第566話 足湯覗き&半ケツ男のデートのお誘い様 ──十四章 完 ──





 宿ジゼリィ=アゼリィ。



 港街ソルートンにある酒場兼、温泉付き宿屋兼、食堂。最近は配達業なんてものも始めた。


 カウンターでは世界的に有名な化粧品メーカであるローズ=ハイドランジェ製の商品も売っているぞ。しかもこの宿でしか買えない限定コラボシャンプーとかボディソープとか、多種多様に揃っている。


 お店の外には二十四時間使える足湯なんてのも展開しているから、散歩がてら使ってくれて構わない。


 足湯はなんと無料。


 そう誰でも、いや、立ち仕事等で疲れのたまったがんばり屋さんの女性に、微笑みイケメンにゆっくりとやさしく背後から包み込まれる温度を擬似的に足で味わっていただきたく、その想いのみで俺が発案し、作ってもらった。




「おお、あの子の足綺麗。くそ……なんで光学ズーム付き双眼鏡がねぇんだよ、この異世界は! 転移転生してこい家電量販店ンンンっ!」



 その足湯の真上に位置する部屋、そう、そこが俺の部屋だ。


 王都で開かれた飛車輪レースで大穴当てて大金を得、それを宿の増改築にブッ込み、ついでに俺の部屋なんてのも作らせてもらった。


 へへ、十六歳にしてマイホーム持ち。どうだ、こんなこと元いた世界じゃ出来なかったぜ。


 日本じゃ俺、さえない……いやモテない、いや、自ら欲を断った硬派な普通の高校生だったし。



「……マスター、コーガクズムソガンキョ、カッデンリョハンテンンンッとは何でしょうか……?」


 俺が部屋の窓から落ちる勢いで階下の足湯に広がるロングビューティーレッグワールドを楽しんでいたら、背後から無表情なお声が。


「あ……いや、な、なんでもない、意味のない単語を羅列した俺の魂の奇声だから、気にしないでくれ」


 しまった、いつの間にかバニー娘アプティが部屋に入ってきていたのか。


 我が愛しの愛犬ベスよ、丸まって暇そうに寝ていないで、こういうときはそっと吼えて教えてくれ。


 アプティはなんでか知らんけど、どんなに頑丈な鍵が何重にかかっていようが、難なく突破してくるガールなんだよね。


 普通の人間にはこんなこと絶対に出来ないだろうが、アプティは蒸気モンスターっていう種族だから、その種族が持つ独特の技術を使って突破出来るってことなのかな。



「……女性の足が見たいのですか? マスター……どうぞ……」


 俺が大汗かきながら慌ててソファーに禁欲紳士の思慮ポーズを決め座ったら、バニー娘アプティが目の前に来て自分の足を指す。


 ──バレている。


 アプティが無表情ながらもワクワクしながら太もも様を俺の顔に近付けてくる。


 あ、いや、こういうはバレるかバレないかのギリギリのラインを攻めつつ覗くのが楽しいのであって、堂々と見るのはなんか違うんだ。


 そう、俺は硬派だから。



「ありがとうアプティ。でもそういうのは、本当に好きな人の為に取っておけ」


 俺は立ち上がり、優しく微笑みアプティの頭を撫でる。


 アプティ、マジでスタイル良くて綺麗だよなぁ……。蒸気モンスターってどういう女性がモテるか知らんが、アプティは最高に俺好みに可愛くて美人さんだと断言出来る。


「……? だから、今、です……マスターと島で結婚……」


 無表情に首をかしげ、アプティがじーっと俺を見てくる。



 ああ、アプティはさっき言った通り人間ではなく蒸気モンスターという種族になる。


 彼女らも俺と同じように異世界からの来訪者で、人間の文化には疎い。


 なかでもアプティは喋りがちょっと拙く、たまに英語を日本語直訳したような、ズレた言葉を発してしまう。


 ……だから今? うーん、まぁ以前から島で結婚とか言っているし、そういう本来の意味ではない翻訳ミス感覚の言葉なんだろう。



 あ、ちなみにだが、二階の俺の部屋から決死の覚悟で足湯の女性を楽しんだのは今回が初めてだからな。そこは絶対に誤解しないでもらいたい。


 慣れているように見えた? 


 それは紳士諸君自身の記憶を都合よく俺に重ねただけだろう。






「あ~きたきた社長~。早くお昼食べて駅の商業施設行こうって~」



 宿二階にある俺の部屋から一階にある食堂へ降りていくと、水着にロングコートを纏った女性が元気に手を振っている。


「悪い、ちょっとした外せない用事があってさ」


 俺は爽やかな風を吹かし、いつもの席に愛犬ベスを抱え座る。



 時刻はお昼前、食堂はお店の外まで行列が出来ていて大混雑中。


 この宿、有名な雑誌に特集組まれてからというもの、今まで以上に混むようになった。


 社員さんやアルバイトさんフル回転で対応しているが、ここまで影響がデカイとは思わなかったなぁ。



 異世界進出を目論んでいる紳士諸君、こっちに来たら手始めにうちでアルバイトなんてどうだろうか。


 お給料はかなりの高額を期待してくれて構わない。ソルートンには魔晶列車も開通したので、交通は便利になったし。


 しかも俺と同じ魂の兄弟である紳士諸君ならば、特別支給も毎月用意しよう。


 ……なに簡単さ、毎日凶悪な魔女とかから肉の壁となり命張って守ってくれるだけでいいんだ。


 とってもアットホームで笑いの絶えない職場だよ、と。



「社長さ~いい加減部屋の窓からエッロい目で足湯眺めるのやめたら~? たまに指さされてるよ~?」


 ぶっ……! うそだろおい。


 あんなに大興奮して窓から身を乗り出してこっっそり見ているってのに、どうして気付かれ……


「そんなに足見たいなら私の見ればいいじゃん~。ほら、以前大興奮状態の血走った目でベロンベロン舐めてきたじゃないか~あれはもうしないのかい~? あっはは~」


 ラビコがニヤッニヤしながら組んでいた長い足をエロい感じでなぞる。


 あれは初めて王都に行こうとしたけどお金がなくて、ラビコに借金しようとしたら覚悟を見せろとか言うから喜んで足を全力でお舐めしただけだっての。決して私欲じゃあない。


 ラビコは足が綺麗なんだよね。


 毎晩想像の世界でお世話になっています。



「ヒュー! ラビコ姉さーん最高っす!」

「たまには俺らとデートしましょうよー」


 近くの席に座っていた、突起付き肩ガードやら鉄のマスク等を装備したどこの荒廃した世界から飛び出してきたんだって見た目の世紀末覇者軍団がラビコのエロいポーズにヤンヤヤンヤの喝采。


 お前らいつもいるな……絶対ラビコとかロゼリィとかアプティとかクロのエロい体を見に来てんだろ……。あ、今は商売人であるアンリーナもいるか。


 アンリーナはエロいってより、可愛い、だろうか。まぁまだ俺より一個下の十五歳らしいし、年相応なスレンダースタイルだと思うぞ。



「あ~ごめんね~私ってばもう社長に毎晩欲のままにオモチャにされちゃってるから~社長無しには生きられない体にされてんのさ~あっはは~」


 水着魔女ラビコが最高の笑顔で嘘を言う。


 ……いや、半分当たり、か? 一人俺妄想劇でたまにそういうシチュエーションをエネルギーに頑張ったりしているし……ってこれを気付かれているってことは無いよね?



 それを聞いた世紀末覇者軍団が俺に向かって大ブーイング。


 やめろ……お前らの超低音ボイスはテーブルに乗った食器が動くんだよ、振動で。



「クソ……まーた俺をネタにからかいやがって……いいかラビコ、ハッキリ言うが、お前が来てから俺の世間体が地に落ちたんだからな」


「うっそ~? 二階の窓から身を乗り出して足湯を覗いてくる妖怪みたいなやつがいる~って噂は社長の単独犯でしょ~?」


 くっ……このクソ魔女、痛いところを突いてきやがる……。


 相変わらずラビコは頭の回転早くてアカン。俺みたいな純なヒヨコちゃんじゃあ勝てない。



「あの、危ないのでやめたほうがいいですよ……その、言ってくだされば私が……」


「ほらキング、前アタシの太ももが好きとか言ってたろ? いいぜぇ、キングにならいっくらでも見せてやンぞ。ニャッハハ! な、舐めるのは……人前じゃちょっと……」


「師匠、不特定の女性をそういう目で見ては犯罪に問われますわよ。ええ、つまり特定の女性、すでに結婚の契約書を交わした私ならばもう自由に、思うがまま、師匠の熱い想いをこの足にジュルリと……!」


 宿の娘ロゼリィが心配そうな顔で俺を覗き込み、猫耳フードのクロがゲラゲラ笑い、後半恥じらい。


 最後商売人アンリーナが細かな字がいっぱい書かれた紙を振り一人演劇を始める。


 ……つか、俺の足湯覗きってパーティーメンバーの皆さんにすら周知の事実なんですか……へぇ……。


 宿の売上に影響してもまずいし、もうやめるべきか……いや、もっと今まで以上に気を付けてこっそりやればいいだけの話か。


 なんだ、スキルアップで解決、じゃないか。


 俺天才。




「さ、さて……そろそろみんなで行こうじゃないか、駅に出来た大型商業施設にさ!」


 なぜか周囲のお客さんの目が悪い意味で俺に向いてきたので、話題を戻すことにする。お昼は諦めた。



 今から一週間ちょい前、ついにこの大陸の東端にある港街ソルートンに魔晶列車が開通。


 そして同時に駅直結の大型商業施設なんて、田舎には似つかわしくない豪華でオシャレな施設が出来たんだよね。


 俺たちが王都からソルートンに帰ってきた夜に、火の種族の蒸気モンスターであるアインエッセリオさんが訪れ、それ以降は彼女の配達業のお手伝いと、お店が雑誌に載ったことで混雑し、その対処に追われ時間が作れなかった。


 アインエッセリオさんは一週間で得たお金で魔晶石を買い、報告も含め一旦お仲間さんがいる火の国へ帰還。


 お店も新規で雇ったアルバイトさんがお仕事を覚え始め、だいぶ上手く回せるようになってきた。


 これなら大丈夫だろうと判断し、じゃあ大型商業施設に買い物に行こうか、というわけ。



「う~わ、誤魔化した~……ま、お店混んできたし、これ以上席の占拠は迷惑か~」


 ラビコが大混雑の店内を見回し立ち上がる。


「なンか施設内は若いカップルで溢れてるそうじゃねぇか。ニャッハハ、アタシたちも周りからそう見えちゃうンだろうな。な、キング!」


 猫耳フードのクロがニヤニヤと笑う。いや、二人で歩いていたらそうかもだが、さえない少年一人に女性五人じゃあ、姉弟かな、とかじゃねぇ。


 ああ、ここソルートンってひどく田舎でもないけど、そんなに遊べる施設は無いんだよね。


 ソルートンで初々しいカップルがデートに行く場所ったら海が見える港か砂浜か、中心部にある高級商店街ぐらいなもので、ちょっと選択肢が少なかったりする。


 この宿、ジゼリィ=アゼリィも有名になり、デートで来たんだろうなって二人組を結構見かけるようになったが。



「お任せください。もちろんそういう客層も見込み、しっかりと若いカップルが安価で楽しめるお店も多数誘致してありますわ」


 商売人アンリーナが商業施設のパンフレットを出し説明をしてくれる。


 施設に入ってくれるお店はアンリーナが世界を巡り集めてくれたそう。王都ならすぐに枠が埋まるだろうが、よくもこんな特徴のない港街に来てくれるように説得してくれたものだ。


 さすが、世界的に有名な企業『ローズ=ハイドランジェ』の次期代表様だぜ。



「…………」

 

 バニー娘アプティは無表情で興味なさげな感じ。


 ま、まぁ行けば何かあるかもしれないし、一緒に行こうぜ。



「その……噂で聞いたのですが、有名な冒険者で、世界の美の知識を極めた『美の伝道師』と呼ばれている方のお店も出来たとか……ぜひ行ってみたいです!」


 宿の娘ロゼリィが興奮気味に言うが、美の伝道師? なんだそのいかにもイカサマっぽい呼称は。


「あら、さすがロゼリィさんですね、情報がお早い。ええ、我がローズ=ハイドランジェと仲良くさせて頂いているお方ですので、お声をかけさせていただきました。乗り気で来ていただけたので、かなりの規模の展開をしているようですよ」


 商売人アンリーナがパンフレットの一箇所を指してくる。


 確かに他のお店に比べたら、かなりスペースが広い。


 美の……ってことは化粧品とかそういうの? 俺はあんま……興味ないかなぁ。でもロゼリィの笑顔が見れるならいいか。


 その、俺が個人的に大変興味あるエロ本屋とか、ないの? ない、ああそう……。



「ああ、そういやそこの宣伝チラシ来てたよ~ほら社長~見て見て~多分急に笑顔になると思うよ~? あっはは~」


 水着魔女ラビコが企んだ笑顔。


 はぁ? 美の伝道師のお店とか聞いても、俺の紳士センサーにはなーんにも……周囲の機影ゼロ状態……



「……ぉ、おお、ふ、ふーん……アンリーナ、その、この写真は宣伝用だろうけど、実際はどうなのかな? その、この露出の多い水着みたいな格好がマストなのかな……?」



 ラビコが笑顔で見せてきたチラシには、店内と思われる広いスペースでお美しい女性たちが体操みたいなポーズを取っている写真が載っていた。


 肌面積が超少ない水着を着て。


「ええ師匠。このように隠すことなく肌を多く露出させることで、誤魔化すことなくマイボディを鍛え、美スタイルを維持しましょうというコンセプトのお店ですわ」


 商売人アンリーナが説明をしてくれた。


 ほ、ほう……それはとても良い心がけのお店だ。これはイカサマじゃあないな、本物、これぞ本物の美を追い求める良店……!


 

「あ……あの……な、何を想像しているのですか……?」


 チラシに載っているビキニタイプっぽい水着を頭の中でロゼリィにコッラーーッジュ!


 素晴らしい……! 


 これはちょっと激しい動きをしようものならポロリと……!


「う~わ、社長がロゼリィの裸想像してる~!」


 え、ち、違うぞ! バカ言え、水着からこぼれ落ちる果実だから価値があるのであって、いきなり全裸はロマンがない……


「つかさ~私はいっつもこの写真みたく水着でほとんど裸状態なのにさ~な~んでロゼリィにばっか目線が行くかな~ラビコさん全っ然納得いかないんですけど~!」


 そう言い、キレたラビコが俺に飛びかかってくる。


 ちょ……! なんで怒ってんだよ! 


 確かに俺はロゼリィのとても大きなお胸様に視線がいくが、それと同じぐらいラビコやアプティやクロやアンリーナの体もじっくり見てんだぞ! 夜用に!



「や、やめろラビコ! なんでズボンに手をかけてくるんだよ……!」


「ほ~ら超反応してるし~! 毎日ヤリてぇとか言ってるくせにさ~どうして周りの女に手を出さないのかな~! ずっと待ってるのにさ~!」


 誰が毎日ヤリてぇとか……俺はそんなこと一言も漏らしたことねぇよ! 心の中では毎日思ってるけどな!


 ラビコが俺のズボンに手を突っ込んで……って、おいこら!


 ……だめだ、ここにいたら、まーたラビコに面白最優先のおもちゃにされてしまう。



「くそっ……アンリーナ、馬車を呼んでくれ! 商業施設に向かう!」


「ラビコ様、私も触りた……あ、師匠、はい分かりましたわ」


 俺はなんとかラビコを振り切り、商売人アンリーナに馬車を呼ぶよう指示。



「行くぞ、いざソルートン駅直結の大型商業施設へ! ロゼリィ、ラビコ、アプティ、アンリーナ、クロ、俺についてこい!」


「は、はい! これってデートですよね? そういうお誘いですよね? ふふ、嬉しいです……あ、そのお尻……」


「ちょっと触れた……。デートね~、このラビコさんを尻丸出しで誘える男なんて社長だけなんだって、しっかり理解して欲しいんですけど~」


「……マスター、お尻、出ています……」


「ヌフ……師匠、実は商業施設にはホテルもありまして、毎晩若い二人が何組も楽しげに利用されているようですわ。それより師匠、お尻が……」


「ってもここもホテルみたいなもンだろ? はたから見りゃあアタシたちは毎日ホテルでデートしてるって思われてンじゃねぇの? おうキング、ケツ出てんぞ。ニャッハハ」



 これ以上混雑する食堂でやりとりしていたら、まーた俺の世間体がレッドゾーンに突入してしまうので、俺は最高に格好良く宿の入口をこれから魔王討伐に向かう勇者がごとく指した。



 ……のだが、宿の入口近くの大きな鏡に映る我が姿は、ずり落ちたズボンから綺麗に半ケツが出ている状態で女性をデートに誘う変態君だった。


 ラビコの手を無理矢理振り切ったときに、どうやらこうなったらしい。






 ──後日談になるが、しばらく俺はお尻を出して女性を誘うマンとして有名になり、その噂を聞きつけた街の警備の騎士が来たり来なかったりとかした。


 権力持ちのラビコがにこやかにサインをあげたりして誤魔化してたが、俺が半ケツになった原因、お前だよな?








異世界転生したら犬のほうが強かったんだが


「十四章 異世界転生したら魔晶列車が開通したんだが」 


    ── 完 ──














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