第468話 水の国オーズレイク 4 温泉とトラブルの原因は誰なのか様
「いい湯だ」
紳士諸君は温泉によく行くだろうか。
家シャワー派?
ああ……君は異世界には向いていない。諦めて現世を楽しんでくれ。
週末に各地の温泉巡りをするのが趣味?
よし、君は今すぐ異世界に来るべき。俺と一緒に男湯に浸かって次に流行る異世界談義でもしようじゃないか。
……つか、異世界には基本温泉しかない。しかも街に数件しかないところもある。
家風呂?
はは、それは大金持ちの発想だ。温泉にシャワーなんてないし、男女も別に入るのが普通。
男女別……なぁここ異世界だぞ?
そのへんちょっと設定いじってもらって、混浴が当たり前の世界でもよくないですかね。なんでパーティーメンバー女性だらけなのに、俺は一人男湯に入っているんだ。
──毎日ゴツイ男の裸は見飽きました。
「いや待てよ、混浴が当たり前だと、ロゼリィとかの裸を他の男にも見られてしまうのか。それはだめだ」
彼女達の裸は俺だけがこっそりチラ見で楽しみたい。
うん、男女別設定でよし。
ああ、さっきの悪魔みてぇなアンリーナは、今は耳無しバニー娘アプティが顔面鷲掴みで止めてくれたぞ。やはりアプティは頼りになる。そうだ、今回のお礼も含め、アプティには新しいバニー耳を買ってあげないとな。
男湯で長湯しても見える景色は割れた腹筋とか盛り上がった広背筋だけなので、俺は早々に温泉を出てロビーで女性陣が出てくるの待つ。愛犬ベスもお風呂に入れて上機嫌だ。
「いや~おっ待たせ~。ソースとか油で汚れちゃったからさ~念入りに洗ってきたよ~。ほらほら社長~いい香りだろ~?」
女湯から一番に出てきたのは水着魔女ラビコ。
今ラビコが言ったように、水の国の王都オーズレイクで人気だという棒に刺さったフィッシュバーガーを夕飯に食べたのだが、これがまぁ食いにくいこと。
おかげで顔がソースと油まみれに。
なのですぐに温泉施設に来たってわけだ。
「あ、こら……あんまり近付くなって!」
ラビコがニヤニヤしながら顔を近付け胸を寄せあげるポーズをとるが、お風呂上がりに皆が休憩しているスペースでそういう誤解されそうなことはやめい。
あとお前すげぇ俺好みの美人さんなんだから、湯上がりの火照った感じで近付かれたらしばらくこの椅子から立ち上がれない状態になるんだっての。
下半身が。
「なにさ~社長の為に綺麗にしてきたっていうのに~。それとも何~ラビコさんじゃ不満だっていうのかな、この万年童貞君は~このこの~」
膨れっ面になったラビコが俺の体を突いてくる。
くっ……膝抱え込んで、ばれないように体育座り防御で耐えるんだ……。
「こ、好みの女性に近付かれて不満なわけねぇだろ! そうじゃなくて、ほぼ半裸の水着で色っぽい美人様に近付かれた経験値不足少年がどう反応するか察しろって言ってんだよ!」
お前自分の姿を分かっていないのか?
ものすげぇお美人様が水着で迫ってくんだぞ、ヒヨコみてぇな無垢な少年は顔真っ赤で反応するに決まってんだろ!
「…………はぁ。ま~たそういうことをサラッと言う~。だからいつも言うけどさ~社長は状況とセリフを合わせなっての~。そんな股間を必死に隠しながら告白されても~嬉しさ半減だっての~」
ラビコが一瞬驚いた顔になり、すぐにがっかりした感じで深い溜息をつく。
は? 誰が告白なんてしたよ。そして俺のマグナムさんにお気付きでしたか……。
「え? なんですか告白って。私にですか? いいですよ、さぁどうぞ!」
髪をバスタオルで丁寧に拭きながらグラマラス美女ことロゼリィがラビコの後ろから現れ、ニッコニコ笑顔で俺の真正面に鎮座。
「ヌファァ! き、来ました……! 先程は怪力無表情女に邪魔されましたが、よく考えましたら、口の周りが汚れている状態はとてもムーディーとは言えませんでした。しかし今はお風呂上がりで体が清まった状態……! このアンリーナ、師匠の若さゆえの欲をコントロール出来ない暴走気味な愛を受け入れる準備は完了しております! ヌフフゥ、ああご安心を。ホテルは大部屋ですが、しっかりと師匠の愛を個別に受け取れるように最高級の個室は確保してあります!」
女湯からダッシュで現れた小柄な女性、アンリーナが意味不明な発言をし、大興奮状態の肩で息をしながらロゼリィの後ろに並ぶ。
若さゆえの欲をコントロール出来ない暴走気味な愛ってなんだよ。
俺が見る限り、それをやってんのはアンリーナさんじゃ……。
って部屋もう一個確保? どんだけ金使ってんだよ……。
「なんだ、ここに並べばヤれンのか? 確かにキングに抱かれるのって、色々とンでもねぇことされそうだよな。想像だけでヨダレが出そうだぜ。いいぜぇ、アタシはそうやってガツガツ来てくれたほうが好みだしよ。正々堂々、拳のタイマンで語り合おうじゃねぇか!」
風呂上がりで猫耳フードにゴーグルは外しているクロが、両手拳をガツンガツン合わせながら列に並ぶ。
え、なにその果たし合いみたいなやつ。俺初撃で確実に負けるって。
「……マスターが本気を出すと、五人程度では抑えられないかと。二晩コース……でしょうか。皆様お覚悟を……」
いきなり俺の背後に現れたバニー娘アプティがボソっと呟くと、並んだ女性陣がゴクリと喉を鳴らす。
ちょ、ちょっと待てお前ら。
まずここが御家族連れで賑わう大都会の街中にある温泉であることを思い出してもらい、周囲の俺に向けられる、主に不審者を見る視線に気が付いて欲しい。
そして話が途中からヤるだのなんだのの話にすり替わっているが、ラビコ、ロゼリィまでが告白だので、三人目のアンリーナでいきなり愛を受け入れるだのなんだのになったよな。
うん、分かったぞ。
ついに話が横道にそれて、俺の世間体が窮地に陥る原因を突き止めた。
それはアンリーナ、君だ……って待てよ、今回たまたまアンリーナがいるけど、いないときのほうが多いよな。ソルートンでの俺の世間体は地下深すぎて計測不能レベル。アンリーナがいないときにも普通に俺の世間体は急降下してい……。
ああ──うん、結局俺だわ。
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