第535話 妄想エロ出張サービスと進路はペルセフォスへ様




「へ、へぇ……呼んだら来るってこういう……」




 ケルベロス地下迷宮で出会った桁違いに強い女性。


 彼女は何者なんだろう、とダンジョンに詳しいというクラリオさんに聞いてみたのだが、さすがにあのレベルの強敵は聞いたこともないらしい。


 分からないなら分からないでいいんだけど、俺はなんでか彼女から首輪を貰っているんだよね。


 これが一体なんなのか、それを知りたかったのだが……





「ちょ……なに今の~さっきダンジョンにいた女じゃなかった……? 呼んだら来る~? 社長~それどういうこと~? 何さ、あの短時間で女にお金でも払って呼んだら来いって契約でもしたっての~?」


 そういえばさっきの女性ケルベロスが呼んでくれよ飛んでくっから、とか言っていたな。


 教えられたグークヴェル・ケルベロスとかいう不思議な言葉は、本当に瞬時に飛んで俺の元に来るっていう、そういう意味だったのか。


 くそ……てっきり俺の目のアップデートが行われて、女性の服が透けて見えるドリームアイモードが追加されるんだとばかり……。



 みんな唖然とする中、水着魔女ラビコが正気を取り戻し俺に詰め寄ってくる。


「いくら払った~! あの女にいくら払ったんだよ~!」


 何の話だ……! 女性にお金を支払って契約をすると、自宅まで来てくれるサービスとかこっちの世界でもあんのか……?


 え、詳しい? 誤解はよしてくれ、俺は十六歳だぞ。そんなサービスを利用出来るわけがないじゃないか。日本にいるとき興味本位で調べてみたことが一回だけ、いや三回だけあるだけだよ! お得意のチートアイテム、インターネッツだよ!



「バカ言え、そんなことしてねぇ……! つかどう考えても空間の裂け目から出てくるとか、登場の仕方がおかしいだろ……そっちに疑問を持て!」


「ダンジョンの管理者である、桁違いの力を持つケルベロスという女性を瞬時に呼び出せる……つ、つまり君は地下迷宮の最下層を制覇し、ルーインズウエポンなんかよりもっと強力なアイテムを手に入れたということか……す、すごい! これぞ私が求める新たな勇者……やはり逃すわけには……!」


 ラビコと妄想エロデリバリー論争で揉めていたら、クラリオさんが震えた声で喋り俺に飛びかかってきた。


 ちょ、なんなのこの人……!



「いい加減にしろ……! この勇者不足女!」


 キレたラビコが紫の魔力を体から放ち、威力ゼロの雷魔法がクラリオさんに直撃。



「ほぎゃああああ!」








「さ~て、そろそろ帰るよ~」


「も、もう帰ってしまうのか……残念だ。とても楽しかったのだがなぁ」


 お昼も終わり、食後の紅茶をいただいたところでラビコが立ち上がる。


 出してもらった紅茶はかなりお高いものらしく、バニー娘アプティが無表情ながらもご満悦。



 ケルベロスの話はあれで終わり。


 なんか別方向に揉めるので話題に出すのをやめた。貰った首輪は、呼べばケルベロスが来る、ということが分かったからいいや、と。


 俺の呼び出しに応えたケルベロスのおかげで山盛り肉を残さずに済んだし、それはナイスミートアタックと褒めておこう。



「ルナリアの勇者のことはちゃんと処理しとけよ~。適当に、いつもの偽者でした確認に時間がかかっていました~とか流しときゃ大丈夫でしょ~」


「分かった。しっかり責任をもって公式に偽者情報を流しておくよ」


 ラビコの言葉にクラリオさんが答えるが、責任をもって公式に偽者情報流すって、ちょっとおかしな言葉になっていますよ……。




 ソルートンで聞いたルナリアの勇者の復活の噂。


 結局はクラリオさんが冒険者を活気付けようと『私はルナリアの勇者の元パーティーメンバーのクラリオ=クラットである』と名乗ったのが間違って伝わってしまい、『私はルナリアの勇者である』として噂が広まり、それにクラリオさんも乗っかってしまった、というものだった。


 クラリオさんは冒険者センターの次期代表という責任ある立場。ルナリアの勇者が活動をやめてしまって以降、蒸気モンスターの被害が目に見えて増えだしたことへの対案のつもりだったそうだ。


 ラビコ曰く、背負ってしまった、ということなんだろう。


 冒険者センターが公式にあの噂は偽者でしたと流せば、今回はたまたま強力な武器を持っていたけど、なんだやっぱりいつもの定期的に現れる偽者だったのかとなり、しばらくすればこの噂自体忘れ去られると思う。


 いつか本物のルナリアの勇者さんに会ってみたいが、それはだいぶ先の話になりそうだ。




「ロゼリィさん、困ったことがあればすぐに私に言って欲しい。当時同じパーティーメンバーだったローエンジゼリィ夫妻には本当にお世話になったんだ」


「あ、ありがとうございます! い、いえ! もしソルートンにお寄りの際はぜひ宿に来て下さい。父と母が喜びますので」


 クラリオさんが宿の娘ロゼリィの手をがっつり握って挨拶。


 そうだな、クラリオさんが宿に来てくれればイケボ兄さんの美味しいご飯を御馳走できるなぁ。


 でもラビコとまた揉めるんだろうなぁ……。



「えーと、クロさん、としておきますね。複雑な事情をお抱えのようですが、彼のパーティーにいるということはそれが答えに一番近付けると判断されたのでしょう。このクラリオ=クラット、微力ながら応援させていただきます」


「あー、まぁそういうこった。キングの側にいりゃあ答えも出るだろうし、なにより学べることが多くてよ。こりゃあセレスティアに戻らなくてもいいンじゃねぇかなって、ニャハハハ!」


 クロとも挨拶。


 クロはセレスティア王国から家出して来ているんだよな、事情はあまり知らないけど。


 戻らなくてもいいんじゃって、いや、一度は戻ってちゃんとお姉さんであるサンディールン様とお話をしようよ……。



「その……レベル30越えは驚きました。アプティさん、よろしければ握手を……あ……」


「…………」


 クラリオさんがアプティとも挨拶をしようとするが、アプティさん興味が無いらしく俺の後ろに無言で移動。



「あっはは~昨日今日会った程度じゃ、アプティに認めてもらうのは無理じゃないかな~」


「そ、そうなのか。無用なことは言わない武人スタイルを崩してもらうには回数で補うしか無いのか……まぁ君たちとはまた会いたいと思うし、認めてもらえるよう手順を踏むよ。そしてラビコ、久しぶりに会えて嬉しかった」


 アプティとクラリオさんに流れる気まずい空気をラビコがフォローしてくれた。


 いや、アプティは武人とかじゃなくて、俺以外とはあまり話さないストロングスタイルみたいなんですよ……。



「思い出話を二晩ほど語り合いたいが、それはまた次回にしよう。その、当時とは性格とか変わっていて驚いたけど……うん、私はそれでいいと思う。孤高のワガママ魔女っぷりも良かったが、今の恋する乙女スタイルも好きだ。……本当に、良い仲間に出会えたのだな」


「私もクラリオよろしく一生独身でいいや~とか思っていたんだけど~いや~人生どこで何が起こるか分からないね~あっはは~」


 こらラビコ、せっかくクラリオさんがいい話をしているんだから毒舌込めつつ茶化すなって。クラリオさんは結婚願望強いみたいだし。


「──今のメンバーは楽しいね~。社長が次々とトラブルと強者を連れてくるから毎日大変で~……でも当時だって楽しかったさ。辛いことも多かったけど、私たちは生き残った。それで充分だし、当時のメンバーだって全員良い仲間で私の大事な友人さ~。クラリオだってその一人なんだって……さぁて帰るか~まった来るさ~あっはは~」


 後半誤魔化すように笑い、ラビコが部屋から出ていってしまう。


 あ、マジでもう帰るのかよ。観光とかは……また次回になるのかな。


 ……トラブルを起こすのは基本ラビコじゃね? ってツッコミはよしておくか。



「はぁ、じゃあ帰りますね。また機会があったら来たいと思います」


 クラリオさんに頭を下げ、俺たちもラビコに続き部屋から出ようとするが、クラリオさんが俺に握手を求めてきた。



「……ぜひまた冒険者の国ヘイムダルトに来てくれ。ダンジョン以外にも良いところがたくさんあるんだ。その、私が言うことでもないが……ラビコの側にいてくれる人物が君で良かった。聞いているか分からないが、ラビコは幼少期にとても辛い思いをしていてな。本人は自覚していないかもしれないが、それがトラウマとなり成長と共に性格として固定されてしまったっぽいんだ」


 幼少期、ですか。


 本人からは聞いていないが、孤児だったとか。


「誰にも頼れない、誰も信用出来ない、隙を見せたら大事な物を盗まれる、力が無いとより強い力に踏みにじられる、一番強くないと人権がない、そんな周りは全部敵みたいな環境にいたから……」


 孤児院にいたんだっけ? 


 今はラビコや国が多くの援助をしているようだが、もしかしたら当時は援助も少なく、劣悪な環境だったのだろうか。


「でも今のラビコは君を頼り信用し、大事にしているという指輪を堂々と見せてきたり、自分より君のほうが強いんだと認めていたり……なにより、とても良い顔で笑うようになっている。あの笑顔を見て私は安心したんだ、ああ、良い仲間と出会えたんだなって。いや、男と……かな、はは」


 ラビコの笑顔はマジ可愛いぞ。


 油断したら普通に心を持っていかれるレベル。


「ありがとう、ラビコを笑顔にしてくれて。君が将来誰を伴侶に選ぶのかは分からないが、それがラビコだとしたら私は盛大にお祝いをしよう。ああ、もちろん私も今後ちょくちょく君に会って信頼度を上げ、選択肢に入れるよう頑張るけどな。なにせ私には時間が無いのだ! もう無理だって思った緊急時には無理矢理……! 年の差? くく、勇者はつまらないことを言うものじゃないよ?」


 あれ、いい話じゃないのか。至急ここから去ったほうが良さげ……。



 ラビコの笑顔は俺が守りますよ。


 なにせ俺の大事な女性で仲間なんだし。






 クラリオさんが高級馬車を用意してくれ、見送りまでしてくれた。



「良かったのかラビコ、もう帰って。色々クラリオさんと思い出話とか……」


「べっつに~。それはまた冒険者の国に来ればいつでも出来るし~多分また来る予感するし~。それより社長、この後どうする~?」


 クラリオさんに手を振り、馬車のお兄さんに行き先を告げようとラビコが俺を見てくる。


「ああ、駅で路線図見たらセレスティア経由でペルセフォスに行けそうだったから、魔晶列車でペルセフォス王都に行こうかと思う。カフェジゼリィ=アゼリィの様子をみたいんだ」


 毎週報告書がソルートンに届いているが、マジで毎日が戦争みたいな混雑っぷりらしいんだよね……。大丈夫なのか筋肉シェフシュレドは。


「りょ~かい」


 ラビコがお兄さんに行き先を港ではなく、魔晶列車の駅と伝える。




「ペルセフォス王都に行くのですか。ふふ、シュレドさんとナルアージュさんに会えるのですね」


 ロゼリィが嬉しそうに笑う。


 まぁロゼリィはお店のオーナーの娘さんだし、支店であるカフェジゼリィ=アゼリィは気になるだろう。いや、俺も気になるから行くんだが。



「お、ペルセフォスか! 美味い飯が食えるなら早く行こうぜ! 肉はもういいや……」


 猫耳フードのクロが大股開きで座り言うが、馬車内はスペース限られてんだから足開くな。クロはピッチリ短パンだから別に開いても見えないし……スカートならガンガン開いてくれと言うが。


 あとクロは結構満足気に肉食ってたろ。食い過ぎで胃もたれか?



「……紅茶はまぁまぁでした、マスター……。あと早く残りの八百五体を倒して結婚を……」


 バニー娘アプティの厳しいお言葉。いや、結構美味しくなかったかクラリオさんが出してくれた紅茶。


 まぁ、ソルートンの神の料理人であるイケボ兄さんの厳選茶葉に慣れているアプティには物足りなかったのかな。


 ……で、残り八百だのなんだのってカウントは何。



 なんかそういえばダンジョンでアプティがモンスター討伐数を細かく数えていたな。



 ……よく分からんが、俺はアプティの頭を優しく撫でつつ馬車はヘイムダルト駅に向かう。













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