第613話 冒険者センターからの依頼 1 俺の毎朝の爽やか日課様




「やっぱ無いか……」


「ベッス」



 天気の良い朝、俺は愛犬ベスの散歩のついでに冒険者センターに来ていた。


 冒険者センターはソルートンの街の中心部付近にあり、ベスの散歩のコースからは大きく外れているのだが、とある目的の為に頑張って寄ってみた。



「ふあ~ねむ~……無いって何が~?」


 俺の隣で超気だるそうに立っているのは水着魔女ラビコ。


 彼女は用事がなければ基本昼過ぎにのっそり起きてくるタイプ。それが朝の愛犬散歩になぜか付いてきた。


「……なんでもない」


「はぁ~? この世界的に有名な高レベル冒険者で毎日超忙しいラビコさんを朝から引っ張り出しといて、冒険者センターにわざわざ寄った理由が秘密ってどういうことさ~」


 ラビコが不満そうに俺の頬を突いてくる。


 いや、俺はお前を引っ張り出してはいないぞ。愛犬の朝の散歩に行こうとしたら勝手についてきたんだろうが。


 あとお前毎日暇そうに食っては寝ての繰り返しだろ。



「あれーアニキ、今日もガイドブックの在庫チェックっすか? たまに再入荷してるんすけど、アニキタイミング悪いっすねー。ほら見てくださいよ、このガイドブックはラビコ様が表紙でエロくて最高……あ」


 俺がむすっとした顔でだんまり決めていたら、後ろからモヒカン頭の男が陽気な声で話しかけてきた。


「エロ~? ああ~そういうことか~私が表紙の本が欲しかった、と。これはまた思春期の少年の心を残酷につついちゃったかな~? あっはは~!」


 水着魔女ラビコがモヒカンのド直球な言葉に即座に反応。急にニヤニヤとした顔になり俺の背中をバンバン叩いてくる。


 クソがぁぁ、モヒカン……テメェさえ来なけりゃあ……! 定期的に、いやほぼ毎日俺が冒険者センターに来てはこないだお試しで作ったガイドブックが再入荷していないかチェックしに来ていることがバレただろぉ!


「す、すんませんアニキ、今日はエロいラビコ様が一緒だったんすね……あ、すんませんエロくはなくてスタイリッシュでした。いつもアニキがラビコ様の超エロい表紙の本が欲しいって、毎日夜に使いたいって頑張って冒険者センターに通っているのを見ていたので応援するつもりで自分の本をお見せしただけでした! それじゃ俺はこれで!」


 俺の横に表紙の本人、ラビコがいるのに気が付いた世紀末覇者軍団のモヒカンが超早口でまくし立て、余計な言葉も織り交ぜつつ自己弁護だけをして本を懐に入れダッシュで風のように去っていった。



「……へぇ~、毎日夜に使いたい、ね~」


 モヒカンダッシュを見送ったラビコが最高に嫌な笑顔で俺を見てくる。


 あんの野郎……なんでそれをピンポイントで言う? 


 童貞の男と男の不思議な信頼関係から成り立つ他愛も無いエロトークを女性に、しかも当の本人に言うなよ!


 見ろよ、さっきまで超眠そうだったラビコが最高に面白い玩具をみつけたって顔になって覚醒したじゃねぇか。


「そっか~少年はエロを求めて毎日ここに通っては私が表紙の本が再入荷されていないかコソコソとチェックしていた、と~。ぶふ~っ……つかさ、バレたくなかったら私が一緒のときに来なけりゃいいのに~。社長ってほんと行動が素直で可愛いというか、分かりやすくて面白いというかつっつき甲斐があるというか~あっはは~!」


 大爆笑のラビコに言われて気が付いたが、なんで俺はラビコがいるときに危険なチャレンジをしてしまったのだろうか。


 愛犬の散歩のときに必ず冒険者センターに行くってルーティンがもう出来上がってしまったんだよな。毎日の行動、それに抗えなかった、それだけの話。


 決して必死にエロを求めた行動ではない。紳士諸君は分かってくれるだろう。


「い、いいだろ、あの無料冊子の表紙のラビコ、すっげぇ綺麗でエロくて俺の心にドカンと刺さったんだよ。好きな女性の写真欲しがって何が悪い」


 いや、あのラビコの写真に心打たれた紳士は俺だけじゃない。さっきのモヒカンだってそうだし、多くの熱い心を持つ冒険者があの冊子がいつ再入荷されるか職員さんに毎日聞いているんだぞ。


 たまに少数入荷するらしいが、秒で無くなるらしい。


「……ねぇ社長、もう一回言ってみて~」


 げ、さすがにラビコが怒ったか? いや当たり前か、自分の写真をエロ目的で欲しいとか目の前で言われたんだし……つかなんで俺素直に言ったんだ。


「ご、ごめ、謝るから許して……」


「最後の、もう一回言って」


「? 最後……? 好きな女性のエロい写真が欲しい……」


 俺が愛犬の横で瞬時に土下座をすると、ラビコがしゃがみ込み、俺の頭を撫でてくる。


 なんだ?


「ふふ~ん、ほんと、社長って素直だよね~。多分言った意味分かってないでしょ。でも許してあげる、私はその言葉を額面通り受け取るって条件が付くけど~あっはは~」


 ……? よく分からんが許してもらえたようだ。


「というか~そこまでの行動力をどうして私たちに向けないのかな~。みんな待っているし、私だって別にいつだって応える気はあるし~……どうしてもって言うのならここでだって~……」


「あ、あの! よろしければこれを……!」


 土下座状態の俺の頭を撫でていたラビコがモゴモゴ小声になったと思ったら、横から冒険者センターの職員さんとみられる女性が勢いよく紙を差し出してきた。


 キ、キタ! もしやラビコが表紙のエロ本が再入荷されたんすか? 


 職員さんがその本を欲しがっている俺の顔を覚えてくれていて、わざわざ手渡しで……ん、いや、なんかエロくない文字だけが書かれた紙切れ一枚なんだけど?


 えーと……



「スノウバードクイーン討伐……? なんだこれ」









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