第493話 お姫様お姫様お姫様 4 宿に来ただけでトラブル多発様
「参ったね、うちはそんな高級宿じゃないんだよ。そんなポンポン身分の高い人を連れて来られても大したことは出来ないよ」
夜二十三時過ぎ、王都から休暇に来たというサーズ姫様御一行を宿ジゼリィ=アゼリィにお連れした。
とりあえずお忍び休暇ということで、騒ぎにならないように宿の事務所に来てもらい、オーナーであるロゼリィのご両親に説明。
開口一番ロゼリィのお母様であるジゼリィさんが溜息をつきながら冒頭のセリフ。
うーん、この人ホント誰にも
サーズ姫様相手にも態度は変えねぇストロングスタイル。ジゼリィさんはわがまま魔女ラビコとも対等に向き合うし、ある意味ソルートン最強の女かも。
実際ルナリアの勇者パーティーの一員として世界を巡り、蒸気モンスター相手に長年戦い抜いた実績もあるしな。
本人は細い剣の二刀流なのだが、光の粒のような形の魔力を収束させ盾として具現化し、とんでもない広範囲&多人数をカバーするシールドを張ることが出来る「盾のジゼリィ」として有名だそうだ。
宿によく出入りしている筋肉の塊みてぇな冒険者こと世紀末覇者軍団にちょっと聞いたことがあるが、ジゼリィさんは若い時このソルートンのゴロツキ達のリーダーで、結構暴れまわっていたそうで……。
当時どんな感じだったか、今のジゼリィさん見ていたらすぐに想像出来そう……。夫であるローエンさんが必死にジゼリィさんをなだめている。
これでもローエンさんに出会って相当丸くなったんだと。
「突然押しかけて申し訳ない。あの有名なルナリアの勇者のパーティーメンバーであるローエン殿ジゼリィ殿にお目にかかれて嬉しい限りです。あなた方の活躍があったからこそ今のペルセフォスがあると、改めてお礼を言わせて下さい」
「それはどうも。でもあれは当時の騎士連中が頼りなくて、国も端っこにあったこの街を重要視せずに、大した騎士を寄越さなかったから街の冒険者が立ち上がったってだけだよ。私は子供達が安心して暮らせる街と国と世界が欲しかった、それだけさ。あんたのお礼が聞きたくてやったわけじゃないよ」
サーズ姫様が頭を下げるも、ジゼリィさんが怒り気味でなんだかおかしいぞ。
こりゃやべぇとローエンさん、娘のロゼリィが止めに入る。
そういや確かまだロゼリィが小さかった時に、お二人はルナリアの勇者さん達と冒険に出たんだっけ。
なるほど、小さかったロゼリィを置いてまで出ていった理由はそれか。
「あ……ローエン、ロゼリィ、分かってるって! 言いたかったのはそれじゃなくて、サーズ様、フォウティア様になってからだいぶまともになったって言いたかったんだよ。特にあんたは今日来ていた騎士教室とか言うのを立ち上げてペルセフォス全ての街、村、集落を巡ったりさ、あと計画だけで眠っていたあの事業の再開を決断してくれたり、そのお礼が言いたかったんだって、ごめんよ、育ちのせいで言い方が悪くて」
「いえ、お気になさらず。事業のほうはだいぶお待たせをさせてしまいましたが、この度大幅に予算を確保出来、さらにとある企業から強力な後押しをしていただけたこともあり、とてもスムーズにお話は進んでいます。これが完成すれば、このソルートン付近はさらなる発展が見込めるでしょう」
サーズ姫様が笑顔で差し出した手をジゼリィさんが申し訳なさそうに受け、頭を下げる。
「さすが、ラビコが友と認めているだけはあるね。よぉし気に入った、いいかいあんたら! お忍びで来られているサーズ様に最大の配慮と最高の歓迎をするんだよ! 者共、かかれぃ!」
事務所に集まっていた正社員五人娘全員と、宿の料理人であるイケボ兄さんにジゼリィさんが笑顔で号令をかける。
うっへ、一時はどうなるかと思ったが、なんとかなったか。
サーズ姫様御一行が来ているということは今ここにいいるメンバーだけが知っていることとして、みんなで最大のおもてなしをしてこのソルートンを満喫してもらおうと目を合わせ頷きあう。
「ちぇ~ジゼリィに追い返されるかと思っていたのに~。あと私と変態姫は友達じゃないっての~!」
ただ一名、水着魔女ラビコだけは不満そうだったけど。どう見てもサーズ姫様とラビコは親友だよなぁ。
正社員五人娘がド緊張しながら部屋を三つ用意し、サーズ姫様、ハイラ、アーリーガルをご案内。
「うううう、た、隊長……サ、サーズ様が……この国のお姫様がジ、ジゼリィ=アゼリィに……! 雑誌でしか見たことがなかったお方を、こんなお側で拝見出来るなんて……もうこれ夢なんじゃ……」
途中、ポニーテールが似合う正社員五人娘のリーダー的存在セレサがよろよろと俺に寄りかかってきたが、いや俺だっていまだに信じられないよ。
王都でお見かけしていたサーズ姫様が俺達の宿にいるなんてなぁ。魔法の国セレスティアにサーズ姫様と行ったとき、一緒の列車に泊まって、お城でも一緒だったが、それとは意味が違うんだよ。
一応この宿にはお金を出して買った俺の部屋もあるから、俺の家にサーズ姫様が来た、みたいな興奮が……。
「はっ……セレサ、それなのです! そうこれは夢、夢なのだから隊長に抱きつき放題なのです! せーのっ!」
突然何か閃いたらしい、その持てるボディがロゼリィクラスのオリーブが急に俺に抱きついてきて、その大きなお胸様をぐいぐい押し付けてくる。
「そ、そうか、これは夢。うん夢なんだから隊長にこんなことをしても大丈夫っ!」
オリーブの言葉に何かが覚醒したっぽいセレサまでもが俺に突撃をしてくる。
む、胸が……お胸様が……ホ、ホアアアア……これあかーん。
「わ、私も兄貴に抱きつかないと、緊張で手が震えてだめだ!」
「ほ、本物……本物のサーズ様……、隊長の交友範囲ってどうなっているんですか……」
「まさかのペルセフォス王族様ご来店ー。隊長の人を惹き付ける才能がとんでもパワー」
ヘルブラにアランス、フランカルの三人まで……ご、五人のあのその、あれがああで、ドーン。語彙力? そんなものはお胸様×5の前には必要のない物さ──って鬼の気配を感知だぜ!
俺は真後ろに笑顔で黒いオーラを放つ鬼を感じつつ、正社員五人娘から瞬時に離れ安全圏を確保。
「ほーん、これがシェフシュレドさんから聞いていた、宿ジゼリィ=アゼリィの看板娘さん達ですかぁ。皆さん美人さんですね、先生。でもやっぱり指輪組でもない、ただのモブ程度のワンパターンな行動で安心しました。ふふ、胸を押し付けるだけとか、なんの誘惑にもなっていないんですよ、先生には!」
ロゼリィ(未覚醒鬼)の後ろから新たな機影を感知し見ると、女性版オレンジジャージを着たハイラが超上から目線で登場。
え、お胸様ファイブで俺の心は簡単に誘惑されてエデンに行っていたんですが……。
「先生は毎晩最低二人は抱いているような豪傑なんですよ? それなのに、夢だなんだと言い訳をつけながら抱きつくとか、パワー不足もいいところです! 先生の一流の愛人になりたいのなら、いきなり先生のお尻に顔を埋めるぐらいしないとダメですね! 覚悟不足! はぁ……これならライバルにカウントする必要もなかったです」
ハイラが勝ち誇った顔で言い放ち、最後は期待外れ的な溜息を尽く。
待てハイラ。俺が童貞だって知っているよな? 毎晩二人は抱く豪傑とかどこから出てきた情報なんだよ。
あ、もしかして俺の毎晩の日課の夜の一人感謝祭の登場人物のことか? それならまぁ……二人以上に迫られて、みたいな想像でよく感謝祭をしますけど。
「……お客様に失礼を承知で申し上げますが、私達はとっくに覚悟なんて完了しています。それとお客様の言っている行動は、ただ自分の欲を満たそうとしているだけで、隊長の心を満たしてあげようと少しも考えていないではないですか」
セレサがキッとハイラに視線を送り、負けじと言い返す。
うん、そうだよねセレサさん。ハイラがやった俺のケツに顔突っ込んで左右に振る行動って、俺の歓迎の挨拶でも、俺が満たされる行動でもないよね。ハイラのちょっと変わった性癖行為だよね。
やった味方が出来たぞ、さすがセレサさんやでぇ。
「っ……このっ! ──私はペルセフォス王国ブランネルジュ隊所属、先生の大いなる愛のおかげで今年の代表騎士であるウェントスリッターになれたハイライン=ベクトールです。あなたの所属を聞いておきましょう」
「私は宿ジゼリィ=アゼリィ正社員、セレサ=フェイバー。隊長に優しい笑顔を向けて欲しくて、ロゼリィさんにギリギリ怒られないラインで日々攻め続けています」
ハイラとセレサが睨み合い。
え、なんなのこの状況……。
「あ、先生の優しい笑顔は分かりますぅ。あの顔で見られたら、もうなんでもしてあげたくなって、抱きつかずにいられなくなるっていうか」
「そう、そうなんです! 隊長がたまに見せてくれる優しい笑顔、あれがたまらなくいいんですよね……。胸がキューンてなって、もう……最高なんですよね! なんだ、結構話が分かる人なんじゃないですか」
あれ、睨み合っていた二人が急に笑顔で談笑を始めたぞ。
サーズ姫様御一行が宿に来て何も起きないはずはない、とは思っていたが、もう初っ端からトラブルまみれなんですが。
「よかったなハイライン、こちらでいいお友達が出来そうじゃないか。それで泊まる部屋なんだが、私は君が宿内に買ったという部屋に行きたい。ほら今後の参考のために、ぜひ君と一緒の部屋で暮らしてみたいんだ」
サーズ姫様がニコニコとハイラを見たあと、くるっと俺の方を向き笑顔でとんでもないことを言う。
途端、ラビコ、ロゼリィ、クロに正社員五人娘が眉をしかめる事態に。アプティは興味なしで愛犬ベスと一緒に俺の部屋へ。あの、アプティさん……。
アーリーガル君は謎の巨大な三つの包みを必死に抱え右往左往。
ああ……いつもなんとなく思っていたけど、やっぱりペルセフォス組の皆さんもどこかおかしい人達なんだなって……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます