。
「それでは、これをご子息に握らせます。まだ魔力の操作が得意ではありませんので、コチラで少しサポートをします」
ガフィルは最初に長男の方へ水晶を握らせると、その中心に少し赤い炎が宿るだけだった。
「長男様は現在、火の魔力が少し強いようですが、これくらいであれば問題がないレベルになります。では次を」
ガフィルが次男に水晶を握らせると、すべてを飲み込むような黒い炎が一瞬で覆いつくし水晶に亀裂がはいる。
「現在のこの状態で、すでに水晶を割る魔力の持ち主になります。前筆頭魔法使いであったエドキナも幼少より、闇の魔力があり結局はこの国、いや世界の敵へとなりました。エドキナも情けをかけた結果になります。闇の魔力が高い人間がどうなってきたかは、他の例を見ても明らかでありましょう」
「王様、幼い時にこれだけの力を持っているのが問題ではありません。それが普通の魔法であれば問題ないのです。これが闇魔法だというのが危険なんです。過去の闇魔法使いたちが反乱を起こそうとしてきたのはすでに歴史が証明しております。今現在これだけの魔力を秘めている者が、第4王子になる、この危険がわからないわけではないでしょう」
マルジール王は部下の前では泣くまいとしながらも目を潤ませ、デュラールへと話しかける。
「だからと言ってお前はわが子を殺せというのか。それにセリアはこのことは知っているのか?」
「王様、この国とご子息の命どちらを選ぶというんですか? セリア様には……生まれたばかりのご子息が、闇の魔法使いと同じ魔力を受け継いでいるなんてことは、このまま知らない方がよろしいかと思い伝えておりません」
「本当に他の方法は何一つないというのか? これだけ魔法が発展した世界で過去の歴史に縛られなければいけないのか」
「王様、それは誤解です。魔法が発展したからこそ、変えられない原則というものが見えてきました。この子はいずれ他の王子様たちまでも手にかけましょう。それが……お望みであればこれ以上はいいませんが……」
マルジール王は子供たちから目をそらし、ゆっくりと腹の奥底から呟くように声を吐きだした。
「この子はいつ……するのだ?」
「早ければ早い方がよろしいかと。今宵は嵐でございます。その闇夜にまみれて処理をいたしましょう。セリア様には私共から魔力が強すぎてお亡くなりになったと伝えておきます」
「本当に……それ以外の選択肢はないというのだな?」
「闇の魔力を持った人間が何度この国の存続の危機に陥れたか、おわかりでしょう。この決断は後世に残る英断とされますことでしょう」
「……わかった。できるだけ苦しませないように……頼む」
「もちろんです。それでは夜になりましたら、私の方で迎えにいきましょう。私とガフィルは準備の方をしてきますので、一度ここで失礼します」
デュラールは神妙な顔をしながらも、自分の意見が通ったことに安堵したのか表情を緩め一礼して部屋からでていった。
「お前たちも、もう出て行け」
王様の命を受け他の人たちも一礼して部屋からでていった。
男たちが部屋からでて行くと壁の際に存在を消し立っていた一人のメイドが、部屋から子供たちを乳母車に乗せてでていった。
誰もいなくなった部屋の中で、マルジール王の頬には大粒の涙が流れ落ちていった。
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