第547話 ラビコの加勢と式典当日の朝のお化粧講座様
「あと魔晶列車延伸の決め手になったのが人口の増加、だな。おや、そんなに慌てて隠さなくてもいいんだぞ……むむ、見えないのだがなシュレド殿、はは」
サーズ姫様の説明の途中で現れた商売人アンリーナ。
なにやら今回の魔晶列車延伸に多額の投資をしたとか。
それはもう素晴らしいお話だし、よくぞ決断してくれた、なのだが、なんでその真面目なお話の最中に俺は下半身モロ出しマンになっているのか。
いや違うぞ、俺自ら脱いだわけじゃないぞ! そこはしっかり話の流れを確認してくれ。じゃないと俺はペルセフォス王国のお姫様の前で興奮が抑えきれずにハァハァ露出マンになってしまったことになる。
「だ、旦那……む、無理っス! 早くして欲しいっス! じゃないと俺の命が……!」
いきなりアンリーナにジャージのズボンを降ろされ、映像が広大なアフリカの大地を悠々と歩く象に切り替わり紳士諸君は驚いただろうが、俺は部屋にいた唯一の男性、見た目が俺より強いやつに会いに行くマン、このお店の店長を任せているシュレドの後ろに隠れズボンを一気に引き上げる。
部屋にいる女性陣の強めの視線をシュレドに遮ってもらっているのだが、こいつ見た目筋肉ガッツマンのくせに何を涙目でおどおどしてんだよ。
って冒頭のセリフを言いながら、この国の王族様であられるサーズ姫様が迫ってきているのか。
確かに世間的な身分差は果てしないが、俺はここのオーナー代理の立場なんだから、せめてカフェの中にいるあいだぐらいはローカルルールに則って雇い主ポジの俺を守れよ!
つかサーズ姫様も面白いからってアンリーナとハイラの悪乗りに乗っからないで下さいよ。
「ちっ……おっと、大変な熱気と盛り上がりを見せる中、無情にもお昼休憩が終わりか。話が途中になってしまったが、今回の魔晶列車延伸の中心にいるのは君だということだ。この偉業を盛大に世界に知らしめたいところだが、君の持つ力の関係上それが出来ないのが大変もどかしいよ、はは」
完璧にズボンの装備を完了した俺に軽く舌打ちをしたサーズ姫様がゆっくり歩き、俺の顎をクイっと持ち上げる。
「おそらく世間的には君の代わりに名前を出したラビィコールの成した偉業と称えられるのだろう。ペルセフォス国民からの数多くの感謝の気持ちが君に届くことはないのかもしれない。だが、ここにいる君と心を通わせた友は全員君が成したことを知っている。私は約束しよう、万人の賛美にも負けない感謝の想いを君に、いや君の体に直接私の想いを……そして結果強い子が……むぐぅっ!」
「分かったからもう私欲まみれの変態姫は帰れっての~」
サーズ姫様が両手で俺の顔をがっつり固定し、少し紅潮させた顔を近付けてきたところでラビコの手がニュンと伸びてきてサーズ姫様のお顔を鷲掴む。
「……来週のソルートン行きの記念列車には絶対に乗らなきゃいけないんだろ~? 今日からは私も手伝ってやるから残ってる仕事さっさと終わらせろよな~。第一号列車出発記念の式典に主催者がいないとか笑えないんですけど~。世間に公表しない真の功労者であるうちの社長を祝えるのは私達だけなんだから~しっかり参加して社長の気分を満足させるように~」
俺の目の力は『今の時代には過ぎた力』としてサーズ姫様とラビコが世間には公表しないと決め、俺を守ってくれている。その配慮には本当に感謝しています。
「はは、私の聞き違いかな? 今まで何度も国依頼の仕事をわがまま言って蹴ってきた、あのラビィコールが私の仕事を手伝うと聞こえたが?」
「うっせ~言ったよ、やるったらやるっての~。……社長がいるのに一週間ほとんど顔見せないとかさ~どんだけ寝ないで仕事してんだ。ほら行くぞ~さっさとしろ~。うちの社長の晴れ舞台をつまんない仕事があって祝えませんでしたとか、絶対に許さないからな~」
そう言うと、ラビコがサーズ姫様とハイラの腕を引っ張り部屋を出ていく。
「数分は寝ているさ。しかしおかげで肌荒れが顕著でな、はは……」
「あ、いえ私は大丈夫ですよラビコ様! 今抱えているお仕事全部ブン投げたほうが、早く騎士をクビになれますし、そうしたら私はすぐに先生の愛人としてソルートンに……いたた、いたいですラビコ様ぁ……」
「い、行ってしまいましたね……」
宿の娘ロゼリィが何が起きたのか理解出来ない顔をしながら、騒がしく部屋を出ていった三人を目で追う。
「まぁ……俺もてっきりハイラあたりが毎晩部屋に来るんだろうと思っていたけど、全く来なかったからな。よっぽどキツイ状況だったんだろうな……あとアンリーナもか。俺の知らないところで相当動いていたみたいだし、疲れただろうし辛かっただろ。よく頑張ったな、アンリーナ」
サーズ姫様やハイラも大変だっただろうが、商売人であるアンリーナも魔晶列車延伸を支援すると決め世界を飛び回っていたみたいだし。
俺はアンリーナの頭を優しく撫でる。
「フ、フォオオオオオオ! そうです、そうなのです! アンリーナは頑張りました! ああ、師匠のこの優しい温もり……帰るべき場所が出来た、というのはこのことなのですわね……」
アンリーナが俺の胸に顔をうずめ、やっとさっきまで張っていた肩の力を抜く。
──それから一週間後、快晴のペルセフォス王都。
「すごいな、駅周辺がお祭りみたいになってんぞ」
朝八時、俺たちはお城から駅へ向かおうと歩くが、その道中に屋台がズラリと並び仕込み中らしき美味しそうな香りが漂ってくる。
このあと午前十時からペルセフォス王都駅の前にある大きな公園で魔晶列車開通記念式典が行われるのだが、その周辺全てがこんな感じでお祭りのような雰囲気になっているそう。
まだだいぶ早い時間だけど、この盛り上がっている雰囲気を味わおうとかなりの数の王都民が駅周辺に集まり始めている。
式典にはお客さん用の観覧席が開放され、ステージ近くの有料チケットが先行販売されたが即日完売。
緊急で席を増やし、このあと午前九時から当日券として販売されるそうだが、それを求める王都民で駅周辺が大混雑しているみたい。
聞くと、駅前の公園にはそのプラチナチケットを求め深夜から並んでいる人もいるとか。
日本感覚で言うと、新年のお得な福袋販売を求め百貨店や家電量販店に前日から並ぶ雰囲気に近いだろうか。もはや並ぶことすらイベントとして楽しむ感じ。
座る席は用意されていないが無料のスペースもあって、かなりステージからは離れた位置にはなるが目を凝らせば豆ぐらいの大きさの現国王であられるフォウティア様やサーズ姫様のお姿が見られるぞ。
そう、式典は魔晶列車の延伸での盛り上がりもあるのだが、この国の名を背負いし高貴な血統、フォウティア様やサーズ姫様のお姿が見られると王都民が公園付近に殺到しているとか。
あと一昨日、港街ソルートンを銀の妖狐の襲撃から守りその後も各地で蒸気モンスターを撃破し魔晶列車延伸の立役者となった大魔法使いラビィコールが式典に参加決定、と大々的に発表された。
ラビコは今まで滅多に国主催の式典に出ることがなく、それが間近で見れる、とその効果もあってかチケットがバカ売れだとか。
相変わらずラビコは王都での人気がすげぇのな。
近くで見ていると、ただのわがままグータラ魔女なんだがね。……ああ、いつも水着でエロさは満点である。
「天気にも恵まれましたし、素晴らしい式典になりそうですわね。式典の盛り上がりもすごいのですが、このあと販売される魔晶列車ソルートン延伸記念の限定品を取り扱うローズ=ハイドランジェのお店前にも多くのお客様が並ばれているとか。ありがたいことですわ」
隣を歩く商売人アンリーナがニッコリ笑顔でカタログを見せてくれた。
王族公認マーク&式典のロゴ入り公式限定グッズとして販売されるのか、それは欲しい人にはたまらんレアグッズだろうなぁ。
えーとロゴ入り化粧品、シャンプー、アクセサリー小物など、かなり手広く販売するんだな……ってこのキーホルダー的なアイテムに付いているガラス玉、銀の妖狐の島で作られていた物によく似ているんだが……まさかな……。
「見てください! 事前にアンリーナさんのサイン入りで記念の化粧品セットを貰っちゃったんです! ああ、もうパッケージからして美しいです……使うのがもったいないぐらい……ええ、これは一生飾っておきましょう! 記念品ですし!」
宿の娘ロゼリィが満面笑顔で俺の左腕に絡み、このあと販売されるであろう化粧品セットを見せてくる。
うむ、綺麗な紅色に塗装された入れ物の化粧水やら口紅やらが入ったセットだぞ。男の俺でも記念に欲しいレベルの出来。
「これスゲェよな。アタシも見た目をキング好みの女に仕立てられて以降、化粧品には興味あってよぉ。やっぱ質はアンリーナのとこが一番って感じだからよ、高級なローズ=ハイドランジェ製の化粧品を貰えるのはありがてぇぜ、ニャッハハ」
猫耳フードをかぶったクロも肩で風を切るヤンキー歩きで俺に近付き、アンリーナに貰ったらしい化粧品セットを見せてくる。ロゼリィのはまだ未開封だったが、こっちはすでに開封済みか。
クロは見た目すげぇお美人様なのだが、髪はボッサボサの化粧もほとんどしていない天然ヤンキー少女だったので以前いわゆる美容院とやらに連れて行ったことがあるが、別に俺の好みに仕上げてもらったわけじゃねぇって。
お前はもともと綺麗な顔立ちしてんだよ。さすが王族様……ってクロは見た目と言動と性根がドの付くヤンキーなんだけど、その正体は魔法の国セレスティアのお姫様なんだよね。
そのセレスティア王国に代々伝わるらしい国宝、オウセントマリアリブラという魔法の本を触ったときに見えた映像に出てきた女性マリア=セレスティアさん、その人にそっくりだったからそれっぽく店員さんに仕上げてもらっただけの話。
「……マスター、これはどうすれば……」
俺の後ろで無表情に立っていたバニー娘アプティが、そのこぼれそうなお胸様の間からスルスルと化粧品を取り出し次々俺に渡してくる。
え、ちょ……そのお胸様の間から何本の化粧品が出てくるんだよ……猫型ロボット系のあのポッケかよ!
「あたたかい……じゃなくて、こういうのはロゼリィに聞け。アプティも化粧を覚えておいて損はないだろ」
アプティの人肌に温まった化粧品を思わず懐にしまいそうになったが、苦み走った顔でグッとこらえる。
直お胸様のぬくもりグッズか……これで商売出来るんじゃ……ってウソウソ。俺はまっとうな人間だからそんなことはしないぞ。すまんな、紳士諸君。
「そうですよアプティ! 化粧は女性の武器! しっかり覚えていざってときに備えるのです! ……クロさん? あなたもですよ? ふふ」
ロゼリィがにこやかな笑みでアプティとクロを捕まえ、お化粧講座開始。
アプティが無表情に俺を見つめ助けを求め、クロが青い顔で逃げ出そうとするがロゼリィに首根っこを掴まれる。
うーん、ここお祭り的に盛り上がっている混雑する路上なんですが……あとクロは一応お姫様なんだけど……まぁ、いいか。
本当に、今ここにトラブル増幅器、ことラビコがいなくてマジ良かった。
ああ、水着魔女ラビコは先週サーズ姫様とハイラのお仕事を手伝うと出て行ったままで、ほとんどお城の部屋に帰ってこなかった。
今はこれから行われる式典の打ち合わせ中だとか。
まぁ……サーズ姫様とラビコは相当忙しそうにお城内外を飛び回っていたから、マジで大変だったんだろうな、と……。
ハイラはたまに部屋に飛び込んできたが、すぐに怒りのラビコにひっ捕らえられて引きずられていったけど。
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