第513話 冒険者の国へ 1 俺は目的地に辿り着けるのか様




「気をつけて行ってくるんだよ。いいかいロゼリィ、男ってのは旅先で気が大きくなるもんさ。そういうのを上手く利用するんだ。身動きが拘束される狭い乗り物なんて最高だね。押しに弱い少年なんて格好の餌食……」


「お酒なんかも有効だね。あ、彼はまだ未成年か。なら簡単に薬とかどうかな。睡眠薬とか痺れ薬とか……」


「が、頑張ります!」



 早朝六時前、ソルートン港。


 俺たちはソルートン発ティービーチ行きの連絡船に乗り込む。




 昨日、魔晶ウエポンやルーインズウエポンのことをラビコに聞いていたら、世紀末覇者軍団の一人、モヒカン一号が持ってきた情報にソルートン中が驚きに包まれた。


 あのルナリアの勇者が活動を再開したらしい、とのこと。



 十年前、このソルートンで仲間を集め旅立った冒険者パーティー。彼らは世界各地で次々と強力な蒸気モンスターを倒し名を馳せ、英雄と呼ばれ讃えられた。


 しかし五年ほど前、突如パーティーリーダーだった男性が一人の女性メンバーと共に行方知れずに。


 理由も聞かされずいきなり解散となりメンバーだったラビコたちは混乱し怒ったそうだが、どうにも彼は特殊な能力を持つ女性、世界で唯一の回復魔法を使える彼女を、そしてパーティーメンバーを守るためにその行動をとった、らしい。


 これはラビコが解散後五年の月日が経ち、冷静に考えてみたらそうじゃないかな、と考え出した答え。


 彼、本人に直接聞かなければそれが当たっているのか分からないが、ラビコから聞いた断片的な話を総合すると、多分……。



「ったく、早朝にも関わらずわざわざ見送りに来たかと思ったら~実の娘に何を吹き込んでいるんだか~。これだからアゼリィ一家は怖いんだよな~。ま、ロゼリィが動くその前に私が社長を美味しくいただくけど~あっはは~」


 元ルナリアの勇者のパーティーメンバーだったラビコとしては、彼の活動再開、という情報は見過ごせないし、パーティーを解散した理由を考えたら絶対にありえないこと。


 定期的に有名人であるルナリアの勇者を語る偽物冒険者は出てくるらしいが、どうにも今回は雰囲気が違うらしい。


 ラビコは情報の発端である冒険者の国に行き、現地で確認をしたい、とのこと。



 俺も会えるならそのルナリアの勇者って人に会ってみたいし、何より冒険者の国ヘイムダルトには俺の心を躍らせる要素がいっぱいあるそうなんだ。


 冒険者である俺がお世話になっている冒険者センター発祥の地だったり、強力な武具が眠るダンジョンがあったり。


 そのダンジョンは相当の難易度らしく、生半可な冒険者は簡単に命を落としてしまうらしい。


 まぁ、危険だし実際に潜る気はないが、ゲームでしか見たことがない「ダンジョン」ってやつを間近で感じてみたい。


 せっかく奇跡の確率を超え異世界に来れたんだ、俺はこの世界の全てが見たい。


 行けるチャンスがあるなら、俺はぜひその冒険者の国ヘイムダルトに行ってみたい。



 俺とラビコの利害が一致。


 準備をし、翌日早朝ティービーチ行きの連絡船に乗り込もうとしたら宿の娘ロゼリィのご両親、ジゼリィさんとローエンさんが娘に冒頭の危険な思想を吹き込み始めた。




「ちっ、魔女が……いいかいロゼリィ、虚勢を張ってはいるけどあの魔女だって男は未経験。あんたとなんら変わりがない一人の女、気持ちで負けんじゃないよ! 場合によっては魔女にも薬を盛ってやるんだ! 痺れて動けなくなった魔女を蹴り飛ばし、睡眠薬盛った少年を強引に……」


 ロゼリィのお母様、ジゼリィさんがなんか大興奮で臨戦態勢なんだけど、その薬を盛られる少年ってのが俺なの……? 


 俺はこの冒険者の国ヘイムダルトへの旅行で一体なにをされるのか。


 娘であるロゼリィがご両親の話を素直に受け取り、フンフン鼻息荒いが、ロゼリィはそういうことする子じゃないでしょ。


 ……でも最近はラビコやアンリーナとかに感化され、結構危ういことしてくるんだよな、ロゼリィ……。


 まさか、ね、心優しいロゼリィさんに限って薬とか、ないよね……。



「うっひゃあ、すっげぇなロゼリィ一家って。ま、アタシは薬なンかに頼らずともセレスティア家伝統の睡眠魔法とかマジもんのやつ使えるし、この冒険者の国への道中いっちょキングに試して既成事実ゲットしてみっか! にゃっはは!」


 猫耳フードをかぶった女性、クロがケラケラ笑う。え、セレスティア王族に正式に伝わる睡眠魔法とかあんの? 


 ……そういやクロはこのソルートンの安い商店街の端っこにある怪しいお店で店主眠らせて、俺にセレスティアの国宝オウセントマリアリブラを売りつけてきたな。


 うーん、前歴アリ……か。


 こいつ、やべぇな……。



「……眠っているマスターを島に連れ去れば結婚……」


 背後にいたバニー娘アプティが無表情にボソッとつぶやく。


 そういやアプティさん、以前眠っている俺を銀の妖狐の島まで連れ去った前歴アリ……。


 こいつも、やべぇ。



「さ、さぁ行きましょう! ブツも手に入れました! これ以上ライバルが増えられても困りますし、今回の旅で一気に差をつけないと……!」


 宿の娘ロゼリィがまんまとジゼリィさんの口車に乗せられてんぞ。大事そうに握っている、ローエンさんから受け取ったその白い粉が入った包みはなんでしょうか。


 あ、ロゼリィは乗り物酔いしやすいから、それ系の薬かな。うん。



「あっはは~物に頼るとかフェアじゃないよね~。私は魔法で痺れさせて眠らせて拘束して個室に連れ込んでから一気にいくかな~愛を成就させるには相応の手順が必要だし~」


 水着魔女ラビコが満面笑顔で右腕に絡んでくるが、お前が一番念入りに俺に危害を加えてきそうじゃないか。


 痺れさせて眠らせて拘束して個室に連れ込むことを、愛の手順を踏むとは言わんぞ。



 

 ……あれ、俺ってどこに何をしに行くんだっけ? 


 このままじゃ俺、目的地に着く前に犯罪行為に巻き込まれそうなんですけど。



 よし、移動中、俺はずっと愛犬を抱いていよう。












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