第614話 冒険者センターからの依頼 2 スノウバードクイーン討伐様
「スノウバードクイーン討伐……?」
「は、はい! この間はロックベアキング討伐ありがとうございました! お陰様で数年未達成だった依頼を処理することが出来、冒険者センターの信頼度を上げることが出来ました!」
水着魔女ラビコに土下座をしていたら、急に横から現れた冒険者センターの職員さんと思われる女性。
俺が心の底から求めるラビコが表紙のちょいエロ冒険者ガイドブックではなく、なんにもエロくない文字と抽象的な鳥のイラストが描かれた紙切れ一枚を差し出してきた。
土下座状態からなんとか首だけ伸ばして紙を見ると、冒頭の聞いたことのないモンスター名が表記されている。
なんすかね、これ。
「じ、実はソルートンの冒険者センターには、数年放置されている未達成クエストがまだまだたくさんございまして……」
「……ちっ……今二人きりで見つめ合ってすっごい良い雰囲気だったのに~! 未達成クエスト~? そんなの誰もクリア出来ないようなクエストを金を積まれて受けた冒険者センターの落ち度だろ~? どうせどこぞの金持ちのコレクションに希少なモンスターの部位が欲しいとかいう、どうでもいい道楽目的だったりするんだよ~」
職員さんが必死にアピールしてくるが、水着魔女ラビコが急に不機嫌になり舌打ちをしながら言い返す。
すっごい良い雰囲気? いや俺、土下座状態でラビコに頭撫でられていただけだぞ。これのどこが二人見つめ合って、になるんだ?
「って、しかもこれロックベアキング以上に遭遇率の低いやつじゃないか~! こんなの探すだけでも数年かかるだろ~!」
「ひぃ……!」
なんだかラビコがキレ散らかしているんだが……。
職員さん、怯えて泣き出してしまったじゃないか。
「職員さんに舌打ちしながら威嚇するのはやめろラビコ。冒険者である俺たちの為に日々頑張ってくれているんだぞ」
「……む~、分かりました~このへんにしときます~」
とりあえずラビコの頭を撫で落ち着かせる。
「それで、何でしょうかこのスノウバードクイーンってのは」
安い早い美味しくはないでお馴染みの冒険者センター食堂にて詳しい話を聞くことに。
「そ、その、とても大きくて青くてキレイな鳥です……」
「論外。通称『氷の女王』と呼ばれる幻の大怪鳥で~、高さはロックベアキング以上、翼を広げた大きさは二十メートルを超えるかな~。冷気を吐き、対象の足を凍らせて動けなくしてからゆっくりと頭から獲物を食べるとかいうおっそろしい肉食鳥で~、幻も幻、数年に一度ぐらいしか目撃情報が無いっていうから、冒険者の間では本当にいるのか~って存在自体怪しまれているぐらいさ~」
俺の問いに職員さんが辿々しい口調で答えてくれるが、ラビコが途中で言葉を被せ、流暢にスノウバードクイーンの特徴を話してくれた。
詳しいな、さすがに世界を冒険したラビコ様ってところか。
「でも私~牛を頭から丸呑みにしているところを見たんだよね~。勇者パーティーとして世界を巡っているとき~確かソルートンからだいぶ北にある山の中だったかな~。その時は倒す前に逃げられたけど~きちんとペルセフォス王都の冒険者センターに報告したし~」
へぇ、まるで本物を見たかのような口ぶりだったが、マジで見ていたのか。そしてその数年に一度の目撃者がラビコ本人なのかよ。
勇者パーティーとして、ってことは五年以上前か。
まぁラビコって普通に空を飛べるからな。地上を歩くしか出来ない俺たちとは違って、空から見て得た情報を持っているって冒険者としてすごいアドバンテージだよなぁ。
「ラビコから聞く情報だと、出会うだけでも奇跡レベルっぽいですが、その討伐を俺たちにってことですか?」
数年に一度の遭遇率のモンスターとか、どうやって倒せと。
「は、はい……今すぐ、というわけではなく、冒険の最中、もし見かけましたら積極的に討伐を、というお話でして……スノウバードクイーンはとても強敵なのですが、あなたたちのパーティーなら……」
職員さんがラビコをチラチラ見ながら俺に討伐依頼の紙を渡してくる。
ああそうか。世界的に有名な大魔法使いであるラビコなら倒せる可能性が高いから、という依頼か。
普段のわがままラビコ個人ならこういう依頼は絶対に受けないだろうからなぁ。でも今ラビコは俺のパーティーに在籍している。つまり俺が受ければパーティーメンバーであるラビコも動くと思われているのだろう。
「ラビコ、このスノウバードクイーンってのはどのぐらいの強敵なんだ?」
「え~受けるの~? これ結構やっかいだよ~? 強さのランクはロックベアキング以上、ま~空を飛ぶからね~、接近戦は無理かな~。氷のブレスとか超やっかいだし~、そうだな~数値で言うとレベル30以上が複数在籍している冒険者パーティー、しかも強力な遠距離攻撃持ちがいないとダメだね~」
レベル30以上が複数在籍、か。
確かうちのパーティーにいる猫耳フードのクロ、彼女のレベルが27だったはず。
クロは態度こそヤンキーだが、本名はクロックリム=セレスティアと言い、その正体は魔法の国セレスティアの王女様。魔法は普通に使えるっぽいし、魔晶銃とかいう魔晶ウエポンを持つ遠距離特化型タイプ。
しかもクロはセレスティア王族の血の成せる業といわれる『柱魔法』が使える。
それだけの強者であるクロですら『レベル27』。そのクロ以上の冒険者が複数いないと無理って相当だが……。
「……つまり俺たちなら余裕ってことか」
うちにはクロの他に、レベル30表記の格闘家の冒険者カードを持つバニー娘アプティ、さらにはルナリアの勇者パーティーで有名な大魔法使いラビコがいる。ラビコは確か『レベル50』の魔法使い。
さらに無敵の愛犬ベスもいるし、全く問題ないだろうな。
……あ、俺は『街の人レベル2』な。
「お願いします……! 確かにコレクション目的と思われる依頼もあります。しかし最近我々は違う使い方を模索していまして、以前あなたが討伐してくれたロックベアキングから採取出来た貴重な素材、それを使った武器や防具をレンタルとして貸し出しているのです。その装備のお陰で冒険者さんの帰還率が高まりましたし、ケガをされる冒険者も減ったのです!」
職員さんが熱く語りだしたが、そういやロックベアキングの素材って超貴重らしいしな。
そうか、それを使った武器と防具をレンタルで貸し出しているのか。それは素晴らしい試み。しっかりとした装備さえあれば助かる場面は絶対にある。
お金が無くて装備が整えられなくて……それで命を落とす冒険者がいたかもしれない。
それを防げるのか、なるほど。
「つまり、このスノウバードクイーン討伐はソルートンの冒険者、しかも初心者救済に繋がる、と」
「そうだね~。あの鳥の羽は炎を防ぐから、炎系の敵には有効だね~。爪も嘴も鉄の鎧すら切り裂く貴重な素材だね~」
職員さんがラビコに脅されようが必死に食らいついてきたのは、冒険者を守ろうという強い信念か。
了解だ。その想い、俺にとても響きました。
「やろう。俺たちなら楽勝だろうしな」
「まぁいいけど~。でも見つけられたら、だけどね~あっはは~」
それは……言うな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます