キューティ・オン・ザ・ゾンビーズ

せらりきと

日本以外ゾンビランド!

 二千二百二十二年、世界はもはやかつてのようには存在しない。文明は滅び、人々は絶望の中で孤立している。生者と死者の境界が曖昧となり、地球は死の影に覆われている。しかし、その闇の中にも希望の光が輝く一筋がある。それは、一人の少女の勇敢な旅路から生まれたものだ。彼女の名前はナナセ。孤独と恐怖に立ち向かうため、彼女は過去の記憶と、愛する人々の思い出を心に刻んでいる。ナナセは一人でありながら、彼女は最後の生き残りとしての使命に燃えている。彼女は知恵と勇気を兼ね備え、この絶望的な世界で自分の運命に挑む覚悟を持っている。これは、一人の少女の勇敢な闘いの物語。ナナセの物語。そして、彼女が最後の希望となり、終末の世界で生き抜くために挑む旅でもあるのだ……なーんてね。


 あーあ。世界中ゾンビだらけになっちゃった。誰もが日本以外ゾンビランド、なんて言ってるよ。日本だって、都会とかゾンビだらけだってニュースでやってたんだし、日本もゾンビランドじゃん。その途中で、アナウンサーもゾンビになっちゃって、まるで映画でも見てるみたいだったなー。いつ噛まれたんだろう。

 そっか。あの首にあった赤いマークはキスマークじゃなくてゾンビに噛まれた痕だったのか。そう言えば、顔色も悪かったし……すごいなー。ゾンビに噛まれても、きちんとニュースの原稿を読んでたもん。プロだよね。

 はぁ……でも、このまま行くと、この村にもゾンビたち、やって来るよね。お父さんとお母さんは、出張でトーキョーに行ってたから、きっとゾンビになってるんだろうなー。悲しくて毎晩泣いてたけど、どうせ私もすぐにゾンビになるってわかってるから、平気になっちゃった。

 一年も経てばそうなるか。気がつけば十七歳。

 むしろ、一年も経ってゾンビが現れない田舎ってホント田舎。田舎ばんざーい。

 電気は、近くの山々を削ってそこに太陽光パネルをたくさん設置してるから、数年は平気なんだって。当時は、村のみんなは大反対で、業者さんたちとちょっとした戦争になったんだよ。いまとなったら、感謝しなくちゃね。

 水に関しては、田舎には山がたくさんあるし、特に雨水が豊富だから、水不足になることなんてないんだよ。食料は、これも棚田がいくつもあるから米はたくさんできるし、畑も至るところにあるから、野菜にも困らないの。肉は野生のイノシシやシカを狩って来てくれた猟師さんと、ウチの畑でできた野菜と交換なんかしているの。もちろん、ゾンビ化していないことが条件なんだ。だけど、いまのところ、ゾンビ化した獣は見たことないみたいなんだよね。鳥は遠くからもやって来るから、鶏肉はしばらく食べてないの。ゾンビ化していなくても、ゾンビ菌を保持してて、その鳥さんを食べちゃうと、たちまちゾンビになっちゃうからね。こういう時に限って、焼き鳥とかフライドチキンとかチキンナゲットが食べたくなるけど、我慢しなくちゃいけないのが辛い。チョー辛い。

 魚は、山を下りて、市内を通って、海岸で釣りをしないといけないから、ほぼ無理。市内でも、徐々にゾンビが増えてきているみたいだからね。船さえあればどうにかなるかもしれないけど、そこまで行くのも大変なのだ。

 川魚は問題ないんだけど、アジやハマチのお刺身が食べたいんだよね。

 私に残された時間がどれだけなのかはわからない。だけど人生を謳歌しなくちゃって思ってるの……謳歌できるような娯楽なんてないのが田舎。ホント田舎。チョー田舎。ゲームをやって時間をつぶしてたけど、ほとんどクリアしちゃったよ。縛りプレイとかRTAもやってみたけど、なにが楽しいのこれ。

 一年前、ついにトーキョーでゾンビが現れたってなっても、学校がおやすみにならなかったのは異常だよね。みんな、え、休校にならないの? なんて疑問を感じながらも通ってたなー。もちろん、学校ではゾンビの話ばかり。ゾンビの物まねをして、女子を怖がらせる男子がいたけど、誰かが警察に通報したらしく、すぐに連れていかれてた。ものすごく過敏になってたから仕方がないけど、あの子どうなったんだろう。

 それからしばらくして、ようやく休校ではなく、閉鎖になったの。政府が緊急事態宣言を出したおかげでもあるんだけど、なかなか渋ってたのは、きっとオリンピックを開催したかったからなんだ。現に開会式は行われてたし。開会式の演出で、ゾンビの格好をした大勢の人たちでダンスしてたけど、あの中に本物もいたって話しだよ。てか、ふざけすぎでしょ。きっと、その時に外国の人たちを多く入国させたからゾンビがはびこることになったんだと思うの。

 学校が閉鎖となったあとすぐにお祖父ちゃんが、家まで私を迎えに来てくれたんだ。母方のお祖父ちゃんなんだけど、お母さんから私を迎えに行くよう連絡が来たんだって。私にも、いまからお祖父ちゃんが迎えに行くからって連絡があったけど、あれっきり連絡が途絶えちゃったんだよね……はぁ。

 お祖父ちゃん家は、市内から車で一時間半ほど、くねくねした狭い山道を走ったところにあるの。いつも車で行くから、酔って川でおええってしてたけど、この時もそうだったよ。

 だからゾンビたちも、ここまでは来られないって、お祖父ちゃんは言ってたけど、ホントだった。ゾンビどころか、村の人以外誰もやって来ないもん。村へ行くための道が、入り組んでるからってこともあるのかもしれないけど、笑っちゃうよね。

 山深い村なんだけど、お祖父ちゃん以外にも、四世帯お年寄りたちが暮らしているの。私以外で一番若い人でも五十歳なんだって。笑っちゃうよね。でも、クマみたいに体の大きなおじさんだし、お祖父ちゃんたちも侮れないんだ。みんな猟銃持ってイノシシとかシカを追いかけまわしているんだよ。だから、ゾンビが現れても自信があるみたい。頼もしい~。

 お祖父ちゃんの話では、市内はもうゾンビたちで溢れているのだそう。あー怖い怖い。時々、パトロールをしに三、四人で向かっているんだけど大丈夫なのかしらん。改造された車なんだけど、結構カッコいいんだよね。

 あーあ。せめて一度くらいは彼氏が欲しかったなー。

 別に好みでなくても、お付き合いしたらよかったって後悔中。こう見えて、私って結構モテたんだよね。告白も何回かされたし。

 高校時代は知らないけど、中学生の時に、クラスだっけか学年だっけか忘れちゃったけど、男子が選ぶ可愛い女の子ランキングで、なんと三位だったのだ。一位は、神崎さんっていう子なんだけど、ゾンビになったって友だちのトモ子からメールが来たなー。そのトモ子とも連絡が取れなくなったからきっとゾンビになったんだと思う。友だちまで失った時は、泣くよりもゾンビが憎くなったね。そもそも、ゾンビが生まれる原因を作ったのは誰なのよ。見つけたら、噛みついてやる。

 あ、話が逸れちゃった。私って、こういうとこあるよね。反省反省。

 で、告白してくる男はみな、力でねじ伏せようとか言う、いわゆる不良ばかり。髪なんか茶色に染めたり、ピアス開けてたり、舌にも開けてる子がいたな。タバコ吸ってる子だっていたし、なんでこんな子ばかりが私を好きになるのよ。もっと、ギャルみたいな子にしてよね。私こう見えて、清楚系で通ってたんです。もう嫌になっちゃう。ゾンビが出現したときだって、なんて名前だっけ。確か、えっと……そう、郷田くん。なんか強そうな苗字だよね。そうなの、その名の通り、強そうな顔と体つきなの。背も高いし、お腹も出てるし、目つきだって悪く、それに、今どきの流行りなのか、額の所に剃りこみなんか入れてたりして、とっても怖いの。ピアスは、鼻に開けてて、牛さんみたいだった。そんな郷田くんに、「一緒に、最後の時を過ごさないか」だって。あの風貌で、ちょっと声を低くして言ってくるんだよ? 思わず笑っちゃった。

 だから、一人で過ごしますって断っちゃったよ。ごめんね、郷田くん。

 一瞬だけ、ほんのちょびっとだけど迷ったんだ。このまま彼氏がいたことがないまま死んじゃうのはイヤだって。ゾンビになったトモ子も慌てて彼氏を作って、キスしたって言ってたし。きゃー。ん、もしかして、キスしてゾンビになったんじゃ……まあ、どのようにしてゾンビになったかなんていっか。

 それを聞いた時、私も負けてられないな、って思ってたんだ。

 でも、郷田くんはない。あの怖い顔はない。ホントにごめんね郷田くん。

 私、どっちかって言うと、大人し目の子の方が好みなんだよね。例えば、同じクラスの小鳥遊くんとか。あの子って、ちっちゃくて可愛らしいんだよね。肌の色も白いし、いつもおどおどしてるし、読書が好きだし、目の下にあるホクロがチャーミングだし。あ、でも白くて細い腕なんだけど、浮き上がる血管はとってもカッコいいんだよ。それなのに、小鳥遊くんってば、隣のクラスの三好さんが好みだって言うじゃない。

 なんであんなにわざと真っ黒に日焼けして、けばけばの化粧をするような子が好みなのか理解に苦しむよ。スカートは短いし、胸元はいつもはだけてて、下着が丸見えだし、生活指導の先生によく注意されてるの見たもん。まあ、三好さんは勉強もできてたから、注意だけで済んでたみたいだけど。

 あ、実は可愛い女の子ランキング、三好さんが二位だったんだよね。悔しいけど、いくらケバケバのギャルでも、お顔はとっても可愛かったから当然か。やっぱり世の中には、誰に対しても同じように接するギャルみたいな子が人気だったりするんだって思い知らされたよ。私って、男子に対しては、塩対応だったし、冷たいっていう印象を持たれてたみたいなの。

 それでも、小鳥遊くんは、なんで私みたいな、清楚で、黒髪ロングで、スラーっと細く伸びた手足をしてて、おっぱいだってそれなりに大きくて、誰もが振り返るような美人を好きにならないのよ。おかしいじゃない。トモ子が、触ってもいい? って聞いてくるくらい形だっていいのに……まあ、小鳥遊くんには見せたことないから、言ったってしょうがないけど。

 しかし暇だなー。だから、散歩でもして来よう。その辺なら、大丈夫でしょ。てか、もし村にゾンビがいたら、もう終わりだし、どこを歩いても同じな気がするな。

 村は、本当にになにもない。山があって、川が流れてて、海が見たいけど、もう少し山を登らないと見えないの。見えても本当に遠くて、海だって感じがしないんだよね。

 セミが、これでもかって程大声をあげて鳴いていた。セミもゾンビになるのかな? チョー気になる。

 あれは、カナヘビだ。けど、すぐに逃げるんだよね。たまに捕まえて遊んでると、かぷって噛みついて来るのがチョーかわいいの。あ、ムカデもいる。結構大きいな。でもムカデは噛むと痛いからなー。真っ赤になって、痒くなるし。噛まなかったら、遊んであげるのに。ヘビの抜け殻もあるなー。これは大きさ的にシマヘビかな? 結構時間が経ってるし、この辺りにはいなさそうだ。

 まあこんな感じで、昆虫たちと戯れるくらいしか、面白いことがないんだよねー。

 セミの抜け殻は、洋服につけて。オシャレでしょ。トモ子は、私の昆虫好きには首を傾げてたんだよね。よく見ると可愛いのにね。

 あれ、こんな穴あったっけ? 側溝の辺りに、カエルでもいないかなーなんて探してたら、木が生い茂っていて、下の所に植物でできたトンネルがあり、道になってるみたいだ。なんかこういう道を進んで行ったらでっかい妖精が出てくるアニメ映画を思い出したよ。 

 どうせ暇だし行ってみますか。虫に刺されそうで嫌だけど、好奇心の方が上回ってしまった。

 天井が低く、少し坂道になっていて、雑草だらけで歩きにくかったけど、なんとか開けたところへ出ることができた。屈んで歩いて来たから、腰が痛い痛い。

「なんだ、神社か」

 目の前に、傾いた鳥居があり、本殿は屋根ごと落ちてしまっていた。辺りはしんとしており、セミの鳴き声すら聞こえなかった。真ん中あたりには大きな穴が開いてて、不気味に湯気が上がっているように見えた。 

 周りは、ごみが散乱してて汚いなー。どれも風が吹けば消えてしまいそうなほどボロボロだった。賽銭箱もあったけど、朽ちてしまってるし。

 そういえば、百年以上前に、この村に隕石が落ちたって話を聞いたのを思い出した。

「そっか。ここがそうなんだ」

 だから、誰も近寄らなくなってたんだ。 

 村には一つだけ小さな祠みたいな神社があるし、今年の初詣も、あの小さな神社に行ったっけ。

 遺跡みたいなものだなーなんてキョロキョロしていると、一つだけ目を引くものがあった。本殿の屋根の端っこの所に、気味の悪い人形がついているネックレス? のようなものが引っかかっていた。背伸びすれば届きそうだけど、気持ち悪いから、見て見ぬふりをしておこう。なんか呪われちゃいそうだし……。でっかい妖精に会えるのに期待したけど、実際は気持ち悪いネックレスなんだよねー。

 あ、タマムシだ。綺麗だなー。キラキラと光って好きなんだよねータマムシ。気持ち悪いネックレスなんて忘れてしまうほど綺麗だなー。光の当たり方によって、見え方も違ったりしてて、面白い虫なんだよねー。私が好きな昆虫の中で、一位、二位を争うくらい好きだなー。可愛いし。ずっと見てられるよ。

 なんか良いことありそうだし、参拝でもしておこうと思い、ポケットの中から五両を取り出した。昔は、ご縁がありますようになんて言いながら、五円玉を入れてたって、歴史の教科書に書かれてあったことを思い出した。賽銭箱に五両玉を投げ入れ手を二度叩き、二回お辞儀をした。

「こんな時代だけど、彼氏ができますように」

 あはは、自分で言って恥ずかしくなってきちゃった。

 そもそも神さまなんているのかな。いたら、ゾンビ騒動なんて起こらなかったよね。

 すると、コロコロコロと、投げ入れた五両がこっちへと転がって来た。さらに、賽銭箱を支えていた支柱が、五両の重みで耐えられなくなったのか、折れてしまい、中に入っていた小銭が大量に出て来た。 

 あわわわ、どうしよう。罰当たらないかな……ってか、私のせいじゃないよね。もともとボロボロだったし。

 よく見てみると、昔使われていた小銭が大量に転がっていた。

「百円、五円、これは五百円だ。一円玉もある。お札だったのかな。全部ボロボロだ」

 硬貨だけはなんとか残っていたみたい。やっぱり話の通り、五円玉が多く転がっていた。

 これを全部持ち帰って、古物商にでも持って行けば、高い値段で。と、思わずにやけてしまったけど、きっと古物商のおじさんもゾンビになっているから意味ないし、そもそもこんな時代にお金の価値なんてあるのだろうか。だから、放り投げてやった。

「さ、お家へ帰りましょう。お腹空いたなー」

 踵を返し、家に帰ろうとしていると、どこからともなく声が聞こえた。

「おい、お前」

 背筋がゾクッとなったものの、この科学の時代に、幽霊なんて存在していない、という結論が出されているのだから、怖がる必要なんてないのだ。怖がる必要はないことはわかってるんだけど、変な声が聞こえると、やっぱ怖いよね。鳥肌すごっ。

 だけど、恐る恐る振り返ってみた。

 ……誰もいないじゃん。

 空耳だったかなって、思い、ふたたび踵を返す。

「おい、そこの女」

 そこの女って、あきらかに私のことを呼んでいるよね……。

 もう一度、振り返り、辺りを確認するけど、やっぱり誰もいない。まさかさっきのタマムシちゃん!? 近づいてみるけど、タマムシちゃんは少し前は緑っぽいキラキラだったのに、いまは青っぽいキラキラになってる。ホントに、光の当たり方によって違うんだ。タマムシちゃんのおかげで、怖かったけど癒しに変わったよ。

 と思ったのも束の間だった。

「こっちだこっち」

 やっぱり声がする。もうヤダ。なんなの、ホントにオバケなんて存在するの。

「はやく、こっちだよ」

 耳を澄ませ、声のする方へゆっくりと歩いて行くと、崩れた神社の本殿にたどり着いた。なおも、おかしな声が私を呼んでいる。

 よーく耳を澄ませていると、あの気持ち悪いネックレスの方から聞こえていることがわかった。

「そうだ、俺だ俺さまだ。ひゃー、久しぶりに喋ったぜー」

「うげっ。ネックレスが喋ってる」

「そりゃー喋るさ。俺さまは生きてるんだからな」

 

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