第511話 魔晶ウエポンとルーインズウエポン様
「ひでぇ目にあったぜ……」
猫耳フードをかぶったクロが使っている魔晶銃の壊れたパーツを買いに行く。
見ろ、たったの一行だぞ。これだけのことに一体何話使ったのか。
普通に考えたらただのお使いクエストだ。
それなのによく分からんが、最終的に俺は下半身フルオープン状態でセレサが一人暮らしをしている新居の前でセレサ・オリーブ含めた三人が正座でロゼリィの説教を食らうはめに。
何がどうしてこうなったのか……うーん、まぁ忘れよう。
健全なメンタルを保つために都合のいい忘却というのは必要な自己防衛手段だ。
「ひどい目って、通報されなかっただけありがたく思うんだね~。普通なら治安騎士呼ばれてるとこなんだぞ~」
みんなで夕飯。本日のメニューはエビかき揚げ丼。
サクサクのかき揚げに甘辛いソースか出汁入りソースをお好みでかけていただく。さすが宿の神の料理人、イケメンボイス兄さんの作るものはなんでも美味い。
つかエビがプリプリでデケェ。
俺のつぶやきに右隣りに座っている水着魔女ラビコが反応するが、まぁ……そりゃあそうなんだが。
「ところでラビコ、魔晶ウエポンって物のことを詳しく聞いてもいいだろうか」
猫耳フードをかぶったクロが持っている二丁の魔晶銃。それはクロ曰く魔晶ウエポンといい、最近出来た新たなカテゴリーの武器だそうだ。
高価な魔晶石を消費し、疑似魔法を放つ。
疑似魔法を道具で撃ったところで、俺の「異世界に来たんだから魔法を使いたい」欲が治まるわけではない。
でも魔法を使えない冒険者には、いざってときにサポートとして使えるのではないだろうか。
火の国デゼルケーノで千年幻ヴェルファントムを倒した報酬として極大紫魔晶石なんてすごい物を貰ったけど、はっきり言って魔法の使えない俺には宝の持ち腐れ。
例えば強力な魔晶ウエポンなりを用意して、緊急時にその紫魔晶石をぶっこむ、とかは出来ないだろうか。
換金すればかなりの値段、ラビコ曰く百万Gから五百万G、日本感覚一億円から五億円の値がつくそうだが、今の俺はお金には困っていない。
でも命の危機のとき、これを消費して強力な魔法を放てれば、助かる場面だってあるかもしれない。
今のところ、大きめの力を使うと動けなくなってしまうアプティ用に常備しているけど、緊急時の手段は何パターンか用意しておきたい。
「魔晶ウエポン~? 艦載用大型魔晶砲を小型化に成功したのが始まりだっけ~?」
ラビコがかき揚げ丼を豪快にかっこみ、最後に残しておいたらしい大きめのエビを笑顔で味わいながら言う。美味そうに食うなぁ……。
艦載用? そういや商売人アンリーナご自慢の大型高速魔晶船に搭載されていたな。銀の妖狐の島から脱出したとき、俺たちを蒸気モンスターと見間違え撃たれたっけ。
なんかでっかいビームみたいなやつだったが、あの技術を小型化させた物が魔晶ウエポンってやつなのか。
「社長さ~、クロの銃見れば分かると思うけど~魔晶ウエポンってまだまだ発展途上の欠陥品だよ~? 燃費なんて最悪で~高価な魔晶石を湯水がごとく消費するし~。魔晶石のエネルギー変換機構にまだ問題があって~ちょっと使ったらそのパワーに耐えきれずパーツ破損~。いつ壊れるか分からない、稼働時間短めの物を蒸気モンスター相手に使いたいと思う~?」
そういや宿の温泉のボイラーが以前壊れたな。あれも魔晶石を使ったシステムだが、あのときはクロに魔晶石のエネルギーを伝える熱板が外れているとか言われたか。
生活用の魔晶アイテムと、戦闘用の魔晶ウエポンじゃあ消費する魔晶石のエネルギーが違いすぎるんだろうけど、壊れやすいってのは事実のようだ。
うーん、そう聞くとマイナス面が多いが、俺には魔晶ウエポンってやつに可能性を感じるんだ。発展途上ってんなら、まだまだ伸びる可能性があるってことだし。
「別にメイン武器として欲しいってわけじゃなくて、護身用に、その一発の疑似魔法を放てれば活路を見いだせる場面だってあるかもしれないじゃないか。命の危機を回避する手段はいくつ用意していてもいいだろう」
そういやソルートンの安い商店街の端っこにある怪しいお店、そこに魔晶ウエポンの
火花が出るとか、一瞬相手がしびれる雷が出ます的な。
「う~ん、社長に武器は超絶似合わないと思うんだけど~護身用か~……。魔晶ウエポンってさ、いきなり出来上がったものじゃなくて~ちゃんと対象となったモデルがあるんだよ~」
俺に武器は似合わないってどういうことだよ。
あのな、条件だけ言えば異世界に転生してきた俺は、軽く振るだけで魔王クラスが吹っ飛ぶチート魔剣を持っていてもおかしくはないんだぞ。
ああ、体が筋力不足すぎてヒョロいってこと? それならまぁ……。
「モデル? 参考にした本物があるってことか?」
どういうこった。
魔晶ウエポン自体が模倣品なのか?
「ルーインズウエポン。とあるダンジョンだけに眠る製作者不明の魔法武器さ~。歴史上に残っている記録では~千年前からその記述が出始めたらしいよ~。手にすれば山をも一太刀で消し飛ばせるとか~湖を一瞬で干上がらせるほどの炎を放てたとか~」
ラビコが食後の紅茶を優雅にたしなみながら言うが、ルーインズウエポン? 山をも一太刀……それだよ、俺が求める異世界物語に必要なのはそういうチート武器なんだよ。
「そ、それどこにあるんだ!? 俺はそういうのが似合う系男子だと思うんだけど……!」
「冒険者の国ヘイムダルト。アタシの国、魔法の国セレスティアの南にある大きな島さ。冒険者なら必ずお世話になる、冒険者センター発祥の国ってやつさ、ニャッハハ」
ラビコの向かいに座っていた猫耳フードをかぶったクロが教えてくれたが、冒険者センター発祥の国? へぇ、そういうところがあるのか。
「冒険者の国かぁ、それはぜひ行ってみたいけど……どうかな、ラビコ」
チラチラと上目使いでお伺いを立ててみる。
初めての国に行くには、ルナリアの勇者のパーティーメンバーとして世界を巡ったラビコの知識がないと厳しい。
「キモ……はぁ……結局行くのか~。まぁちょうどいいか~」
ラビコが俺を冷めた目で見てため息をつく。
俺の渾身の上目遣いがキモいってどういうことだよ。
「結局行く? ちょうどいい? ……なんかあったのかラビコ」
「え~? あ~……なんていうか、どうしても聞き逃がせない噂を耳にしちゃってさ~。近々ヘイムダルトには行かなきゃならなくってさ~」
ラビコがいつもの笑顔を消し、ちょっと憂鬱そうに虚空を見つめる。
そういえば朝、漁船乗りのガトさんが宿に来ていたが、その話なのだろうか。
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