第469話 水の国オーズレイク 5 どこかで聞き覚えのある姉弟騎士様




「じゃあ今日は島王都に行ってみよっか~」



 翌朝九時過ぎ。


 天気が良く、霧も出ていないので絶好の観光日和。





 今俺達がいるのは、花の国フルフローラの西にある水の国オーズレイク。


 その王都にいるのだが、とにかく人が多く、活気に満ちている。


 ペルセフォスの王都並に栄えている感じだろうか。



 お店も多くあり、ここに住んでいれば特に何不自由なく暮らせそう。物価もペルセフォス王都並にお高め、だが。


 参考として、昨日の夕食に食べた棒に突き刺さったフィッシュバーガー。あれが一個十G、日本感覚千円。ドリンクもポテトも付かない単品で、だぜ。


 もちろん素材にこだわった美味しい物なら安いと思うが、安い油使用でたいして美味しくないのに千円はちょいお高い。


 ソルートンのジゼリィ=アゼリィなら、それこそドリンクにポテト付けて五G、日本感覚五百円で出すところだろうか。もちろん棒無し、で。


 アンリーナがおごってくれたから、文句は無いけどさ。



 ああ、温泉のトラブルは、あの後すぐにホテルに逃げるようにダッシュで帰ったぞ。初めて訪れた地で、いきなり世間体マイナスイベントは勘弁してくれ……。





「島王都か。昨日言っていたけど、そっちのほうが古いんだっけ?」


 ここの王都オーズレイクは不思議な立地になっていて、巨大な湖に浮かぶ大きな島とその対岸にある街、これを合わせて王都としているそうだ。


 対岸王都側のほうが栄えている感じだったので、お店巡りでもして観光気分を味わおうと思ったのだが、ラビコが霧が無い晴れの日は珍しいから島王都に行こうと言ってきた。


 ここの湖はいつも霧が深く立ち込め、湖と陸地の境目が分からなくなるのが当たり前だとか。


 そういや来る前にラビコがそのせいで湖に落ちて亡くなる人が、とか言っていたな。


 怖い怖い。



「そうさ~。昨日も言ったけど、元々は島が王都だったのさ~。新しい対岸王都よりは歴史ある王都オーズレイクを楽しめるんじゃないかな~」


 俺の質問に旅慣れたラビコが答えてくれたが、確かに対岸王都側はさっきから言っているが、ペルセフォス王都みたい、なんだよな。どうせ遠路はるばる観光で来たんだ、王都オーズレイクってのを感じたいしな。





 アンリーナが取ってくれたホテルを出て、湖の沿岸にそった街道を歩くこと十分ほど。ホテルの窓から見えた巨大な橋に到着。


 石造りのかなりしっかりとした橋。


 島王都に真っ直ぐ繋がっているのだが、真ん中あたりが大きな円形のスペースになっていて、中央に噴水が置かれ円形の壁に沿ってお店が建ち並んでいる。ちょっとした街だな、あれ。



「橋の途中に街があるぞ、すげぇな」


「ああ、あそこはセントラルラウンドっていって~観光客向けのお店が並んでいるところさ~。あそこから橋が分岐していて~周りの小さな島に行くにも大きな島王都に行くにも、セントラルラウンドを通らないと行けない仕組みになっているのさ~」


 ラビコに言われて気付くが、確かにあのセントラルラウンドってところから橋が五つに分岐しているな。


「ま、防衛用、ですわね。何かあってもこの橋を落とせばお城のある島側は守れる、と」


 隣を歩いていたアンリーナが地図を見せてくれたが、防衛用か、なるほど。


「そうそう~この国の騎士がさ~まさにその役目なんだよね~。お、ちょうどいいぞ~あれさ、あれ~」


 ラビコが湖を指しニヤニヤ笑う。この国の騎士の役目?



 見ると、湖上をものすごい速度で走る物体がある。


 一瞬モーターボートかと思ったが、そうではないな。楕円の板状の物……サーフボード的な物に乗った騎士っぽい集団が湖面を自在に移動している。


 ペルセフォス王国には飛車輪という空飛ぶ乗り物があるのだが、それの水上版って感じ。……初めて見る物なのだが、似た雰囲気を感じたのはなんでだろうか。




「リリエ~ル、アルルシ~ス! おっは~」


 ラビコが橋の柵に身を乗り出し、杖をブンブンと振り湖上を走る集団に声をかける。


 知り合いなのか。


「……!? ラビコ様、ラビコ様ではないですか!」


 集団の先頭を走っていた女性が気が付き、こちらに方向転換してくる。




「申し訳ありません、お待たせいたしました。火の国デゼルケーノでの千年幻ヴェルファントムのご討伐、耳にいたしました。まさかあの千年幻を少数で撃破するとは、さすがはラビコ様。そしてそのラビコ様がいらしているとなると、何か大きな戦いがあるのでしょうか。もしその大掛かりな討伐隊にお誘いいただけるのなら、このリリエル=サイス、全てを懸けて役目を全うすることを……」


「あ~違う違う~今日はただの観光さ~。ほら、ナイアシュートを夫と見に来たのさ~、あっはは~」


 湖上を走っていた女性が素早い動きで壁を駆け上がり、ざざっとラビコ前に着地。


 膝を付き、頭を下げるが、千年幻の話は本当にどこに行っても聞くな。それほど大きな出来事だったのか。


 まぁあれ、マジで大きさといい火力といい、本当にヤバイ奴だったしな。怪獣レベル。



 そしてラビコさん、余計なこと言わなかった?



「観光でしたか、それは失礼を致し……お、夫……と?」


 礼儀礼節をわきまえ、ビシッとこの国の鎧らしきを装備した女性が、後半漫画みたいに驚いた顔を見せてくる。


「あっはは~見ろ見ろ~幸せの証の指輪を~」


 何が面白いのか、ラビコが爆笑しながら自分の左手薬指にはめている指輪を見せつける。


「な、なるほど、ずいぶんと印象がお変わりに……と思っていましたが、ご結婚なされていたと。それは納得の笑みです。おめでとうございますラビコ様! 来い皆の者! ラビコ様のご結婚を祝うのだ!」


 女性が湖上にいた騎士達に声をかけ、呼び寄せる。


 ちょ、待って、それ嘘だし……。



「おめでとうございますラビコ様! このアルルシス=サイス、身分をわきまえず、こっそりラビコ様をお慕いしていたことを報告させていただきます! ですが、ラビコ様の笑顔を拝見し諦めがつきました! ラビコ様がお幸せならば、このアルルシス=サイス涙を飲んで……おごっ……い、痛いすよリリエル姉さん」


 呼び寄せられた騎士の中で、一番背が高い男性がビシっと気を付けの姿勢で叫ぶが、最初の女性、リリエルさんに足を蹴っ飛ばされる。


「……申し訳ありませんラビコ様。どうにもうちの弟共は頭が弱く苦労しております。ペルセフォスでは不出来筆頭の弟メラノスがラビコ様に多大なご迷惑をおかけしてしまい、本当に申し訳ありませんでした」


 リリエルさんが男性の髪を引っ掴み、強引に頭を下げさせる。


 会話を聞くに、二人はご姉弟ですか。


「あっはは~相変わらずリリエルは苦労しているっぽいね~。あ~ごめんねアルルシス~、もうラビコさん身も心も一人の男に捧げちゃってさ~」


 ラビコが爆笑しながらアルルシスと呼ばれた男性の背中をバンバン叩くが、ちょ、ちょっと待って。情報が一気に押し寄せて理解が追いつかないんですが。



 まずラビコの結婚どうのは嘘ね。


 紳士諸君なら分かってくれるよな?


 頼むから新たな国で、これ以上俺の世間体が変なことになる案件はご勘弁。昨日の温泉でもやばかったんだぞ。



「面白いからって挨拶代わりに嘘を広めるなっての」


「それが毎晩激しくンごっふ……いった~! 何すんのさ~!」


 嘘の身も心も全部捧げた話を饒舌に喋っていた水着魔女の頭に、軽く手刀を入れる。


 頭を押さえ、ラビコがグルンと振り向き抗議してくるが無視無視。



「!?」



 その様子を見ていた姉弟含む、騎士達が目を見開き驚く。


 あれ、なんかまずったか?


「ラ、ラビコ様に手刀……も、もしやこの少年がラビコ様の夫、なのでしょうか……」


 女性が恐る恐る聞いてくる。


 なんで嘘話を注意するために手刀入れたら夫扱いになるんすかね。



「そうさ~この少年こそこのラビコさんの全てを捧げた男で~。あ、紹介するね社長~実は私達に結構関わりがある二人で~名前で分かるかもだけど~、ペルセフォスにいた飛車輪乗りのメラノス覚えてる~? あの彼のお姉さんとお兄さんさ~あっはは~」



 ……え、ちょ……そういやさっき懐かしい名前を聞いたな、と思ったが……メ、メラノスってあのメラノス!?


 ペルセフォスのウェントスリッターを決めるレースで、俺のハイラに突っかかってきた男。



 そういやアイツの名前がメラノス=サイスだったか。


 そしてこの女性がリリエル=サイスに男性がアルルシス=サイス……姉弟って……マジすか。












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