第463話 花の国の王都フルフローラ 10 さわやか早朝墓地会話と新たな国へ様




「いやすまない、朝からつまらない話を聞かせてしまったな。お詫びに君の話を聞きたいんだがいいだろうか」



 早朝、ロゼオフルールガーデンの高台の上にある墓地。


 そこでローベルト様から花の国フルフローラの簡単な歴史を聞けた。


 花は売るためではなく、死者に手向ける為に作っていたと。




 ……それは分かったのだが、フルフローラの歴史のお話のお詫びになんで俺の話になんの。




「真っ直ぐに聞くが、君は一体何者なんだ? もしかして名のある冒険者なのか?」


 ローベルト様がぐいぐい俺に近付いてくる。


「あ、いえ、俺はただの街の人で、正式な冒険者ですらないです……」


 ポケットから冒険者カードを取り出しローベルト様に見せる。


 俺の職業は街の人。


 見てくださいよ、カードに押されたこの可愛いハンコを。


 いや、街の人でも冒険者カード出たんだから、俺は冒険者なのか?



「街の人、か。私にはとてもそうは見えないのだがなぁ。まず、あの大魔法使いであるラビコ様を従えているではないか。あのルナリアの勇者パーティーの火力担当だったラビコ様を。最初はラビコ様が率いる冒険者パーティーかと思ったのだが、皆の動きを見ていると、全員君の言葉を待っているんだ」


 俺はラビコを従えていないぞ。


 絶対あいつ俺のこと、ちょっと小突いたら何か面白いこと言う玩具と思っているだろ。


「あのラビコ様が、だぞ。私の記憶では、ラビコ様は確かにすごい魔法使いなのだが、どちらかと言うと無愛想で自分勝手……とまでは言わないが、基本上から目線で人の話は聞かないタイプだったのだが……あ、これは内緒で頼むぞ」


 ラビコって基本振る舞いがわがままだしなぁ。


 以前はストッパー役っぽかった勇者さんがいたみたいだが、パーティー解散して以降は誰もいなかったみたいだし。つか王族様相手にも本当にやっていたのかよ。


 ああ、大丈夫っす。言わないですよ。


「それが久しぶりに出会ってみたら、まるで人が変わったかのような変貌ぶり。にこにこ笑顔で、話もきちんと聞いてくれ、田舎王都と言ったことを頭を下げて謝りもしてくれた。こんなラビコ様は初めて見た。どういうことかと思ったが、それらの行動は全て一人の男の為にやっていると気が付いた。それが、君だ」


 ローベルト様がじーっと俺を見てくるが、俺はローベルト様が思っているような大層な人間じゃあないっすよ。生まれながらに初老紳士と小動物の心を合わせ持つ童貞少年です。


「ジゼリィ様のご令嬢であられるロゼリィ嬢もそうだし、あの世界的大企業ローズ=ハイドランジェのアンリーナ氏も君をリーダーと扱っていた。猫耳フードの女性にバニー姿の女性、あの二人もただならぬ冒険者っぽいが、やはり君を信頼し従っている。だが君の冒険者カードは街の人……一体どういうことなのか。君にはとても興味がある」


 俺の周りをぐるぐる回りローベルト様がじろじろ見てくるが、あまり回るとうちの愛犬に一緒に遊んでくれるんだと判断されますよ。



「あ、いやまずは感謝を述べねばならんな。今回は君発案のカフェのおかげでロゼオフルールガーデンに賑わいを取り戻すことが出来た。さらにローズ=ハイドランジェ社とも繋がりが出来、ガーデンにカフェが常設出来そうだし、本当に君にはいくら感謝しても足りないぐらいだ。ありがとう」


 ローベルト様が俺の手をしっかり握り、優しい笑みを見せてくる。


 うーわ、美人様に微笑まれると、小動物少年は顔を赤らめることしか出来ねーっす。


「あはは……いや、笑ってすまない。あれだけの女性に好意を寄せられているのに、女性慣れはしていない様子か。あれか、まだ誰にも手を出していない、と。なんとまぁ……いや、これはロゼリィ嬢にとってチャンスだな。どうだろう、今夜あたりロゼリィ嬢を抱いてみるというのは。今回のお礼に私が色々雰囲気作りを手伝うぞ?」


 そ、早朝の墓地で何を言い出すんだこの人……! 


 そ、そういうのは周りから言われてするもんじゃないですって! ましてやロゼリィを抱くとか、向こうの気持ちが置いてけぼりじゃないっすか!


「あ、い、いえ! そ、そういうのは相手の気持ちを尊重しないといけないですし、無理矢理はその……あ、あと僕は一人で十分満足していますので……!」


「ぶっ……あはははは! 君は本当に優しい男なのだな。あはは……いやすまない……だからこそロゼリィ嬢も君を好いているのだろうな。そうか、一人で満足しているか。それは大変素晴らしいことなのだが、あまり公言することではないのではないかな……あはは! あーダメだ、涙が出てきた。こんなに心の底から笑ったのは久しぶりだ」


 俺が真っ赤な顔でしどろもどろになっていると、ローベルト様がその様子を見て大爆笑。



 え、あれ、俺なんか変なこと言ったか……? 


 えーと、僕は一人で十分満足しています。


 うん、これってアレじゃん。毎夜一人でやってますって宣言じゃん。女性を目の前に。


 変なことどころか、セクハラレベル。


 お姫様相手に。


 あかん。



「心配することはないぞ。私だって無理矢理なんて本意じゃない。ロゼリィ嬢は友人なのだ、その大事な友人の願いを叶えたいというわけさ。一人でもするのもいいが、好き合う男女が抱き合うというのも素晴らしいことだと思うがな。もしかして君はロゼリィ嬢のことを好いていないのだろうか」


 んなわけない。ロゼリィのことはすげぇ好きですよ。


 笑顔がかわいいし、優しいし。


 ああ、鬼は怖いけど……。


「お、俺はロゼリィのことが好きです。でもそれはラビコもそうだし、アプティもアンリーナもクロもみんな好きです。守りたいし、側にいて欲しいです」


「……なるほど。少し君のことが分かってきたぞ。その歳なら我慢出来ず、若さと欲の勢いで手を出したいだろうに、君はそれをしない。なぜなら彼女達は大事なパーティーメンバーだから。守りたい、側にいて欲しい、それはつまり彼女達を自分の家族のように思っているということではないだろうか」


 家族。


 まぁ、それぐらい大事には思っているが……あれかな、一人で突然異世界に来たけど、やっぱり人間て一人じゃ寂しいわけで、無意識に家族と呼べるような繋がりを求めているってことだろうか。


 愛犬を抱いていると安心するしなぁ。


「その心は大変素晴らしい。だが、彼女達の想いはどうだろう。この短期間ではあるが、君達の関係を見ていた。うん、どう見ても彼女達は君を好いている。普通に抱いてしまって構わないと思うが? 君の拠点はペルセフォスなのかな? ならば問題あるまい。金の続く限り存分に抱くが良いし、君なら彼女達全員を幸せに出来るだろ」


 えーと、ペルセフォスって当事者達が認めたら、何人と結婚してもいいんだっけ? 夢はある、あるが、十六歳の少年にはまだ現実には考えられず、本当に夢のお話です……。




 とりあえずなんとかごまかし、ローベルト様との墓地での早朝会話を逃げ切った。







「もう行ってしまうのか……君達がいるととても楽しかったし、ずっと滞在してくれても構わないのだが……とても残念だ。またいつでも来てくれ、そのときは大事な友人として迎えたい。そしてロゼリィ嬢、頑張るんだぞ! 私は君の味方だ!」


 午前十時発の魔晶列車に乗るために駅へ。



 なんとローベルト様が直々に見送りに来てくださり驚いた。


 ロゼリィとローベルト様が握りこぶしを見せ合いうんうん頷いているが、一体この二人の間に何があったの。


「お城に泊めていただきありがとうございました。カフェのことは後日アンリーナの会社の人が来るそうです」


 ローベルト様に頭を下げ魔晶列車に乗り込む。



「あっはは~まったね~。ていうか~ロゼリィ側につくならローベルトは敵ってことか~そうかそうか~……った~! この私の頭叩くとか命知らず過ぎだと思うんです~」


 ラビコが嫌な笑顔でローベルト様を睨むが、ローベルト様がマジでびびっているからやめなさいチョップを脳天にかましてやった。


 ラビコがすぐに右腕に絡んで抗議してくるが、無視無視。


「とても楽しかったです! 次に来るときは、このような関係で来れるように頑張ります!」


 ロゼリィがニッコニコ笑顔で左腕に絡んでくる。このような関係って何。


「カフェの件は後日よろしくお願いいたします。簡易ですが事前資料となります」


 アンリーナが結構な分厚さの書類の束をローベルト様に丁寧に手渡す。


 この短時間でよく揃えたな……さすがアンリーナ。


「もう花びら食うのはこりごりだぜ。次来るにしてもカフェ出来てからにしようぜキング」


 猫耳フードをかぶったクロが俺に寄りかかりつつ、大変失礼なことを言う。


 あのな、あの花びらスープ食ったの実質俺一人だろ。


「……紅茶の香り漂う素敵なところでした……ロイヤルフルフローラをまた飲みたいですマスター」


 今は耳無しバニー娘アプティが俺の尻をつかんでおねだりしてくるが、あの紅茶は本当に美味かった。


 なんにせよアプティさん、ローベルト様が見ている前で無表情に俺の尻つかむのやめてね……。



 ローベルト様に執事さん、騎士さん達に頭を下げ、魔晶列車は次の目的地へと進み出す。


 

 次の目的地? 


 俺も朝アンリーナに聞いたばっかりでよく分からないが、次は新たな国、水の国に行くそうだ。







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