第581話 花の国の花づくしカフェ6 オープン直前フルフローラロイヤルファミリーとサーズ姫様の支援様




「それではこれが開店前の最終チェックとなります。辺りも暗くなり、ロゼオフルールガーデンの光る桜のベストタイム。どうぞガーデンの美しい景色も楽しみつつジゼリィ=アゼリィプレゼンツディナーをご堪能ください」



 商売人アンリーナが深く頭を下げるとカフェスタッフ総出で料理が運ばれてくる。




 時刻は夜十九時過ぎ、日も落ち暗闇が空を覆いだす頃。


 ガーデン内に設置された魔晶石ランプが灯り、花の国フルフローラが誇る世界的に有名な『光る桜』が光りだす。


 いいな、うん、とても良い雰囲気だ。


 これぞロゼオフルールガーデンカフェ、花の国フルフローラでしか楽しめない景色。



 さすがにアンリーナがマジの商売人モード。朝の奇声を発する獣みたいなのはなんだったのか。




「あああああ……いいな、これはいいな! そうこれだ、私はこういうのを求めていたのだ!」


 花の国フルフローラの王族であられるローベルト様にも参加していただいたのだが、キョロキョロと周囲を見渡し、運ばれてくる料理に満面の笑顔を見せている。


「これ落ち着きなさいローベルト。君、これは何かね? ほうビスブーケ産大海老ソースのパスタと、お、おおおこれ旨いいいい!」


「あなた、プライベートとはいえ国民の皆様の前なんですよ」


 まるで遊園地に来た子供のような落ち着きのなさを見せるローベルト様に五十代後半と思える男性が注意をするが、その男性も運ばれてきた料理を食べた途端大きめのリアクションで立ち上がる。


 そう、なんとこの御方がフルフローラ王国の現国王であられるミネスト=フルフローラ様だそうです。

 

 そして大興奮のミネスト様をたしなめたのが、奥様。


 フルフローラロイヤルファミリー大集合。そりゃあアンリーナがマジ商売人モードなわけだ。



「ミネスト~相変わらずアクションでかいな~。もう派手な動きで腰痛めて入院とかやめろよ~? あっはは~」


 ド平民の俺や宿の娘ロゼリィが緊張する中、水着魔女ラビコがお酒片手に爆笑。


 お、おい現国王にタメ口とか大丈夫なのか……ってラビコって誰にでもこうだけど。



 クロはもうローベルト様に正体バラしているし、猫耳フードはかぶらず素顔。さっきミネスト様と目を合わせ無言で頷き合っていたから、色々事情を汲んでくれているのだろう。


 バニー娘アプティは俺の前の席で紅茶の香りを大興奮で楽しんでいる。


 いつも無言無表情でつまらなそうにしているアプティだが、花の国フルフローラに来ると別人のように感情を顕にするなぁ。いや、顔はいつもの無表情なんだけど、鼻息がフンフン荒い。


 愛犬ベスは俺の膝の上で丸くなっている。超かわいい。




「いやお恥ずかしい。私も若くないですからな、わはは。いやしかしラビコ様はいつ見てもお美しい……っといたた」


 国王様が笑いながらラビコに返すが、後半奥様に耳を引っ張られる。


 良かった、ご機嫌を損ねられたらどうしようかと思ったが、二人はどうにも顔見知りっぽいな。



 まぁラビコはああ見えて過去、ルナリアの勇者のメンバーとして世界を巡り蒸気モンスターを倒し続けた超有名人だしなぁ。


 一応その功績を讃えられ、ペルセフォス王国では国王と同じ地位を与えられている。


 一国が与えたその地位が世界に通じるのかは分からないが、蒸気モンスターを倒し多くの命を救った英雄勇者として世界に認められ尊敬されている感じか。



 しかしまさか現国王であられるミネスト=フルフローラ様まで来られるとは……。



「父上、な、最高だろう? あの大国ペルセフォスで大人気のカフェと同じ味がこのガーデンで食べられるんだ!」


 娘であるローベルト様が国王の肩をバンバン叩き喜びを表現する。


「そうか、あの大国ペルセフォスの人気の味が我が国で……素晴らしい、素晴らしいぞ、わははは!」


 父娘が仲良さげに笑い紅茶をぐいーっと飲み干す。


 うーん、ローベルト様ってお父様似なんだな。



「二人して大国大国って~、負け犬根性が染み付きすぎだろ~? つか~その大国ペルセフォスの変態姫と繋がり持たせてやったり世界的大企業ローズ=ハイドランジェのアンリーナ連れてきたり、この大魔法使いラビコ様がこんな田舎王都に何度も足運んだりしてるのウチの社長のおかげなんだからな~? そこ分かってる~?」


 ラビコが席を立ち、横にいる俺にもたれかかりながら笑う。


 お、おいラビコ、もう酔ってんのか? ……さすがに国王様相手に言い過ぎだろ……田舎王都呼ばわりはアカン。


 あと俺そんな持ち上げられるようなことしていないだろ。


「そうだった、ありがとう少年! よくぞこの田舎王都に目をつけてくれた!」


 国王様がガタンと立ち上がりツカツカと俺に歩み寄り力強く握手をしてくる。


 おふぅ、握力すげぇ……。


 国王ミネスト様、すんげぇ体格いいな。お城で肖像画を見たが、でかい大剣を装備した姿だった。


 つか国王様自ら田舎王都とか言わないで下さいよ。


 多分ラビコに乗せられて言ったんだろうけども。




「いやまさか大国ペルセフォスの龍騎士サーズ=ペルセフォス様が自らフルフローラに来てくださるとはな……あれはさすがに驚きましたぞ、わはは!」


「あ~、変態姫が支援をするって言ってたからね~。あいつは約束守るし行動早いから~。しかも社長との繋がりで出来た縁だからね、絶対に動くさ~あっはは~」


 どうにもサーズ姫様が一度フルフローラ王都に来たそうだぞ。


 ローベルト様との約束を果たすため、数百年前にペルセフォス王国を興し初代国王となられたラスティ=ペルセフォス様が残された書簡の実物を携え、ペルセフォス王国を建国するにあたり多くの国の支援を受けたことへの恩を返すときが来た、とサーズ姫様が頭を下げてきたとか。


「いやぁ……恩とか言われてもねぇ……そんな数百年前のことを律儀に守らなくても。経済支援はそりゃあもう願ったり叶ったりだから、というか本当にまずい状況だったから二つ返事で受けてしまったけど……当時の資料を見ると、経済難に人材不足で、うちから支援で出した資金なんてお小遣い程度、戦力支援では騎士を五人出したって書いてあるだけ。他の国が国家予算クラスの金銀財宝、数千数万の騎士を派遣しているなか、フルフローラは五人、これの恩を返すと莫大な支援を約束してくださったよ。なんだか申し訳ないやら情けないやら……」


「……当時の詳しいことは知らないけどさ~ラスティ=ペルセフォスが呼びかけた『龍』との戦いに参加することイコール死になるような絶望的な状況だったみたいだし、援助の要請を蹴った国のほうが多かったとか~。その中で無視することなくしっかりと手を上げて声に応えた。そして当時のフルフローラが出来る最大の援助がそれだったんでしょ~。渋ったわけじゃあなくて、精一杯だった~って。確かあれでしょ~その五人の騎士って最後まで『龍』と戦い生き残ったって聞いたけど~。それって超少数精鋭を送り出したってことじゃないの~? あっはは~はい社長スキだらけ~」


 ペルセフォスからの大きすぎる支援にミネスト=フルフローラ国王が困惑の顔を見せるが、水着魔女ラビコがフォローしつつ俺の耳を舐める。


 ヒィィ……! 


 ちょ、何真面目な話の最中に俺の右耳舐めてくるんだよ! 


 背中がゾクってなっただろうが!


 ロイヤルファミリーの方々もちょっと驚いてるし……つか知らないとか言いつつ絶対に色々知ってんだろラビコ。




「た、確かにそういう資料もありましたが、なぜか人数だけで名前も何も表記がなく……幾分大昔のお話、どこまで信じていいやら、でして」


「……血が飛び交う龍との戦場に黄金の花が五つ咲き、その光は全ての攻撃を弾く絶対盾。ペルセフォスにこういう資料が残っていたし~多分それがフルフローラが送り出した盾騎士フォリウムナイトの精鋭五人でしょ~。だから胸を張って支援を受けなって~あっはは~」



 はて、ラビコが前半に言った文言、どこかで聞いたことがあるような。


 えーーと……確かソルートンの砂浜……そう、ソルートンの夜の砂浜で例のピンクのクマさんズに襲われたときに聞いた記憶。


 クマさんトークでは龍とかのワードはなかったと思うが。



 ペルセフォスの資料、確かピンクのクマさんたちの住処ってペルセフォスのお城だったはずだし、暇なときにでもスキを見て紛れ込んでそういう資料でも読んでいたのかな。



 そういや魔晶列車でも出会ったけど、元気かなぁあいつら。










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