第65話正体(1)
太陽が完全に顔を出し、山の端に昇った。
窓から射し込む光で、アレクシスは目を覚ました。
「う――」
節々が痛くて呻いた。だが、思ったより気分は悪くない。
ここはどこだとあたりを見回すと、自分に寄り添うようにくっつく人物がすぐ目に入った。
「クリス――」
その姿を認めて、ほっと息を吐く。
崖から飛び降り、川の中で気を失うクリスティーナを見つけてとらえ、川岸にたどり着いたところまでは覚えている。気を失ったあとのことは知らないが、今ここにこうしているということは、クリスティーナが運んでくれたのだろう。
どうやら小さな小屋の中らしい。
アレクシスはもぞもぞと体を動かした。直接当たる毛布の感触から自分が裸であることを悟る。
しかし、さっきから柔らかな感触が二の腕にあたるが、これはなんだろうと、毛布をめくった。
そこで目に飛び込んできたものは――。
「――は!?」
自分が見ているものが信じられず、思わず声をあげる。クリスティーナも裸であった。けれど、その体を男と判ずるには、決してあってはならないものがついていた。
それだけではない。体全体が柔らかな丸みを帯びていて、自分の胸にのせている腕も細くて頼りない。毛布の中で薄暗いというのに、肌の白さが目をひいた。
(女――!? クリスは女だったのか!?)
驚愕に目を見開く。頭の中が真っ白になり、何も考えられない。
「う……ん……」
その時、クリスティーナが呻いた。アレクシスは急いで毛布をもとに戻すと、何故だか、寝たふりをした。
しかし、それきりクリスティーナの反応はない。アレクシスは知らなかったが、クリスティーナはさっき眠りに落ちたばかりで、脳も体も睡眠を枯渇していて、夢の世界からクリスティーナを引っ張り出す気など毛頭ない状態なのである。
そのまますやすやと寝息をたてるクリスティーナを、間近で見つめることになったアレクシスは何とも言えない表情になった。幸せと絶望と嬉しさがないまぜになった気分だ。
お陰で頭は完全に冴えきっていた。
アレクシスはもう片方の手で顔を覆った。
呻き声をあげたかったが、こらえる。
これでは拷問である。自分からは動くことができないのに、愛しいひとのぬくもりと柔らかな感触がしっかり肌に伝わってくるのだから。
アレクシスは耐えた。その苦行のような幸せはクリスティーナが目覚めるその時まで続いたのだった。
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