第619話 冒険者センターからの依頼 7 聖夜な現金プレゼントで誤解な夜様




「あ、おかえりなさい! この度は幻のスノウバードクイーン討伐、本当にありがとうございました!」



 馬車と魔晶列車を乗り継ぎ我が街ソルートンに帰り、冒険者センターに報告。


 俺たちにスノウバードクイーン討伐をお願いしてきた女性職員さんが満面の笑顔で出迎えてくれた。



 山の中で遭遇した銀の妖狐、あのあとすぐに別れ馬車まで帰った。ラビコたちを待たせているし。


 別れ際、島のみんなも君を待っているんだよ、ほら、君専属のメイドたちも君の部屋を毎日掃除してご主人の帰還を待っているんだ、と銀の妖狐に引き止められたが……うーん、そりゃ島のみんなとは会いたいが、また今度な。


 そう、今度は寝ている間にアプティに連れ去られる、ではなく、正式に上陸したいもんだ。


 別にエロ本屋が完成しそうだから行きたい、ではないぞ。


 島のみんなに会いたいから、という俺の綺麗な感情、その一心のみ。




「まさか翌日に討伐を完了させていただけるとは……ありがとうございます! やはりあなたはすごい人なんですね! まさにソルートンの英雄! 私、あなたが初めて冒険者センターに冒険者登録をされたときに受付をした者ですが、なんとなくあなたは他の人とは違う雰囲気を感じまして、ずっっと記録をつけて追っていたのです! あの銀の妖狐のときだって……」


「はいそこまで~。仕事中に人の男に発情していないでさっさと受付の処理しろ~」


 職員さんが大興奮で俺の手を掴み饒舌に喋り始めるが、水着魔女ラビコが必要事項を記入した討伐完了の書類を職員さんに突きつける。


「はっ……す、すみませんでした……はい、これで討伐が完了となります。報酬などは高額となりますので、別室にてもう少しお待ち下さい」


「……私、ラビィコールとサーズ=ペルセフォスの連名で冒険者センターにお願いを出しているのは分かってるよな。銀の妖狐を追い返したのは私、そうなっているはずだ。あの男のことは絶対に漏らすな、いいな」


 書類を渡したラビコが女性職員さんに顔を近付け小声で脅しみたいな言葉を言うと、職員さんが真っ青な顔で全力で頷き、俺に頭を下げ受付に戻っていった。


 そういや異世界であるソルートンに来て、冒険者センターで困っている俺を誘導してくれ受付してくれたのがあの女性職員さんだったな。右も左も分からない異世界、あのときは本当に助かりました。



「あんな脅しみたく言わなくても……」


「大事なことなの~。ソルートンの住民全員で社長のこと守ろうとしているのに、箝口令を敷いたはずの冒険者センターの職員に情報広められたらたまったもんじゃないっての~」


 そういやソルートンを襲った銀の妖狐を追い返したのは、公式には『大魔法使いラビコ』ってことになっているんだっけか。


 俺の目の力『千里眼』と愛犬ベスの『神獣化』、これを世間には知られないようにサーズ姫様だったりラビコが手を回してくれているんだよな。


 強い力を欲しがる奴らはたくさんいるしな。そういうのに巻き込まれたら面倒だし、俺の命も危うくなる、と気を使ってくれている。


 あとは……知られると俺の周りの関係者も危険な目に遭う可能性、これが一番怖いか。



「おぅキング、早く防音設備が整っている個室とやらに行こうぜ。一時間コースとかか? にゃっはは」


 猫耳フードのクロがニヤニヤと笑い俺の右腕を引っ張る。


 防音設備が整った個室? 一時間コース? 何言ってんだ。


「え、冒険者センターに、その、そ、そういう施設があるのですか?」


 宿の娘ロゼリィが恥ずかしそうな顔で俺の左腕に絡みついてくる。


 ……曲解させようとわざとらしく表現したクロに触発されて、何を想像しているんですかねロゼリィさん。


 個室ではなく別室、職員さんはハッキリそう言いましたよ。


「それがあるんだよ~絶対に外に音が漏れないように作られた個室が~。そこでは例え男女がどれだけ激しく動いても~外には聞こえないっていう~。楽しみだね~社長~、あっはは~」


 水着魔女ラビコが悪ノリした顔でニヤニヤ。


 こいつ……分かっていてそっち寄りの表現をしやがって。


 多分、他の人に聞かれたくないような取引とか、今回みたく高額案件のときにプライバシー保護のために使う部屋だろ。


「……分かりました、お任せくださいマスター」


 バニー娘アプティが無表情ながらもワクワクした感じで鼻息荒く俺のケツをつかんでくるが、何が分かって何をお任せするんだよ。


 ちなみに今回もバニー娘アプティが無表情でドカンと俺たちが討伐したスノウバードクイーンを冒険者センターのモンスター解体所に投げ込んだので、巨大な鳥が襲ってきたー! と騒ぎになったそうだ。


 ピクリとも動かないスノウバードクイーンの横に無表情でバニー娘アプティが立っていたので、ああ……例の……となり騒ぎは収まったとか。


 ……なんかすいません、毎回。


 そういやアプティさんって基本俺以外に喋らないのを忘れてました。


 俺の前では無表情ながらも結構表情豊か……というか普通に話すので、つい一人でも状況説明出来るもんだと思ってしまっていました。




「お待たせいたしました! こちらが今回の報酬になります!」


 さっきの騒動を収め別室で普通に待っていると、女性職員さんが元気よく報酬と思われるお金が入った袋を机の上に置いてくる。


 え、ちょ、これいくらあるの……。


「すっげぇなこれ、二十万Gだってよ。一財産じぇねぇか、にゃっはは」


 猫耳フードのクロが袋の中身を確認するが、二十……って日本感覚二千万円ってとこか……すっげぇな、それ。


「さすがに幻の大怪鳥スノウバードクイーンのほぼ無傷の素体付き、だからね~。依頼者もびっくりの状態の良さだったろうし~。あとは冒険者センターが残りのパーツ買い取ってくれたってことだね~」


 水着魔女ラビコが明細を確認しながら言う。


 そう、依頼者の求めていた炎を弾く青く輝く羽、数十枚以外の部分は俺たちの取り分なのだが、正直こんな巨大な素体があっても使い道がない。冒険者センター側でこれを買い取り、スノウバードクイーンのパーツを使った武器や防具を作り、レンタルとして貸し出したいと提案されていたので、快くお譲りした。


「す、すごい金額ですね……冒険者の方々が夢見る一攫千金ということでしょうか」


 宿の娘ロゼリィが金額に驚く。


 そうだな、ワンクエストで一攫千金、これこそまさに冒険者ドリームってやつなんだろうな。




「え、いいのかよキング! やったぜぇ! なンだよそんなにアタシが抱きたかったのかよ、いいぜぇ、金額分たっぷりサービスしてやンぜ! にゃっはは!」


「別にお金に困っていませんけど~社長がどうしても私に貢ぎたいっていうんならもらいますけど~。ていうか~私を抱きたいんなら~社長は別にお金積まなくても一言耳元で囁いてくれればいいんですけど~」


「うわぁ、ありがとうございます! 少しお高い化粧品を買わせてもらって、残りは私たちの結婚資金にしますね。ふふ」


「……これでマスターと結婚? では島に行きましょう……」


 お金はクロ、ラビコ、ロゼリィ、アプティに配布。


 今回スノウバードクイーン討伐に向けて頑張ってくれたのはみんなで、俺、何もしていないし。


 別にこの金額で抱かせろとか貢いだとか結婚資金だとか結婚で島に行くとかの意味は含まれていない。



「まぁいつもみんなにはお世話になっているしな、これで欲しい物でも買って笑顔になってくれれば俺はそれでいいよ」


「うわ~これ絶対裏あるよ~、いつものプレイに追加で何かえげつないことしようとしてるんだ~こわ~、みんな今夜覚悟しといたほうがいいね~あっはは~」


「え、マジかよ。キングってそっち系の体力すごそうだから、アタシたち動けなくなるまでヤられちまうンじゃね? こりゃ夕飯しっかり食べて精をつけなきゃな、にゃっはは!」


「え、あの、すぐにお風呂に入ってきます!」


「……マスターのは……すごいです……」


「ベッス!」


 俺が天使でも微笑んだんじゃねぇかという笑みで報酬を渡すと、ラビコがいつものように面白方向に曲解。


 クロにロゼリィ、アプティもそれに乗っかり意味不明な発言。


 愛犬ベスさん、なぜ楽しそうに返事をした。


 ちょ、待てロゼリィ、真っ赤な顔で走り出すな。


 いつものプレイに追加ってよく分からんし、動けなくなるまで何をヤるのかも分からん。つかなぜカタカナ表記の「ヤ」なのか。


 そしてアプティさん、よく俺のはすごいとか言いますけど、見たことあるんですか……ってそういや毎夜の俺一人感謝祭を無表情で観察しているんだっけ……。



「はわわ……四人プラス犬をまとめてお金で買い取り濃密プレイ……」


 聞き慣れないか細い声が聞こえるなと思ったら、冒険者センターの女性職員さんが真っ赤な顔で小刻みに震えている。


 しまった……そういや部屋にこの人いた……ち、違いますよ、これはラビコとかがやるいつもの悪ノリで、俺は何もしないですよ!


 つかこの人の中で、プレイとやらに愛犬ベスも混ざってたろ。


「追加でお風呂で動けなくなるまでヤるすごいプレイ……ソルートンの英雄はやっぱり夜も英雄……ふしゅるる」


 女性職員さんが頭から煙を出し倒れ込む。


 ちょ、一体何を想像したんですか! くそ、いつものメンバーだけならこのまま流しておしまいなのに、ラビコたちのセリフを真正面から受け止めた人が……ああもうイレギュラー処理面倒! 


 起きてくれ、頼むから誤解したまま寝ないでくれ! 説明をさせてくれ!


「あ~! 社長が私たちだけじゃ物足りないって適当な女連れていくつもりだ~!」


 水着魔女ラビコが最高に良い笑顔で叫ぶ。


 こいつ……! 待っていやがったなこの状況を!


 お願い説明させて、起きてくれ女性職員さん。



 え? そっちでは聖夜? 知らんがな、こっちは聖夜のプレゼントで性夜な誤解が起きてんだよ! 


 ああもう、赤い服来たトナカイと一緒の例の人、俺に平和な夜をプレゼントしてくれ……。












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