第17話六カ国協定

 クリスティーナがアレクシスと共に王宮で学んだ中のひとつに、六カ国協定があった。それは大国アルホロンとそれに接する五つの国とを結ぶ協定だった。五代前の王が架け橋となり、友好関係を結んだのだ。その証に、北に位置するエリルバから始まって、時計回りにザヴィヤ、ミアス、ブラリス、シドナ、それぞれの国から王太子の婚約者として、王女を迎えいれる約束がされた。その時代時代によって、その時の王太子の年齢に相応しい王女がいる国から、婚約者が選ばれた。ちなみに、今の王妃は北西に位置するシドナの元王女であることも教わった。


 各国との関係図の変遷をたどっていく授業を聞きながら、クリスティーナは頭の中で計算した。




(それじゃあ、今の陛下でちょうど五カ国目?)




 現王アルバートでちょうど一巡した計算になる。




(それじゃあ、アレクはどうなるのかしら。また同じように、お姫様をもらうのかな)




 アレクシスをちらりと見ると、自身に関連することだというのに、その表情には興味を浮かべる素振りが微塵もない。ほかの授業と何ひとつ変わることなく、大人しく教師の言うことを聞いている。




「――ということで、無事リュディガー様の御代から続く六カ国協定は無事、果たされたわけです。殿下においてはまだ婚約者は決まっておりませんが、この五カ国のうちのどれか、もしくはこの国の有力貴族から婚約者を迎えいれるのではないかとの見識が一般的です」




 クリスティーナは我知らず、ほっと息を吐いた。




(そうなんだ。まだアレクの婚約者が決まってなくて良かった)




 隣国の王女が話に出てきたせいで王太子という地位が急に大きく感じられて焦ってしまったが、アレクシスがまだクリスティーナと近い位置にいることがわかって安心した。勿論、頭ではアレクシスとクリスティーナとの間には大きな隔たりがあることはわかっているつもりだ。それでもやはり、今、一番近くにいるのが自分だと思うと、クリスティーナは嬉しかった。


 続いて、教師が六カ国協定が結ばれてからの利点をあげていく。争いがなくなったのは勿論のこと、国境を接していなかった国同士がアルホロンを通って交易が活発になり、またそこから付随する通行税や、行き交う行商が寝食するたびに町へ落としていくお金、今まで見ることさえなかった品物が世間に広がるなど、大国アルホロンは経済的な面でさらに強大な力を得ていったと教師が説明していくのを、クリスティーナは熱心に聞き入った。


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