第548話 魔晶列車ソルートン延伸 1 豪華出発記念式典様




「この素晴らしき日に皆様と共に喜びを分かち合えることを嬉しく思います。魔晶列車の延伸、これは一定の安全性が確保が出来なければ不可能な難易度の高い事業。それを今このときに達成出来た。つまり今この国はそれだけの対抗手段を得た、ということなのです」



 午前十時、ペルセフォス王都駅前の広大な公園に作られた豪華なステージ上で、現国王であられるフォウティア様の演説が始まった。



 客席は満席どころか、見渡す限り人人人。


 そりゃあ自分が住んでいる国の王族様が見られるっていうのなら、列車に興味が無くても来てしまうよな。


 実際今演説をしているフォウティア様しかり、その横にいらっしゃるサーズ姫様しかり、見た目が大変お美しい方々だし、金払ってでも間近で見たいってのは理解できる。




「今ペルセフォスは動いている、皆様もそう感じているのではないでしょうか。今から十年前、無名だった彼らはソルートンという街を発ち、世界各地で激闘を繰り広げ蒸気モンスターを撃破。彼らの命を懸けた五年間という活動は世界に名を馳せ、ペルセフォスのみならず世界の人々に生きる希望と活力と笑顔を与えてくれた。そしてついに今日、彼らのホームであるソルートンへと繋がる魔晶列車が完成となり、国として、いえ、この世界に生きる者としてわずかかもしれませんが彼らに感謝の気持ちを表せたのではないでしょうか」



 今回の魔晶列車延伸。


 きっかけはこの王都にカフェ ジゼリィ=アゼリィが出来てからというもの毎日のようにお城に届く、本店があるという港街ソルートンへ安全に行ける交通手段の確保をして欲しいという国民の声。


 それにサーズ姫様が応えようと動き、商売人アンリーナがそれを知り多額の援助をしてくれたから出来たことらしい。


 アンリーナ側、ローズ=ハイドランジェという会社としても港街ソルートンまでは船で運び、そこから魔晶列車で大量の荷物を王都に迅速安全確実に届けることが出来るというのは、喉から手が出るほど欲しかったルートなのかな。


 

「そしてパーティー解散以降もこのペルセフォス王国の為に尽力し、各地で多くの命を救ってくれた我が国が誇る大魔法使いラビィコール、彼女なくして魔晶列車延伸は成し得なかったでしょう! 今日の式典にはそのラビィコール本人が来てくれています、さぁ英雄よ、こちらへ!」



「いや~すっごい集まっているね~。どうだい~この大魔法使いラビコ様の放つ英雄オーラと美貌は~? 前の席の紳士淑女共~お高い代金を支払った価値はあっただろ~? あっはは~」


 国王フォウティア様から紹介され、水着にロングコートといういつものスタイルのラビコが登場。


 ニコニコと手を振り愛想を振りまくが、なんだよ、結構ノリノリじゃねぇかあの魔女。



 自分で言うのもなんだが、一応今回の魔晶列車延伸は俺がソルートンで銀の妖狐をぶん殴っておっ返したりしたとかの結果が一因なのだが、俺の持つ目の力は公表しないほうがいいとサーズ姫様とラビコが決め、今までの俺の活躍はラビコがやったこと、となっている。


 なのでこの式典ではルナリアの勇者たちの活躍含め、パーティー解散以降のラビコの成した偉業を讃え、的なまとめになったそうだ。


 ラビコは世界で通じるクラスの有名人。


 自国に所属しているその有名人が活躍しました、結果魔晶列車が延伸となりました、とすれば国民も納得するだろうし、盛り上がりやすいだろうとのこと。


 俺は別に有名になりたいわけじゃあないし、国王であられるフォウティア様も理解し配慮してくれたことに感謝。




「英雄さん英雄さん、お時間があったら今度僕とも遊んでくださいね。お話しをいっぱい聞きたいです」


 俺たちは王族の皆様のご厚意でステージ裏から式典を見ているのだが、俺の席の横に小さめの椅子をトンと置き、見た目九歳ぐらいの男の子がニコニコと話しかけてくるが誰……ってこの御方は歳が達せば王位を継ぐと言われているペルセフォス王族のリュウル様じゃないですか!


 足元で寝ている愛犬ベスの頭を楽しそうに撫でているが、なんでこの子こんなに俺に懐いているんだろうか。全く覚えがない。


 以前も俺に魔法を教えて下さいね、とか言われて困った記憶があるなぁ。うん、だって俺魔法全く使えないし。


 多分姉であるサーズ姫様からあれやこれやと極大解釈したような英雄譚を聞かされて俺に対して夢を膨らませてしまったんだろうが、何度も言って申し訳ないですが俺はリュウル様が思い描くような立派な英雄なんかではなく、どこにでもいる魔法すらまともに使えない街の人なんですって。


 目の力に関しては、教えられるものでもないだろうしなぁ。



 ……しかしこの子にはサーズ姫様のおパンツ様を貰ったという大恩がある。


 今後も仲良くしていけば、今度はサーズ姫様のおブラ様を持ってきてくれるかもしれない。


 この子、大事。



「はい、もちろんいいですよリュウル様。僕はこの世界が平和になって欲しいと思い行動しています。しかし僕一人では出来ないことも、こうして心強い仲間がいれば不可能を可能に変えてしまえるのです。リュウル様も心から信頼出来る仲間を、喜びも悲しみも分かち合えるような友を見つけて欲しいと思います」


 なんだこのどっかから取ってきたような長セリフ。


 驚くことにこれをアイドルスマイルで言ったのは、俺。


 だってサーズ姫様の下着セットが欲しいんだもん。


「分かりました! さすが英雄さんですね、己一人の狭い視野の力に頼るのではなく、仲間を、友を信じ、ときに頼りその視野を広げろということでしょうか。そうですよね、リーダーというものは一人ではなることが出来ない、仲間が、信じて付いてきてくれる友がいるからこそ成り立つものなんですよね。僕もいつか王位を継ぐ身、国民の声をしっかり聞き、国民に信じてもらえるようなリーダーを目指したいと思います!」


 リュウル様がキラキラとした綺麗な瞳で俺の言葉に返してくれたが、俺別にペルセフォスの王とは、みたいなお話はしていないっスよ。


 要約すると、以前もらったサーズ姫様のおパンツ様は鬼神ロゼリィに取り上げられてしまったので、鬼を倒しおパンツ様を取り返せる強力な武器か新たにお宝を俺にくださいってことです。



「ふふ」


 俺とリュウル様のやりとりを後ろの席に座っているロゼリィが優しい笑顔で見守ってくれているのだが、仲の良い兄と弟の会話にでも見えているのだろうか。



 ──リュウル様が俺の心を読めるテレパスメンなら感じ取ってくれているはず、俺の強いサーズ姫様の例のブツをお願いします念波を。







「それではサーズ、向こうでの式典はお任せしますね。それといくら逃げ場のない列車の中だといっても彼に無茶な迫りかたをしてはだめですよ」


 俺がなんだか懐いてくるリュウル様のお相手をしていたら長い式典も終わり、駅へ移動。



 式典後半はサーズ姫様のお話だったり、有料チケットを購入した人限定での抽選があり、当たった人はステージに上がりフォウティア様、サーズ姫様、ラビコの三人と記念撮影が出来るという豪華なものだった。



 すでに記念列車がホームに止まっていて、列車最後尾のロイヤル部屋がある車両付近は関係者のみでのお見送り。


 前のほうの車両は記念の列車ということでかなりお高めのチケットになっているらしいが、サーズ姫様にラビコ様と同じ列車に乗れるというプレミアで申込みが殺到したとか。



 フォウティア様がサーズ姫様に小声で何か伝えているが、多分王族としての向こうでの振る舞いや心構えをお教えしたのだろう。



「旦那ー! また王都に来てくださいよー! やっぱ旦那がいると安心感が違うんすよ!」


「アンリーナ様、お店のことはお任せ下さい! あと本当にこのお店のメンバーに抜擢いただきありがとうございました。もう毎日が楽しすぎて幸せです!」


 俺の関係者ということでカフェ ジゼリィ=アゼリィのスタッフのみんなもホームに入ることを許されていて、筋肉モリモリシェフのシュレドとローズ=ハイドランジェ側の社員であるナルアージュさんがニコニコと手を振ってくれている。


 気のせいかシュレドとナルアージュさんの距離感が近くなっているような……。



「胸元くーん! 魔晶列車が通ったってことは今度からは気楽に王都に来れるよねー! 次はちゃんと私たちとデートしてよねー!」


「え、ちょアリーシャ……! む、胸元くん、また王都に来てね。あ、そうか、列車で行けるってことはこっちからソルートンに行けばいいんじゃ……」 


 お店のアルバイトをしてくれている騎士学校に通う学生二人、アリーシャとロージも来てくれている。


 デ、デート? そんな約束したっけか?


 騎士学校に通う隙間をぬってお店を手伝ってくれているから、そのお礼は今度キチンとするけど、君らは騎士を目指す学生なんだということを忘れないでくれよ。


 なにやらサーズ姫様のお時間があるときに指導をしていてくれたみたいで、成績がかなり伸びているらしいし。ぜひそのまま優秀な成績を引っさげ学校を卒業し騎士となり、いつかサーズ姫様の隣に当たり前にいるような存在になってくれ。




「うむ、ついにソルートン行きの魔晶列車が動き出すぞ。この歴史的な列車に君と一緒に乗れるというのは一生の自慢になりそうだよ、はは」


 サーズ姫様がにこやかに俺に近付いてきて握手を求めてくるが、いえ逆ですって。こんな素晴らしい記念の列車にサーズ姫様と一緒に乗れたって、俺のほうが一生自慢できるって話ですって。


「むにゃぁ……眠いです先生ぇ……列車に乗った瞬間目覚ましの男女のアレをお願いしますぅ」


 騎士ハイラがフラフラと体を揺らし、俺にもたれかかってくる。


 そういや式典の間もハイラはサーズ姫様の横に警備で立っていたのだが、下を向いてガクンガクンしていたな……。


 まぁ、相当今回のソルートン行きの列車に乗るために仕事を詰めたらしいしなぁ。


「ほぅ、この列車にはそういうサービスがあるのか。それでは私もお願いしようかな。ラビィコールが仕事を手助けをしてくれたからだいぶ楽ではあったが、それでも疲労を回復させる時間までは取れなくてな、はは」


 ハイラの話を聞いていたサーズ姫様もそう言いもたれかかってくる。


 表面上サーズ姫様は平静を保ってはいるがやはり体力的に相当削られたらしく、細かな体の動きにいつものキレがない。


「だ~から、ここはまだ人目が多いホームなんだって忘れんなっての~」


 サーズ姫様にツッコミを入れるラビコもさすがに連日の徹夜のお仕事でお疲れのようで、フラフラしている感じ。


 

「おっと、そうだったな……疲れで気が焦っていたようだ。列車に乗ってしまえば逃げ出すことの出来ない密室空間。登場人物は想いを寄せ合う若い男女……当然巻き起こるトラブルに乗じて『結果強い子が作戦』を決行……このステージを用意する為に我々は頑張ったのだ!」


「準備は万端ですサーズ様。しかしだいぶ体力の限界が近いようなので、無理はなさらないようにお願いします……」


 サーズ姫様がフラフラしながらも拳を振り上げ吼える。


 作戦? いや、サーズ姫様たちが頑張ったのは、ソルートン行きの列車に乗るためにお仕事を詰めたことなんじゃ……ってサーズ姫様の後ろにいるの隠密騎士アーリーガルじゃねぇか、どっから出てきたお前。












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