第510話 クロの魔晶銃が直ったら俺のマグナムがフリー素材に様
「キングはさ、魔法を使えるヤツと使えないヤツ。この差ってなんだと思う?」
猫耳フードをかぶりゴーグルを付けたクロ自慢の魔晶銃が壊れた、とのことでパーツを買いにぼったくり店デュアメロディへ向かう。
クロの持つ銃は魔晶ウエポンといい、九年ぐらい前に出来た新たなカテゴリーの武器だそうだ。
魔晶石を使い、疑似魔法を放つ魔晶ウエポン。
魔法が使えない冒険者の救世主とも思えるが、欠点があり、超高価な魔晶石をガンガン消費してしまう。
魔晶石は本当にお高く、水着魔女ラビコが魔法ブースト用に常備している紫魔晶石なんて五万G以上、日本感覚五百万円以上の物なんだよね。高すぎ。
クロが持つ銃はそこまで高品質なものでなくてもいいそう。
それでも小石ぐらいの安いやつですら一個三百Gから五百G、三万円から五万円はするからなぁ。それを毎日消費は経済が死ぬ。
消費量は魔晶石の品質で変わるらしく、ラビコの持つ紫魔晶石なんか最高に長持ちするらしい。
高ぇけど。
高いと言えば、俺ってラビコを雇っている状態らしいぞ。そのラビコが毎日請求してくるお金が一万G、そう、日本感覚百万円だ。
俺はありがたくも授かったこの生命を謳歌し、毎日を笑顔で生きているだけでラビコに一日単位百万円の借金が積み重なっていくらしい。
……一体前世でどんな罪を犯したら毎日百万円の借金が出来るのか。
ほら、毎日百万円なんかにくらべたら魔晶石なんて安い……とはならんな。
家出状態でお金の無いクロに毎日魔晶石購入はキツイだろうが、今の俺はお金あるし、大事な仲間が困ってんなら援助しようじゃないか。
お金がない異世界に来たばっかのころ食事代とか交通費をラビコに立て替えてもらったが、あれはキチンと返したぞ。よく分からん、社長は私を雇っているんだから毎日金払え、には一切応じる気はない。
そんな雇うなんて書類すら交わしていないし、口約束すらしていない。
……もし払うにしても、累積金額は今いくらになっているんだろう……。
「魔法を使える使えないの差? 使えない俺に対して、使えるラビコとかクロみたいなもんだろ。やっぱ才能、なのかなぁ……使えない身からしたら正直羨ましいぜ」
クロは普通に魔法が使えるのに、なんで家出状態でお金があまり無いのにこんな金食い虫、魔晶ウエポンなんて使っているんだろうか。
冒頭のクロの質問に答えるが、魔法を使える使えないの差? 才能以外になんかあんのか? 血筋とか? ってこれも才能に入るよな。
「ニャハハハ、キングは不思議な男だよなぁ。王の眼なんてとんでもねぇ力があンのに、なんでか魔法が使えねぇっていう。アタシは魔法が使えるけど……なぁキング、もしアタシが魔法なんて使えない女だったら、こんなに優しくしてくれた……か?」
クロが猫耳フードから上目遣いで不安そうに聞いてくる。
は? クロが魔法が使えなかったらどうだって?
なんの話だそれ。
「なんださっきから。心理テストか何かか? はっきり言うが、俺はクロックリム=セレスティアっていう女性が好きだ。だから俺の側にいて欲しいと思っている。そしてクロは俺のパーティーメンバーになった。ならば俺はクロを守るし、困っているのなら全力で助ける。魔法が使える? 使えない? なんの関係があるんだ、それ。クロは俺の大事なパーティーメンバーで俺の大事な女だ。才能の差なんて俺は見ていない。もう一度言う、俺はクロックリム=セレスティアっていう女性を好きになったんだ」
俺が二千G、日本感覚二十万円を払うって聞いて、その額に不安にでもなったのか?
だったらはっきり言おう。
俺はどんな状況だろうがパーティーメンバーであるみんなを守る。
その手段が戦力ならば俺は迷わず武器を手に持つし、お金だと言うのならその額を支払おう。
ああ、正直言うと街の人である俺に戦力を求められても困るがな。お金、そっちなら結構ある。
「ニャ……」
目を見開き口をポカンと開けてクロが俺を見てくる。……悪いが、すげぇアホ顔だぞ。
「ず、ずっりぃってキング! アタシの質問に最高にカッケェ答え出しつつ告白してくるとか予想外だっての!」
告白だぁ? それこそなんの話だよ。
俺は魔法が使える女性が好きとかじゃなく、人としてクロが好きだと、そう言ったんだ。
「ニャッハハー! やっぱキングってアタシの迷いをスパっと晴らす答えを持つ最高の男だぜ! 魔法が使えるか使えないかなんて関係ない、才能の差なんて俺は見ていない、かぁ……そして人としてアタシが好きかぁ……ニャハッハハ! キタぜキタぜぇぇ! 今夜は戦いだぁぁ!!」
突如大興奮したクロが猫耳フードをブンブン揺らし頭を前後に振り、平衡感覚が危うくなったフラフラな体でファイティングポーズを取る。
何がしてぇんだ、この猫。
「ありがとうございましたー」
よく分からんが大興奮でフラフラなクロの手を引き、魔晶石アイテム専門店デュアメロディへ。
お目当てのパーツを購入し、すぐにお店を出る。
魔晶石ランプだったり銃だったりカメラだったり、アイテム好きな男にはたまらない感じのお店なのだが、とにかく値段が高い。
欲に負けて余計なものを買わないように、クロの指すパーツだけを掴み店員さんに渡した。
一応ちょろっと店内見渡して確認したが、やっぱりエロい商品は無かった。
「い、いいかキング、一緒だぞ、一緒にこの穴に出っ張りを押し込むんだ。せーのっ……ニャハーー! ピッタリはまったぜぇぇ! この瞬間ってなンか気持ちがいいよな! 入れるタイミングも合ってたし、やっぱアタシとキングは具合がいいんじゃ……いってぇ!」
「な~にやってんだクソ猫~。セリフだけ聞いてたら危ねぇ女だっての~」
宿に帰って一休み。
部屋で愛犬を愛でていたらクロが真っ赤な顔で現れ、二丁の銃の一つを俺に渡してきた。
もう購入したパーツは組み込んであって、あとは外装パーツを元通りはめ込んだら完成。
それを一緒にやって欲しいと言われ、まぁプラモデル組み立ては好きだったからやってみた。っても単に最後の外装パーツをはめ込むだけなんだけど。
そしたら猫耳フードをかぶったクロがなんだかエロいセリフを乱発。
気がついたら宿の娘ロゼリィと水着魔女ラビコも部屋に入ってきていて、ラビコが杖でクロの頭をこつん。
「う、うっせぇな! この銃はアタシの分身みたいなものなンだよ! それをキングと一緒に触っているんだぞ、これはもう裸で抱き合っているのと変わらねぇンだよぉ!」
クロがラビコに猛反発。
言っている内容は意味不明。
クロってこの個性的なパーティーメンバーの中では意外に常識人と思っていたのだが、やっぱ変なとこあんのな。
「な、なるほど……では私も毎日日記を書いているのですが、それをあなたと一緒にめくれば裸で抱き合っているのと同じ……!」
宿の娘ロゼリィがクロの言葉を超謎理論で同意。急いで自室から持ってきた日記を腹に抱え込み、俺に突進してきた。
なんで突進してくる、ロゼリィ。一緒にめくるんじゃねえのかよ!
「あ、こら~! こいつは私の男で、お前らみたいなナンバリング付きの愛人はお呼びでないっての~! じゃ、じゃあ社長~妻である私とはマジ裸で抱き合……!」
普段おとなしいロゼリィまでもが動き出し、焦ったらしいラビコが水着のゴム部分をパンパンさせながら襲いかかってくる。
はぁ……みなさん普通にしていればとんでもねぇ美人さんなのに、なんでこう欲丸出しな感じで台無しにすっかね……。
「アプティ、みんなを抑えてくれ」
そしてみなさんお忘れか、ここは俺の部屋。
当然最強の番人であるバニー娘アプティさんが常設されているんですよ。
さっきからの騒動を一歩引いて無表情でジーッと見ていたアプティさん。
「……ではやはりマスターとこの紅茶を一緒に飲めば結婚……」
アプティが例の高級紅茶葉の入った缶を抱え、突撃の体勢。
え、あれ?
アプティさん?
「アプティが味方に付いたぞ~! いくぞ皆の衆、突撃~まずは下半身だ~あっはは~」
ラビコがニヤァとイヤな笑みを浮かべ、俺のズボンに手をかけてくる。
ちょ……まずはって、居酒屋でとりあえずで頼むビールみたいに言うなよ! そこが俺の一番の弱点だっての!
女性陣の眼が開眼し不気味に光る。
くそ、アプティが敵に回るとか予想外。
これはまずい……!
「おらぁ~ずっぱ~ん! うっわ~出た出た~!」
「……はぅぅ、す、すごいです」
「ニャハー! これぞキングだぜぇぇ!」
「……マスター、さすがです……毎朝見ていますが、昼間も絶好調です……」
おわあああ!
くそ、なんだか俺のズボンを下げ慣れたらしいラビコが一発でパンツごと下げてきたぞ。どんな技術を向上させてんだよ。
「ベ……ベス先生……ベス先生ー!!」
「……ベシュン」
俺が最後の頼み、愛犬ベスに涙目ですがりつくが、興味なさそうにくしゃみをなされ、ベッドの上で丸くなる。
──終わった……
全ての味方に見捨てられたが、俺は諦めない。
そう、最後の手段がまだ残っている。
「きゃあああああああああ!」
「へ、変態よー!」
世間体? 知ったことか。
そんなもんとっくにマントル突き抜けて星の裏側でこんにちわしてるっての。
俺はズボンをトカゲの尻尾がごとく切り捨て、こちらもこんにちわ状態の丸出し下半身のまま宿一階の食堂を駆け抜け外を目指す。
お客さんの悲鳴が心地良い……。
宿のオーナーであられるローエンさんが苦笑いで騒ぎを見ているが、今回だけはご勘弁……。
「た、隊長……ど、どうしたんですかその格好……お風呂に入る途中とかですか……?」
宿一階食堂でウエイターをしていたポニーテールが大変似合う女性、正社員五人娘のセレサが真っ赤な顔で俺の下半身をじーっと見ている。
「す、すまんセレサ、しばらく俺を
「! チャンスですセレサ! このまま仕事を放ってセレサの部屋で愛の逃避行なのです! 私もご一緒しますなのです!」
同じくウエイターをしていた正社員五人娘の一人、その持てるボディはロゼリィクラスのオリーブさんが俺の下半身から一切視線をそらさず、俺とセレサの手をつかみダッシュ。
最近一人暮らしを始めたセレサ。
宿からは歩いて五分ほどのところに家があるのだが、そこまでセレサとオリーブに前後を隠してもらいつつ走る。
さすがに正社員五人娘相手にラビコとかは乱暴してこないだろ。
──と思ったのだが、ドス黒いオーラを放つ宿の娘ロゼリィがどうやってかセレサの家の前に先回りしていて、そこで御用。
三人地べたに正座させられ、ロゼリィに怒られましたとさ。
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