第580話 花の国の花づくしカフェ5 オープニング直前メニュー審査とリピーター確保案様




「えーと、フルフローラ産ハーブサラダ、フルフローラ高原牛のローストビーフ、ビスブーケ直送山盛り海鮮パスタ、フルフローラ産小麦のふんわりパン、フルフローラの大地の恵みフローラ豆のスープ、この中から3つ選ぶ、と」



 俺たちはホームである港街ソルートンから商売人アンリーナの船と魔晶列車を乗り継ぎ、花の国の王都フルフローラに来た。


 目的は以前お約束したカフェの開店に立ち会うため。



 フルフローラ王都にはロゼオフルールガーデンという、世界的に有名な光る桜が立ち並ぶとても美しい場所があるのだが、なんというか、その、申し訳ないが殺風景というか数分歩いたら満足して帰るような公園だった。


 そこで俺と商売人アンリーナが協力し臨時でカフェを開いてみたところ大成功。


 フルフローラ王族であられるローベルト様からぜひとも常設でカフェを開いてくれないかと相談され、アンリーナ側の会社で話を進めてもらっていた。


 なんかアンリーナがフルフローラ王族とのつながりが欲しい、とか言っていたか。




「3つ選んだらさらにお好きな紅茶を選ぶ、と。うん、味も美味しいしオープニングのお得セットメニューはこれでいいんじゃないかな」


「はい、選ぶという楽しみもあり、とても良いと思います。あ、これ以外にもデザートと紅茶のセットもあるんですね、ふふ」



 昨日はもう時間も遅いということでローベルト様が配慮してくださりお城に泊めてもらい、翌朝。


 明日オープンするロゼオフルールガーデンカフェにて俺と宿の娘ロゼリィがメニューのチェック。


 全てのメニューを少量、朝食代わりに試食させていただいたが、宿ジゼリィ=アゼリィで出されいている物となんら遜色ない。


 ああ、一応俺は宿ジゼリィ=アゼリィオーナー代理の役をオーナー夫妻であられるローエンさんとジゼリィさんに任せられている。


 ロゼリィにいたってはその夫妻の娘さんで、後に宿を継ぐ立場。



「……香りが新鮮……芳醇……劣化無しの茶葉……マスター、この地は最高です……」


 もう一人の審査員、バニー娘アプティが無表情ながらも出された紅茶にご満悦のご様子。


 ショコラメロウやアランルージュなど数種類出してもらったのだが、アプティがそれら全てを一瞬で飲み干した。


 アプティさんは紅茶が好き過ぎて、中途半端な物出されたらマジで不機嫌になるからなぁ。


 この反応は美味しいってことだろう。



「ありがとうございます、では予定通りこちらのメニューでロゼオフルールガーデンカフェを営業していこうと思います」


 商売人アンリーナが俺たちに丁寧に頭を下げニッコリ笑う。


「つか、開店明日だろ? 直前に俺たちが審査とか……NOとか提示されても変更とか無理じゃ……」


「いえ、変えます」


 俺が苦笑いしながら言うと、アンリーナが真顔で一言。


「こちらのカフェは宿ジゼリィ=アゼリィ様の名と知識と経験をご提供いただき、それらを元にした営業となります。お借りした先の代表の方のご満足を得られなければ当然全て変更いたします」


 お、おほう、マジかよ……。


 よかった、アプティが変なこと言わなくて。


「名をお借りしているのに、適当な物をご提供してジゼリィ=アゼリィ様の評判を落とすわけにはいきません。面倒だからと一つでも妥協を許してしまうと、今までの信頼も繋がりもそして成功も……全てを失います。ましてや我が愛する夫である師匠絡みの一件、このアンリーナ=ハイドランジェ、全力で挑んでおります! なぜなら今回のことが成功すると二人の愛はMAX状態になりつまりそれは愛の成就からの性的な求め合いを経て子が七人でアイランドで盛大な挙式がふjklヌフォフフォルル……」


 さすが世界に名を馳せる企業ローズ=ハイドランジェの跡取り娘さん、商売に取り組む姿勢が格好良くて尊敬するレベルだぜ、と思ったら中盤からヨダレをたらし早口であっちの世界に行ってしまわれた。


 もう言っている内容が記号+擬音でしか表記出来なくなったし、アンリーナはしばらく放っておこう……。


 そうだな、以前のように軟体動物や爬虫類に進化しなかっただけマシ、と思おうか。


 あれはさすがの愛犬ベスも敵判定していたしな……。


 

「前も言ったけど~フルフローラってさ~昔から予算も人材も手薄なもんだから外交下手でさ~基本他国との交流が上手くいっていなかったんだよね~。世界で有名な企業とかもフルフローラに対しては『旨味が少ない』から一歩引いて見ていてさ~そっちでも繋がりが弱いんだ~あっはは~」


 一応足元で丸くなっていた愛犬ベスの頭を撫でてアンリーナを敵判定しないようお伺いを立てていたら、俺の右横の席で同じくメニューを食べ終えた水着魔女ラビコがニヤニヤと嫌な笑顔で言う。


 お、おいバカやめろ。


 そういや昨日もそんなこと言っていたが、今ここにフルフローラ王族であられるローベルト様がいないからまだ良いものの、これ聞かれたら泣いちゃうぞ、あの人。


「だからさ~これが上手くいったらローズ=ハイドランジェっていう会社は他の企業に先駆けて王族ローベルトの信頼をガッツリ得られるから~今後フルフローラ王国が何かしようとしたとき最初の相談先になれるかもって期待できる~と。そして今まで存在しなかったロゼオフルールガーデンのお土産といえばコレ、っていう世間の認識を広められるんだよね~。つまりアンリーナが狙っているのって、お土産利権なんじゃないかな~。あと社長との肉体関係、あっはは~」


 そういやまだ見ていないが、ロゼオフルールガーデンカフェ限定の化粧品やらシャンプーやらを作るとか言っていたな。



 確かに今までこのガーデンにはお店がなく、お土産が存在しなかった。


 アンリーナの会社が売り出せば、世界で初めてのロゼオフルールガーデングッズとなる。


 なるほど、他の企業が後発で作ろうが、一番最初に作ったっていう認識はアドバンテージとして大きいもんな。


 最後水着魔女ラビコが茶化してアンリーナが俺との肉体関係がとか言ったが、今回のカフェの案件はローベルト様の信頼も得ようと相当力が入っているっぽいし、マジの世界的商売人モードのアンリーナがそんなこと考えているわけねぇだろ。



「──ヌフォフポレああああああ早く師匠と愛の吸い合いを! フォオオオもうカフェとかどうでもよくなってきましたわー! さぁ師匠もうこの場でしてしまいましょう! 大丈夫ですここには関係者しかいませんしむしろ観客が多いほうが二人の愛の肉欲関係が知れ渡り好都合lひぶgかdgh──!」


 放っておいた商売人アンリーナが熱気を纏い、細かな文字が多量に書かれた紙と朱肉を装備。


 うわぁ……大興奮状態なせいか、頭からシューシュー熱が吹き出して、一見蒸気のように見えなくもないモードになってんぞ。


 これ下手したらウチの愛犬がマジで敵対蒸気モンスターって判定を出しそうだ。


 愛犬ベスの頭を撫でてあれはちょっと異様でおかしいけど人間なんだよ、って知らせないと。


 アンリーナのほうは……バニー娘アプティさんに抑えてもらおう。



 最近相当忙しかったっぽいし、このカフェをなんとか成功させようと頑張ってアンリーナさんもストレスたまって暴走しちゃったのかなぁ。まぁこういうときは仲間である俺たちがなんとかすればいい。


 そうだなぁ、ローベルト様にはお世話になっているし、俺だってぜひともこのカフェを成功させたい。


 アンリーナが企業の保養所だったりセカンドライフ移住などと手は打っているようだが……こういうカフェとかって結局何度も足を運び来店してくれるリピーターをいくら確保出来るかみたいなところがあるんだよなぁ。


 実際ソルートンの宿だって、ペルセフォス王都のカフェだって、データを見たらほとんどがリピーターのお客さんで占められている。



「リピーターかぁ……」


「れdくyっr! ヌホレレホホゴモファいー!」


 俺がちょっと考えごとをしていたら、燃えるような熱い体から蒸気を発する物体が俺の目の前に迫っていて、バニー娘アプティが背後から抱きつきなんとかその勢いを抑えている状況だった。


 え、なんなのこの状況……ウチの無敵の愛犬ベス様がちょっと怯えてんだけど。



 ん? アンリーナと思われる物体が握っている紙と朱肉……リピーターの確保……



 ──ああそうだ、アレがあった。










  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る