第536話 窓から見える天空の塔と移動中の勢力選び様




「じゃあ行こっか、我らがペルセフォス王都へ~」



 王都ヘイムダルト駅から魔晶列車に乗り込み、俺たちはペルセフォスへ向かうことにした。



 冒険者の国ヘイムダルトに来た理由は、噂で聞いたルナリアの勇者が活動を再開したという情報の真偽を確かめるため。


 結果その噂は間違いで、元勇者パーティーメンバーだったクラリオさんが『私はルナリアの勇者の元パーティメンバーのクラリオである』と名乗ったのが、印象の強かった『私はルナリアの勇者』部分だけが一人歩きをし噂として広まってしまった、ということだった。


 クラリオさんは所持者が限られている強力な武器ルーインズウエポン持ちであることも噂に勢いをつけてしまったようで、かなり距離の離れているソルートンの街にまで届いて来たからなぁ。


 この後すぐに冒険者センター発信で公式にあの噂は本人ではありませんでしたと情報を流す、とクラリオさんが約束してくれたので、しばらくすれば、なんだ定期的に現れる偽者か、となるだろう。


 実際ルナリアの勇者を名乗って高額の依頼料を取る冒険者ってのが後を絶たないそうで、頻繁に冒険者センターが否定をするそうだ。


 今回もその風物詩の一つと世間の人は捉えるから大丈夫さ~、がラビコの言葉。



 

 取った席はいつもの列車最後尾にあるロイヤル部屋。


 かなりお高いのだが、この快適さに慣れてしまうともう他の席は無理。ああすまないな、金ならあるんだ。



「えーと、ヘイムダルトから東に向かって、すぐに北上、しばらくしたら魔法の国の王都セレスティア、そっから東にむかうとペルセフォス王都ってルートか」


 ヘイムダルト駅で無料の周辺路線図があったのでもらっておいた。


 俺だけが見れる地図を元に進めるが、正直地図の説明は文字羅列だけではどうしても伝わりにくいので勘弁してほしい。一応地図データを念波で送ってみるので、我こそはテレパスメン&ガールという諸君は受信スイッチをワールドフリーモードでオンにしておいてくれ。おまけデータとして、愛犬ベスのお昼寝写真をつけようじゃないか。



「ペルセフォス王都に着くのは明日の夜だね~」


 水着魔女ラビコが駅で買い込んだらしいお酒を抱え笑顔で言う。


 こいつ、また知らんうちにお酒買ってやがる……。




 王都ヘイムダルト駅を出てすぐにフェンリルという街を通過。


 ここにも冒険者の国を代表するダンジョンのもう一つ、天空の塔があるそうだ。



「ああ、見えるな。あれが天空の塔ってやつか」


 列車の窓から街方向を見ると、少し離れた場所に雲まで到達している巨大な塔があるのが分かる。



「そうさ~あれがケルベロス地下迷宮と対を成すダンジョン、天空の塔さ~。上層はいつも雲に隠れていて、十五階層より上はまだ誰も行けていないから、最上階が本当にあるのかすら分からないのさ~あっはは~」


 確かに塔の上層は雲に隠れていて、てっぺんが見えない。


 塔の最上階が無いってことはないだろうけど、こっちはまだ十五階層までしか行けていないのか……。未踏破階層には相当なお宝が眠っているんでしょうなぁ。


 聞くと冒険心が刺激されて行ってみたくなるが、ケルベロス地下迷宮の状況を考えると、命が数個必要なレベルなんだろうな……。



「なぁラビコ、そういや素朴な疑問なんだが、ルナリアの勇者はなんでケルベロス地下迷宮のほうを選んだんだ?」


 ラビコによると、彼等はケルベロス地下迷宮で強力な武器ルーインズウエポンを手に入れたとのこと。天空の塔にも同じくルーインズウエポンはあるそうだが、なんで地下迷宮を選んだのかな。


 なにか大きな目的でもあったのだろうか。


「なんでっても~ガトが高いところは怖いって騒いだから、かな~。あんなガタイよくて屈強な男なのに~、俺は海の男だから地面が見えないのは嫌だ、って~。半泣きで言うもんだからケルベロス地下迷宮にしただけさ~あっはは~」


 ……あ、そう……。


 ガトさんってのは元勇者パーティーの一人で、ソルートンにいる海賊服を着たガッハッッハ系大男。筋肉の塊の屈強ファイターな外見なんだが、元は普通の漁師なんだよね。


 異世界に来たばっかりの頃、お金が無くてソルートンから隣街に行くとき、タダで漁船に乗せてもらったなぁ。……魚たちに激しくケツを刺激され歓迎された思い出が消えないので、二度と乗りたくないけども。


 息子さんが色黒イケメンのレセントさんで、娘さんがシャムちゃんていうすっげぇ可愛い子。


 つか海の男だから地面が見えないのは嫌ってどういう理屈なのか。いや俺だって高いところは怖いけど。




 フェンリルの街から魔晶列車の進路は北へ向かい、海峡にかけられた巨大な橋を渡りセレスティア王国へ入る。


 そういや冒険者の国はセレスティア王国がある大陸から地殻変動で別れた、みたいな島なんだっけか。


「この橋はこないだ行ったすぐ南にある水の国オーズレイクの技術が使われているのさ~。世界にある巨大橋は、大体オーズレイク製って思って間違いないかな~」


 ラビコがお酒片手に説明をしてくれたが、もう飲んでる……。



 水の国オーズレイク、そういやあの国は橋を作る技術が高いんだっけ。湖の真ん中にある島が島王都で、対岸にある街を対岸王都とか呼ぶ不思議な立地の国だったなぁ。




「うわ、セレスティアかぁ。なンか見慣れた風景ばっかだぜ」


 魔晶列車がぐんぐん北上し、もうすぐ王都セレスティアというところで、猫耳フードのクロが窓の外を見てボソっと呟く。


「……一応聞くが、まだ帰らない……んだよな?」


 クロに近付き確認。



 彼女の正式名はクロックリム=セレスティアといい、本物のセレスティア王国第二王女様となる。普段はそんな気を感じさせないが。


 それはクロが俺たちに配慮をして、身分を気にせずフランクに接して欲しいと努力をしているわけではなく、言動・性根の全てがヤンキー属性で、それを包み隠さずフルオープンにしてくるから。


 いやまぁ……そうやって全て本音で接してくれるクロは好きだけども。


 クロは何かの理由でセレスティアを家出して来ているそうなんだけど、一体何を求めて俺についてきているのやら。公式には世界に名を馳せる大魔法使いラビコの元で修行している、となっているらしいが。



「はァ? 誰がどこに帰るンだよ。アタシはずっとキングの側にいるっつったろぉ?」


 クロがポケットに手を突っ込み、首だけぐいんと俺に向けるヤンキー立ちで威嚇してくる。


 ああ、これこれ。これぞクロさんですわ。


 日本だったらこの後、ちょいジャンプしてみぃや兄ちゃん、とか言われて小銭盗られるやつだ。


「……家出についちゃあ別に逃げ回っているわけじゃあなくて、キチンと自分なりの答えを出してぇんだ。悪いなキング、心配してくれてよ」


「そっか。詳しく事情は聞かないし、俺はクロが好きだから側にいてくれたほうが嬉しい。クロも俺にその器は無いかもしれないが頼ってくれたらもっと嬉しい。俺はまだまだガキだけど、しっかりその想いには応えるからさ」


 クロがフードをかぶり下を向いてしまったので、俺は優しく頭を撫でる。


 家出かぁ、俺にはそこまで思いつめたことがないから分からないけど、相当な勇気がいる行動だし、それを上回る不安が付きまとうよなぁ。


 一人じゃあ狭い視野で悪い方向に突き抜ける可能性もあるし、そこは周りにいる俺たちを頼って欲しいものだ。



「ニャ……? ニャッハーー!! おい聞いたかラビ姉! やっぱキングはアタシが好きで、告白してくれたらしっかりその想いには応えてくれるってよ! キタキター! じゃあ今すぐ告白するに決まってンだろ! 悪いな古BBA共! お先に一個上のステージに行ってるぜぇええええアタシはキングが好……」


「っるっせぇクソ猫! ちょ~っと社長が家出して行く宛もないクソ猫が可愛そうだからって、しょ~がなく優しい言葉かけただけだろ~? 社交辞令を本気にすんなっての~」


 クロがガバっと両手を広げ大股開きになり、なんというか露出マンが裸の上に着ているコートを一気に広げた、みたいなポーズで俺に襲いかかってきた。


 な、なんだ……? 俺変なこと言ったか?


 背後からラビコの酒瓶が脳天に落とされ、クロが頭抱えてうずくまる。



「え? 今なら必ず想いに応えてくれる告白タイムなんですか? やりました、私はずっとこのチャンスを待っていたのです! あ、だめですよラビコ、邪魔したらこれを噴霧します!」


 俺の愛犬ベスを膝に乗せ撫でていたロゼリィが急に立ち上がり、酒瓶装備のラビコに白い紙の包みをチラつかせて威嚇をする。


 え、あの包みって……お父様であられるローエンさん印の超強力睡眠薬じゃ……ヘイムダルトに来るときに一回使われて酷い目にあったが、まだ在庫あったのかよ!


「ちぃ……ローエンめ、余計な物をロゼリィに渡しやがって~」


 ヒューリムス駅からスプレートに行く魔晶列車で一度使われて全員瞬時に寝てしまったからな……歴戦の大魔法使い、さすがのラビコも慎重に粉の動きを見ている。


「……マスター……また古BBA共と言われました……意味を理解したいです……」


 バニー娘アプティがクロの言った暴言に反応して俺に迫ってくる。まぁそう何度も言われたら気になるよな……でもアプティは覚える必要のない言葉なんだ、あれ……。



「ニャッハッハアアアア! アタシは負けねぇぞぉ! 告白成功率百パーセントの状況を誰が逃すかっての! キングをモノにするまで家出は続行じゃあああい!」


 ラビコに酒瓶ゴッツンされてうずくまっていたクロが、再び両手を広げ立ち上がる。


 その姿はまるで不死鳥だが、大股開きなのが興ざめ。


 野外露出マンはいくらクラスチェンジしようが、美しい羽を持つ不死鳥にはなれないみたいだ。


 あと家出の理由が変わったし、最後のじゃあああい! とか、どこ地方出身なんだあなた。



 さぁどうする、俺。


 どの勢力に味方すれば平和に生きられるのか。




 そしてこんな揉め事をしている間に故郷であるセレスティア王都を通り過ぎたけど、良かったのか、クロ。














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