英雄神器の継承者

琴葉 刹那

プロローグ 追放 上


「いよいよだな。ユオン。」


「はい。父上。」


 父の期待の眼差しを、兄が自信満々に受け止める。

 その様子を冷めた眼で見つめると、フンっと鼻を鳴らし、僕———アレン・プレミアはそっと窓の外に目を向けた。

 プレミア子爵領領都の空気は今日も暗い。

 領都というだけあってその街並みはなかなかに立派なものなのだが、子爵領ということもあり、それはせいぜい小国の地方都市の域を出ない。

 アルフレート大陸東部の盟主———ベルナリア王国の、大陸東部中心国の地方都市としては少々、いやかなり物足りなさを感じる。

 ———プレミア子爵家は武功を立てたことにより貴族となった成り上がりの家だ。

 初代プレミア子爵はその炎の魔法を以て敵軍を燃やし尽くし、戦後子爵に封ぜられた。

しかし、命懸けで戦ったのに子爵であることに不満を持った初代は、家名を古代語で『特別な』を意味するプレミアとすることで、数多く存在する下級貴族の中で頭ひとつ出ようとしたのだ。

 実際、その目論見通り時の国王に仕事を任されたりしたのだが・・・。まぁ、あれだ。荷が明らかに勝ち過ぎていたり、欲を出したりして失敗。結果、悪い意味で陛下の覚えが良くなった。あっ、爵位剥奪されなかったのは単純に当時の王家にそんな余裕がなかったらしい。罰金は流石にあったけどね。

 そんなこんなで、今では一度社交界に姿を現せば笑いの種だ。

 そんな中でも諦めが悪いのが欲深き野心家、プレミア子爵家。

 国税の他に献金を行い、なんとか持ち直そうとしている・・・無駄だと思うけど。

 そのせいで領内の政治が滞っており成長が停止。民に施されるのは暮らしを助ける政策ではなく献金を行うための重い税。落ち目のプレミア家を貴族家に繋ぎ止めてるのは先祖代々の無駄に優れた炎魔法と多額の献金ってわけだ。


「此度の契約の儀。お前もきっと火の魔法杖と契約を結ぶことができるはずだ。」


「はい!父上!」


 ———契約の儀。

 この世界の人間は、十歳になると契約の儀というものを行う。それは読んで字の如く契約を結ぶ儀式のことだ。契約を結ぶのは用途様々な道具。原則一つ。なんせ契約するモノは魂に刻まれており最初から決まっている。当たり前だが魂は一人につき一つだ。

だから二つ以上あったらおかしいのだ。

 ちなみに今現在この国は契約至上主義のような状態だ。契約者は契約したモノ(一般に魂装と呼ぶ)を使う仕事に才能がある場合が多い。故に大半はそれが活かせる職につく。無論家業を継ぐ者はいるのだが。

 でまぁ。案の定というか例えば魔法杖と契約し魔法師となった者、武器と契約し騎士となった者たちと農具と契約し農家となった者、ペンと契約し記者となった者たちなど、武力を持つ者と持たざる者たちの間で確執ができた。当然武力を持つ奴らの方が上だ。王も有事の際に戦力となる者を優遇するしな。

 そんな感じで、今は契約主義とでもいうべき状況になっているのだ。

 話は少し逸れたがこれが契約の儀についての説明だ。


 おっと。馬車が止まった。どうやら教会に着いたようだ。

 僕はすぐに扉を開け降り立った。そしてそしてドアノブを持ったまま執事のように直立不動。・・・あっ。腰を曲げるのも忘れずに。

 父と兄が談笑を終え、馬車から出てくる。


「・・・フンッ。『忌み子』の貴様をここまで育て、契約の儀にも連れてきた・・・。感謝しろ。」

 

 父が降り際にそう呟く。

 『忌み子』。それは双子の弟妹につけられる蔑称。

 古くは天からの授かり物として子、特に双子は祝福の証とされていた。しかし普通の兄弟よりも家を割る原因となりやすいため、下の方を忌み子としたのだ。

 さて、そんな双子で忌み子な僕の家での扱いはというと・・・まっ、当然悪い。ほぼ使用人同然・・・いやそれ以下だね。

 時々食事はないし部屋は狭い・・・っていうか離れの掘建て小屋だし。貴族の証である『フォン』も名乗れないし。あっ。でも一応身分は准貴族だよ。

 まぁ。そんなこんなで多分これが終わったら追放されるんじゃないかな?僕としては「やったー!」って感じなんだけど。本当はもっと早くしたかったんだろうけどこの国の法では貴族の子供は十歳の契約の儀が終わってから追放可能だからね仕方ないね。・・・耐えかねて暗殺者派遣されないか気が気じゃなかったけど。

 

 父と兄が教会内部へと入っていく。

 一応結ぶ側なので、兄の後を僕は執事のようについていった。

 

(随分と豪奢だなぁ。)


 そんな感想を思い抱く。

 貴族や大商人からの寄付もといお布施が多いのか治療費が高いのかとても真摯に神に仕えているだけとは思えない豪華なシャンデリアが並んでいる。あと心なしか骨董品みたいなものも見える。腐敗してるなぁ。


 奥に着くと腹の出た中年の司祭と人間の頭より一回り小さいくらいの水晶があった。

 この水色で透き通って見える水晶は、実は古代の遺産で契約を結ぶ・・・正確には魂に刻まれたモノを、地上へと顕現するのだ。


「司祭殿。今日はよろしく頼む。」


「ええ。こちらこそ。子爵様には多額のお布施を貰っておりますからなぁ。」


「おおっ!これが終わった暁にはより一層増額すると約束しよう!」


「ええ。よろしくお願いします。」

 

 にこやかに談笑する二人の大人。汚い。っていうか思ったより癒着してた。いやそれよりも増額だと?どこから持ってくる気だ?まさかまだ民から搾り取る気か?


「それでは始めましょう。」


「あぁ。おい。お前からだ。」


そこで思考が中断。父が僕を見て顎をしゃくる。その顔を見ると怒りが湧いてきたが、なんとか落ち着かせ、僕は水晶の前に立ち、それに両手を重ねた。


(大方、忌み子の僕はろくなのと契約できないはずだみたいな感じで兄との格差を見たいんだろうなぁ。契約に生まれは関係ないのに。無論血筋によってある程度は遺伝するけどね。あれ?魂に刻まれているのになんで遺伝すんの?いや親子って性格とか似た場合が多いしそれかな。)


 そんなことを考えつつ手のひらに感覚を集中させる。すると水晶は眩しい光を発したのだった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

あとがき

初めましての方は初めまして。そうじゃない方はお久しぶりです。琴葉刹那です。

さて、今回はプロローグ上でした。書いていたらなんか大学ノート5枚分になったからね区切らないと多分飽きられる。説明しすぎかなぁとも思ったけど今のうちに入れてた方が後々楽そう。

模試死んだ。英語やばい。読めない単語多すぎ。

まぁそんなこんなでそれじゃあまた次回。ばいばーい。

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