10 異世界転生したら島で暮らすことになったんだが

第423話 ソルートンのいつもの朝×平和クラッシャー様




「おはようございます、マスター」


「……おはよう」



 ふぁ、もう朝か。


 いつものごとくバニーガールのような姿をしたアプティに起こされる。


 


 アプティが部屋の窓を開け、軽く掃除を始めたのを見ながらベッドから起き上がる。あくびをしながら周囲を見渡すが、紛うことなくソルートンの俺の部屋。


 忘れがちだが、アプティは人間ではなくこの異世界では敵対勢力にあたる蒸気モンスターという種族。


 なんだかんだで俺の側にいるが、帰る気はないのかね。


 よく分からんがすっげぇ身の回りのことやってくれるしとても美人さんなので、もう俺から頭を下げて側にいてくれと言いたいレベル。



 ベッドの脇には俺の部屋完成記念に女性陣からもらった紫、白、黒、紅色のクッションが置かれている。これは贈り主であるラビコ、ロゼリィ、アプティ、アンリーナのそれぞれの好きな色で用意してくれた物だそうだ。ありがたい。


 なんとなくたまに、ごくたまにだがクッションを左右に並べ、女性四人に囲まれている想像で一人頑張ったりもする……待ってくれ、暑さで頭がどうにかなっているときに一回やっただけなんだ。


 暑い日の夜、少年は想像で自由に羽ばたくんだ。


 見逃してくれ。


 いや、二回か五回、十はやったかな。


 見逃してくれ。



 しかもほとんどの回をアプティに見られていたそうだ。

 

 十六歳の少年には決して見られたくない熱い行為が多々あるんだから、それは文字通り見逃してくれよアプティ……。



 想像じゃなくエロ本を見ろ? ねぇよそんなもん。


 この異世界にエロ本は存在しているが、俺十六歳。法律で買えませんよ、と。


 ああ、一応俺の部屋のベッドの正面のところに飾り棚があって、そこに一冊のエロ本が鎮座しているが、あれは読めないんだ。


 年齢的にもあるが、宿の娘ロゼリィによって紐でぐるっぐる巻きにされていて物理的も読めない。読むと多分俺の命が半分以上削られそうな雰囲気。


 勘違いしないで欲しいが、買ったのは俺ではなく成人済みであろうアプティだからな。


 お世話になっている感謝を込めて俺が好きそうな物として買って贈ってくれたが、一度も読んだことがない。


 見えない法律と見えるぐるぐる巻き紐のせいで、な。


 ああ、読めないエロ本が側にあるこの苦悩。


 十六歳の少年には課せられた十字架が重荷過ぎないか、神よ。



「ベス!」


 一方的な欲で神を恨んでいたら、俺の横で丸くなって寝ていた愛犬ベスが元気よく吠え頬を舐めてきたので軽く頭を撫でてやる。いつもかわいいなぁ、我が愛犬は。


 つーか基本ベスも俺の夜の一人カーニバルを見ているんだよな。


 うーん、俺はベスにどう思われているのか気になるが、俺は俺を貫くぞ。







「あ、おはようございます。今、紅茶をご用意いたしますね。いつもの席についてお待ち下さい」


 ソルートンの宿二階に増築した俺の部屋から一階の食堂に降りていくと、宿の制服に身を包んだロゼリィが微笑んできた。相変わらず笑顔の素敵な女性である。とても大きなお胸様やお尻様も大変素敵な女性で、ぼーっと見ていたいレベル。


 彼女はロゼリィ=アゼリィといい、このソルートンの宿「ジゼリィ=アゼリィ」の跡取り娘さん。


 俺がこの異世界に来て以来ずっとお世話になっている、とても気の利く優しい女性。



「お待たせいたしました。本日のモーニングセットでございます」


 ロゼリィが笑顔で持ってきてくれたのは、四・五杯は飲める紅茶ポットに丸いパン。それにチーズ、ジャムにサラダとデザートの小さなケーキがついたセット。


 宿の神の料理人、イケボ兄さんが焼いた香ばしいパンと紅茶の香りが素晴らしい。


 正面に座っていたアプティの目が突如輝き、紅茶ポットを直ぐい飲み。


「お、落ち着けアプティ。紅茶は逃げないっての。すまんがロゼリィ、紅茶ポットをもう三個頼むよ」


「ふふ、もう用意してあります。アプティはここの紅茶が大好きみたいですし」


 すでに紅茶ポットを飲み干したアプティ。これはもう二個は飲みそうな勢い。自分用にも一個で計三個と言ったら、すでにロゼリィが追加紅茶ポットを用意していた。


「ありがとうロゼリィ。アプティはここの紅茶は無限に飲む勢いだからなぁ」



「それでは私も朝食をご一緒させていただきますね」


 ロゼリィが俺と同じセットを持ってきて左隣りに座る。うう、髪からとても良い香りが……。


 愛犬ベスにもリンゴを出し、みんなでまったり食べる。




「平和だ……」



 宿一階の食堂は朝にも関わらずすでに混雑。


 一応俺達はオーナーであるロゼリィのお父さん、ローエンさんから専用の席を用意してもらっているので、どんなに混んでいても座れはする。


 でもさすがに大混雑のときは遠慮するがね。


 パンにチーズを乗せ、紅茶の香りを楽しみつつ朝食をいただく。なんとも平和な空間。


 まぁロゼリィは基本こう静かに優しく微笑んでくれる女性だからな。鬼覚醒は別件。




 昨日の夜王都から帰ってきて、今は翌日の朝。


 例によって夜は俺達のおかえりパーティーをジゼリィさんが開いてくれ、宿の常連のみんな含め俺達の無事を祝ってくれた。


 さすがに今回は遠方にあったデゼルケーノ、さらに王都に俺の用事でしばらく滞在したので期間が長く、ソルートンのみんなはかなり心配してくれていたそう。


 ご心配をおかけしたのは申し訳ないが、帰りを待ってくれている人がいるってのはありがたいもんだ。



「うぃっ……ぉぅぃえ~いっく……飲みすぎた~」


 ガラガラの低い声を出しながらフラフラと二階から降りてきた水着の女性。


 あまり関わりたくない感じの雰囲気なのだが、残念ながらあれが世界で五本の指に数えられる大魔法使い様であり、俺達の頼れるパーティーメンバー様なのだ。


 ああ、騒がしいのがきたか。せっかく平和な朝だったのだが。



「おおおおお! ラビコさーん! 今日も素敵っす!」


 ラビコを見た食堂の男達(世紀末)が歓喜の声を上げる。まぁどう見てもエロいしな、ラビコは。


「お~ラビコさんはいつも素敵な女性だぞ~さらに今は恋する女だからな~フェロモンど~ん! あっはは~」


 ラビコが男達の声に応え胸を強調するようなエロいポーズをとると、男達が地鳴りのような大歓声を上げる。カップの紅茶が微振動で波打つ。


 毎度思うが、これ振動兵器に使えねーかな。



「おっは~社長~。いやぁ昨日飲み過ぎちゃってさ~久しぶりにソルートンに帰ったもんだからラビコさんはしゃいじゃって~」


 ラビコがいつもの席にいる俺をみつけると、にかぁと笑って隣に座り右腕に絡んでくる。



 デゼルケーノでの話、千年幻ヴェルファントムという上位蒸気モンスターをラビコが倒したという話はここソルートンにも届いたらしく、以前ラビコとパーティーメンバーだったローエンさんとジゼリィさんが信じられないといった感じで聞いてきた。


 ラビコが漏らすなよ~と耳打ちで俺とベスがやったと真相を話し、二人はさらに驚いた顔をしていた。


 その後すぐにジゼリィさんが娘であるロゼリィを呼び寄せ、なにやら俺をチラチラ見ながら不穏な作戦会議を開いていた。


「いいかいロゼリィ、うちの宿の未来はあいつがいるかいないで大きく変わる。あんただってあいつ以上の男となんて出会えないと思っているんだろう? だったらさっさと動きな! あいつが好きなら使える物全部使って奪うんだよ! 彼は童貞なんだろ? もう無理矢理にでも抱きついて子供作っておいで! 絶対に逃がすんじゃないよ、上から押さえつけて手足縛ってやりな!」


「は、はいお母さん! 宿の為、なにより私の未来のため……! ライバル達には絶対に負けません! 縛って無理矢理……はぁはぁ……」


 ジゼリィさんに渡されたロープをロゼリィが鞭のように構え持ち、熱い吐息をはぁはぁ漏らしながらニヤァと笑う昨日の夜の姿は、今思い返しても背筋が凍るようだ。




「早く社長がお酒飲めるようになってくれたらな~。そうしたら昨日みたいな宴会がもっと楽しいのに~。いつかさ、メンバー全員でお酒片手に語り合いたいんだよね~。その頃には今よりもっと色んなことが思い出になっていてさ、私達の冒険譚が一晩じゃ語り尽くせないぐらいのもので~……あ~今から想像するだけで楽しみだな~あっはは~」


 俺とロゼリィ、クロはお酒が飲めないのですぐに寝たが、ラビコ達は朝方まで騒いでいたとか。アプティも一杯ぐらい飲んだらしいが、すぐに俺のベッドに勝手に潜り込んできていたな。



 ラビコとお酒、か。すごく楽しそうと思う。


 でもそれは早くても四年後、俺が二十歳越えてからになるな。



 あと四年、か。


 俺が異世界に来てからの短い期間でも相当色々あったが、これからさらに四年分上乗せされたら俺達の冒険譚ってのはどんな分厚さになっているのだろうか。


 人が歳をとるということは命の期限が終わりに近付くということなのだが、俺はこれから起こるであろう楽しいことや辛いこと、それを皆と共に過ごし想いを共有出来ると考えるだけでワクワクしてくる。


 命の終わりが怖いと思うよりも、その命を削って積み重ねる俺達の思い出といういちページは物語となり、いつか後の世の人が冒険譚として楽しんでくれると考えたら俺は誇らしい。


 でもその時の俺はエロ成分が抜かれた好青年になっているんだろうなぁ。いや、そのほうがいいけど。うん、ぜひそう書いてくれ。


 たしかロゼリィが日記を付けているんだっけ。


 将来それを元に壮大な物語を本にでも出来ないものかね。超絶格好いいタイトルつけてやるさ。


 ああ、間違っても犬がどうとかいうタイトルは付けないぞ。




「うにゃああああ! ……キ、キング……ト、トイレどこだっけぇ!!」


 本のタイトルを考えていたら、二階から血相を変えた女性が大汗かいて階段を駆け下りてきた。


 彼女はデゼルケーノで新たに知り合いメンバーに入った、クロ。


 二丁の魔晶銃というウエポンを使いこなす女性で、その正体は魔法の国セレスティアの王女様。もちろん魔法が得意で、ラビコ曰く血のなせる業、セレスティアの王族魔法である柱魔法が使える才女。


 普段は正体がバレないようにコートの猫耳付きフードを深くかぶっているので、ラビコはよく猫、セレスティアを無断で出てきたから家出猫って呼んでるな。



「おおおおおおお!」

「ショーが始まるぞぉ!」

「この街の英雄様のお仲間さんが朝からサービスしてくれるってよ!」


 クロを見た男達が笑顔で騒ぎ出すが、それもそのはず。クロは寝起きそのまま出てきたようで、薄い肌着にパンツ一丁という出で立ち。


 そういやこいつ、普通に大股広げて座ったり自分が女とかあんまり考えない奴だった。



「クロォォォォ! 戻れ! トイレなら二階にもあんだろ!」


 俺は叫び立ち上がり、クロの元に駆け寄る。


「二階!? 二階にあんのかよ! ど、どこ……キングこれまずい……早くしないと漏れ……」


 このクソ猫ぉぉぉ! 


 俺は着ていたジャージの上着を脱ぎクロの肩にかけ手を引っ張る。


 クロはこの宿ジゼリィ=アゼリィには昨日の夜初めて来て、いまいち何がどこにあるか分かってないのか……。



 しかし……冷静に考えると俺のジャージ羽織った下着一丁の女性ってのは……エロいな。


「にゃあああ……」




 ──それは初デート。


 急な雨で着ていた服が濡れて、しかたなく近かった俺の家に来てもらう。風邪引いたらまずいからと女性に濡れた服を脱いでもらい、これでも着てくれと渡した男物の服。


 彼女は雨で濡れた体で恥ずかしそうに赤面し微笑み、やっぱり君の服は大きいねって言う。俺は雨で髪を濡らし、男物の服を着た普段と違う状態の彼女に心がどうかしてしまい、そっとその手を握る────



「も、漏れるぅぅぅぅ!」



 そう、すると彼女は切迫した表情で大汗流しながらこう叫ぶんだ……って俺数秒虚空こくうを見つめてぼーっとしてたぞ! 


 まずい!


「す、すまん、ちょっと想像の翼がはためいて……もう少し我慢しろ、クロ! ほらそこだ!」


 真っ青な顔でプルプル震えだしたクロをトイレに押し込む。



 はぁ……さっきまでは平和な朝だったんだがなぁ。


 基本ラビコがトラブルメーカーなんだが、新たに加わったメンバー、クロもそれ系の分類っぽいぞ。



 そんなでこの女性が今日からこのジゼリィ=アゼリィで新たに暮らすんだが、ひどい紹介初日になってしまった感じ。














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