第551話 魔晶列車ソルートン延伸 4 ペルセフォス組VS魔女・バニー娘様




「て、てめぇなにドサクサでマジ告白してんだよ! ダメかな……じゃねぇよこのクソ変態姫!」




 記念すべき王都発ソルートン行きの第一号魔晶列車がついに出発。


 俺たちはサーズ姫様のはからいで列車最後尾のロイヤル部屋に乗っている。まぁいつもこの部屋は豪華なのだが、今回はサーズ姫様が乗るということで、いつも以上に内装がいじられ王族仕様に改造されている感じ。


 備え付けの椅子やらベッドやらが変えられていて、相当な高級品が使われている模様。



 そのかなりお高そうな椅子に座りお酒を飲んでいた水着魔女ラビコが急に激昂し、熱の入ったお話をしていたサーズ姫様に飛びかかっていく。


 ああ……椅子がガツンとかでかい音出して倒れたけど、修理費とか俺持ちになったりしないよな……。




「ちっ……やはりまだ時間が早かったか。夜のいい感じの雰囲気のとき、魔女の始末を終えてからじっくり攻めるべきだった。アーリーガル=パフォーマ、例の物を至急魔女に差し出せ」


 飛びかかってきた水着魔女ラビコと取っ組み合いになったサーズ姫様が、さっきまでのニコニコ笑顔お姫様スタイルを崩し嫌な顔で舌打ち。


「はっ! さて私の懐から取り出したるはペルセフォス王国が誇る奇跡の高級酒。一滴飲むだけで全身に快楽を得られ手放せなくなり、楽しい夢だけを朝まで見続けられるという素晴らしいお酒。ただし、引き換えにちょっと……」


「知ってるよ! 記憶が曖昧になるんだろ~! それもうお酒とかの区分じゃなくて相手を無力化させる薬だろ! 宿にいるローエンが専門のジャンルだよ!」



 サーズ姫様の背後から音もなく現れたのは、ペルセフォスで一番と言われる隠密騎士アーリーガル=パフォーマ君。


 お前この列車に乗ってたのかよ! 全く気が付かなかったぞ、さすが隠密……つーか、お前ずーっと隠れながらサーズ姫様のお尻見てたろ。くそ……うらやま……。



 ああ、俺カメラ持ってるんだった。次からはこいつにカメラ持たして、勤務中に俺好みのアングルでサーズ姫様のお尻の写真を撮ってもらうか。


 見つかったら完全に盗撮犯だけど。


 でもまぁコイツ見た目が超のつくイケメンだし、イケメンは何しても許されるだろ。捕まっても俺の名前だけゲロんなきゃ大丈夫。


 俺だけは無事。



「いえ、正真正銘お酒ですラビコ様。ほら、きちんとペルセフォス王国承認マークがありますから、本物のお酒です。ただまぁ……さすがに危険なので一般流通はしていないですけど」


 もうすぐ単独犯罪者のリーガルが懐から取り出した良い感じの人肌に温まったお酒の瓶を出すが、ラビコが余計激怒。


 あれ確かデューエルブとかいうお酒で、以前サーズ姫様がソルートンに来てくれたときにも出していたよな。


 飲んだラビコが前後不覚になるぐらいベロッベロに酔っ払っていた気がするけど。


 うん、あの酔い方はお酒レベルじゃあなかった。ラビコが言うように、薬盛られた、に近かったなぁ。


 ……そしてイケメンとはいえ、男の人肌酒は飲みたくねぇ。



「うるせ~よ! そんな酒そこらで売ってたら危ないだろうが! 危険度分かってて流通制限してんだろ! 社長と二人っきりで、社長が懐から出してくれたのなら喜んで飲むけど~」


 リーガルから酒瓶を取り上げ、ラビコがチラチラと俺を見てくる。


 男女が二人っきりの状況で、例えいい雰囲気だったとしても、相手の男がフッと微笑みスッとデカイ酒瓶を懐から出してきたら普通ドン引きだろ。


 それ男が女性をただの飲み相手としか認識してねぇだろ。指輪だったらまだしも。


 いや待てよ、酔ったところを勢いで系のアレの可能性も……って未成年の俺が何の想像してんだ。無駄な思考した。



「ちっ……二度目はだめか。ハイライン=ベクトール、例の薬を」


「はいー、もう使っていいんですか? いっきますっよぉ……」


 サーズ姫様が再度舌打ち。


 ハイラが指示を受け、なんか太い筒状の物を構え分厚い布を口元に巻き出した。


 え、ちょ……今はっきり薬って、……しかも何そのマスクみたいの。


 これアカン!



「アプティ! ハイラからあれを取り上げろ!」


 俺が焦った感じで叫ぶと、紅茶を入れ直していたバニー娘アプティがビュンと視界から消えハイラを羽交い締めにする。



「……その程度の物で私は眠りません……マスターからの指示です……冷めた紅茶を、どうぞ……」


「いたたっ! んひぃ……わ、私この人苦手ですぅ! ……うぷわぁ!」


 バニー娘アプティがハイラの持っていたクソ怪しい筒を取り上げ、無理矢理冷めた紅茶を飲ませる。


 え、いや、紅茶飲ませろとかそういう指示はしてねぇけども。





「いやーすまない、場を盛り上げようとちょっとした演技で余興のつもりだったんだ、はは」


 とりあえず全員に落ち着いてもらい、アプティに紅茶を入れてもらう。


「うそつけ……マジでヤるつもりだったろ~が」


 サーズ姫様が笑顔で謝ってくれたが、ラビコは不満顔。


 さっきのが演技、には俺も見えなかったなぁ……。



「……やはり愛を成就させるには、そちらの女性をどうにかしないとですわね……」


 防毒マスクみてぇなゴツイ器具を顔から外した商売人アンリーナが、チラとアプティを睨む。


 え、ちょなんでそんな物用意してあんのアンリーナさん。もしかして事前にサーズ姫様たちと何か話合ってた……?



 そしてまだ王都を出発してすぐの、お昼も食べ終わっていない状態でこれか……。


 王都からソルートンまでってどのぐらい時間かかるか聞いていないが、果たして俺の身は持つのだろうか。



 もうすでにお腹いっぱい状態のトラブル満載旅行、スタート……。









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