第555話 魔晶列車ソルートン延伸 8 もうすぐソルートンだけど欲まっしぐら様




「皆さま、フォレステイに到着となります。いつもならここで降りまして、ソルートン行きの馬車を手配するところですが……今回我々は降車いたしません。ええ、なぜなら線路はソルートンまで伸びているからです!」



 昨日の午前十一時過ぎに王都を出て二十四時間、俺たちが乗る特急列車はフォレステイという街に到着した。


 列車最後尾にあるロイヤル部屋に皆集まり車窓の景色を楽しむ。


 商売人アンリーナが高らかに宣言した通り、いつもなら東の終着駅だったフォレステイ駅で降りるので何か不思議な感じだ。


 本当に繋がったんだなぁ、線路。 




「さぁ、ここからは未知の領域! フォレステイからソルートンまでの車窓の景色を世界で初めて目撃する我々は後世の子供たちにこの感動を伝える義務があるのです! そしてそのためには伝える子供を誕生させる必要がありまして、昨夜は失敗しましたが今度こそ男女のアレを師匠とこういう感じで……」


 アンリーナが大興奮で吼え、逃げようとした宿の娘ロゼリィを捕まえ妄想ロマンスナイトを熱演し始めたのでもう話を聞かなくていいや。


 昨夜の失敗ってなんだろう。


 まぁいいか。




 クマさんズはあれから列車内で暴れたとかの報告はないので、どこかの駅でおとなしく降りたのだろう。


 しかし……最初は一匹だったのに、気が付いたら四匹になっていたなぁ。


 多分彼らは異世界から来た着ぐるみ族系だと思うが、本当に困っているのなら今度ちゃんと話を聞きたいな。


 でもクマさんズ、戦闘能力がやたら高くて喧嘩っ早いから、あまりまともに話が出来ていないんだよね……。


 愛犬はなぜか応戦してくれないし、バニー娘アプティが側にいないと抑えられそうにないのが問題点か。




「こ、こんにちは、僕はアーリーガル=パフォーマといいます」


「…………」



「その、気軽にリーガルとお呼び下さい。ペルセフォス国内の暗い場所でしたら大体ご案内出来ますので、今度どうでしょう」


「………………」



「はは……いやぁ会うたびに思っていましたが、お美しいですよね。僕は独り身でして、新たな出会いに飢えていたりして……」


「……………………………………」



 なんだこの気持ち悪いトークは、と振り返ると、イケメン騎士アーリーガルが必死に俺の横にいる無表情バニー娘アプティを口説こうとしている最中だった。


 は? 何してんだテメェ。


 イケメンすぎて頭狂ったか?



「何か贈り物などを検討しているのですが、どういった物が好みなのでしょうか。苦手な物はありますか? あるなら事前に言って下されば助かるのですが」


「………………………………………………」


 取り付く島も無い感じでアプティさんイケメントークをド無視。



 何してんだリーガルは。お前はサーズ姫様一筋じゃあねぇのかよ。


 ……もしやバニー衣装のおかげでいつも半分ぐらい見えているアプティの綺麗なお尻の形に惚れたのか? 


 そういやこいつ、女性のお尻に尋常じゃない反応示すからなぁ。


 いや、以前俺のお尻もいい……とかふざけたことぬかしていたな。


 うーん、ちょっと……キモいな。


 親友だとは思うけど……キモいな。


 キモい系は銀の妖狐とかいうアプティのお兄さんだけで間に合っているし、似たようなキャラ付けは安易だぞ、リーガル。



「もう少しです、頑張って下さいアーリーガルさん! 早くその女の弱点を聞き出しちゃってください!」


「よし、いいぞ。一時間だ、私が一時間たっぷり楽しめる足止め法を入手するんだ」


 少し離れた位置にいる騎士ハイラがメモ帳片手にイケメンナンパを応援し、さらにその後ろでサーズ姫様がじーーっと様子を見ているが……なんだろうこの状況。


 まぁいい、俺とは格違いイケメン様の女性の誘い方、なんてものを間近で見れるチャンスはそうそう無いからな、ちょっと観察させてもらうか。


 俺のアプティに少しでも触ろうとしたらブン殴るけど。



 えーと名乗って自分の得意分野教えて誘って、容姿を褒めて、さりげなく自分が独り身で彼女いないアピール。そして贈り物作戦にいくわけか。


 ふぅん、そういう手順が攻略法なのか。


 でもどうせあれだろ? でっかく注釈がついて『ただしイケメンに限る』なんだろ? 


 このアーリーガル=パフォーマという男、マジで王子みてぇにイケメンなんだよな。普通に歯を光らせて笑うし、背景にイケメンキラキラエフェクトが出てくるし……うーん、参考にならんな。


 でもとりあえず試しにやってみるか。



「やぁ、俺だ。愛犬のかわいいポイントなら瞬時に十個は言えるぞ。一緒にベスを褒めてみるかい? ああ、クロって太もも綺麗だよな。俺、夜に一人で想像するエロい太ももに飢えていてさ、今度なんか奢るから写真超接写していい?」


 大股広げて座り、暇そうにパンパン足の裏同士をつけたり離したりしていた猫耳フードのクロに実践してみた。


 しゃがんでカメラ構えるポーズをとり、ニヤニヤとねっとり笑ってみたが……あれ、おかしいな、なんか一発で嫌われそうな発言と即逮捕犯罪者ポーズになったぞ。


「ニャ? ふ、太ももォ? あァ? なンだよキング、最近はアタシの太もも想像して頑張ってたのかよ! ニャッハハ! ったくよォ言えよ、キングにならこんなもンいくらでも見せてやンぞ!」


 クロが目を見開いて驚き、長い足をガバっと開きカニのように勢いよく俺の首挟んでくる。


 ぐぇぇ、く、苦しい……! けど柔らかい……クロの太もも様はとても柔らかくていい香りがするんだけど、マジで首絞められ……むごふぁあああ!



「ぶふっ、あっはは~もうすぐソルートンに魔晶列車が着くっていう歴史に残るような瞬間だってのに~なんなのこのそれぞれの欲にまっしぐらな状況は~。あと社長ド変態すぎ~あっはは!」


 窓際の固定テーブルに酒並べてご満悦状態だった水着魔女ラビコが、この部屋の状況を見て大爆笑。


 確かに商売人アンリーナはいまだ嫌がるロゼリィ捕まえて何かエロ寸劇やっているし、イケメン騎士アーリーガルは必死にアプティ口説いているし、俺はクロに蟹挟み食らっているけど、なんで俺だけ名指しでド変態とか言うんだよ!


 アーリーガルくんだって、男女どっちもOKお尻スキーとかいう結構な変態さんなんだぞ!


 夜の一人DEハッスル用にエロい写真が欲しいからクロの太もも超接写させて、発言は……うん、変態さんが言うセリフだ。



 おかしいな、イケメンの言葉を俺なりに忠実になぞってみたんだがな……。



 そしてたいして車窓も見ずにソルートンに着きそうなんだけど、これで良かったのかね、第一号特別記念列車……。











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