第422話 パラダイス閉園と誰が最初に快楽プラン様 ──九章 完──




「アプティが急にお風呂から出ていったから後を追ってみたら~やっぱりこういうことか~」



 夜、お城のお風呂に行こうとしたら二匹のピンクのクマさんに襲われた。



 助けに来てくれたと思われる隠密王子リーガルは、上司クマさんに言いくるめられ無力。


 それどころか下半身裸の俺にノーマルな行為とは、という実演をクマさんに見せようとしてきやがった。


 もはや敵。


 最後の手段とバニー娘アプティに助けを求めたらすぐに来てくれ、二匹のクマさんとリーガルを余裕で振り払ってくれた。


 よかった……俺の童貞は見事守られた。


 童貞卒業が中身不明な着ぐるみクマさん二匹かイケメンリーガルか、みたいな選びたくない二択になって焦ったぞ。贅沢を言えるのなら、初めてはせめて普通の女性でお願いしたい……。



 とりあえずはアプティが不審者三名から守ってくれたのだが、なぜか今俺はラビコにうつ伏せで顔を踏まれている状況。



 俺は被害者なのにおかしくないか。




「ほらアプティ~。社長が欲丸出しで見てくるからタオル巻きな~」


 ラビコも入浴中だったようだが、こちらはしっかり水着を装備。


 ピンククマさん二号の顔に巻き付いていたバスタオルを剥ぎ、裸のアプティに放り投げる。


 ああああああああ……パラダイスが……閉園……。


「う~わ、アプティが裸じゃなくなったら分かりやすく全身の力抜けてきた~。社長ってばエロい欲に向けるエネルギーだけは世界屈指の男だね~あっはは~」




 その後、一人抵抗を続ける上司ピンククマさんだったが、ラビコの放った魔法の光の紐で拘束され御用。


 二号クマさんとリーガルも光の紐で縛られ、正座でラビコの説教を受けていた。








「さすがにサーズ姫様にお城に不審なピンクのクマさんがいるって報告しようと思う。最初は一匹だったけど、気が付いたら二匹に増えていたし。お城で自然増殖しているとしたら大問題だろ」


「ぶっ……! あっはは! 自然増殖って……それはないから大丈夫だって~あっはは~。お城の人もみんな知っているし、神出鬼没なマスコットとして放っておいてあげたら~? そのほうが変態姫も伸び伸び出来ると思うよ~?」


 翌朝、ラビコに真面目に相談するが腹を抱えて大爆笑された。


 なんだよお城の人みんな知っているのか。その上で放置されているってことは、危険性はないってことか。


 まぁピンクのクマさんは見た目可愛らしいし、お城のマスコット的な立場になっているのだろう。


 サーズ姫様が伸び伸び出来るってのはどういう意味か謎だが。



「よく分からんが……まぁいいか。なんにせよこれからサーズ姫様に挨拶に行くから準備してくれ」


 俺達が王都にいる間寝泊まりしていたお城二階の豪華なお部屋。


 サーズ姫様のご厚意で本来他国の王族クラスが来たときに開放する部屋を借りているのだが、さすがに長居し過ぎたしそろそろ帰ろうと思う。


「あれれ~もう帰っちゃうのか~。社長ってば王都に長く滞在していたもんだから~てっきり私と王都で暮らしてくれるのかと期待したのに~あっはは~」


 俺の言葉を聞いて茶化しはするが、ラビコがすぐにベッドに置いていた杖と小さなカバンを手にする。これでラビコは準備完了なのだ。


 ずっと世界を巡っていたせいか、ラビコは物をほとんど持たない。必ず持つ物は新鮮なキャベツぐらいだろうか。

 

 あと今回はデートのとき俺が買ってあげたお人形さんセットと子供用の服と靴が入った紙袋があるが、それ持って帰るんですかい。



「あ、帰るのですか? ああ、マズイです……私調子に乗って王都のお店で化粧品いっぱい買っちゃいました……早くまとめないと!」


 ロゼリィが焦った顔で化粧台の鏡の前にズラリと並べていた化粧品達を袋に放り込み始める。おっと、ロゼリィはかなり物を買ったみたいだな。


 まぁロゼリィは普通の女の子だし、せっかく都会に出てきたのだからソルートンで買えない物は買うわな。



「お、ソルートンに帰んのか? キングの新たな女として宿ジゼリィ=アゼリィメンバーにゃあしっかり挨拶しないとな、にゃっはは!」


 猫耳フードのクロがゲラゲラ笑うが、そういやクロもついてくるんだっけ。


 ローエンさんやジゼリィさんになんて説明すりゃいいのか悩む。



 いや、あの二人はラビコと一緒に世界を巡った勇者パーティーメンバー。


 もしかしたらクロのこと知っているかもしれんな。


 クロが今みたいに俺の女だ、みたいな余計なこと言わなきゃ大丈夫だろ。


 ……言うなよ。


 娘であるロゼリィと俺をくっつけようとしているジゼリィさんが絶対敵視してくるぞ。



「……早く宿の美味しい紅茶が飲みたいです……」


 バニー娘アプティが待ちきれない感じでソワソワと体を揺らす。


 お城の前に作ったカフェジゼリィ=アゼリィ。


 そこでも美味しい紅茶が飲めるのだが、アプティはどうにもイケボ兄さんが厳選した紅茶が好物らしい。


 カフェジゼリィ=アゼリィを任せているシュレドもかなりの腕前なのだが、兄であるイケボ兄さんのほうがアプティの中では上なのか。


 アプティに認められるぐらい、まだまだ頑張らなきゃならんなシュレド。







「ほう、帰るのか。しかし君は大きな忘れ物をしていないか? 今ならまだ間に合う、よく考えてみてほしい」


 サーズ姫様にお時間を作ってもらい、応接間でご挨拶。



 王都にいる間、お城の部屋を空けて頂きありがとうございました。皆とても笑顔で王都滞在が出来、これは全てサーズ姫様のお気遣いがあったからこそ……云々と、とても丁寧に頭を下げたのだが、サーズ姫様がなぜか不満気。


 あれ、普段使い慣れない言葉を使ったから何か失礼があったのか?



「忘れ物、ですか? えーと、なんだろう……うーん」


 俺が少ない脳をフル回転させるが何も浮かばん。


 何だ? 忘れ物?


「先生! ほら、ほらっ!」


 サーズ姫様の隣に騎士であるハイラもいるのだが、俺の後ろにいるクロ、ロゼリィ、アプティ、ラビコと指した後、自分とサーズ姫様を指す行動をしているな。


 あれが何かヒントなのか。


「ぶっふふ~! あ~ダメだ我慢出来ない~あっはは~! デート出来なくて残念だったね~お二人さん~。あ~でも一応言っておくと~うちの社長はとっても忙しい二人に気を使っただけだからね~」


 デート? 確かに昨日までクロ、ロゼリィ、アプティ、ラビコとデートっぽいものはしていたが。


 もしかしてサーズ姫様とハイラもその順番が回ってくると待っていたとか? いや、だとしたら申し訳ないことをしたが……。


 ラビコが今フォローしてくれたが、ただの街の人である俺が国の為に忙しく働いているサーズ姫様とハイラを私的デートに誘うなんて出来ないっすよ……。そりゃあ出来たら俺が嬉しいけどさ。



「君が気を使ってくれているのは知っている。確かに私は忙しい。この国の為、日々身を粉にして動き回っているが、それがペルセフォスの名を背負った私の血の役目でもある。だが私もその名を外すプライベートな時間だってあるのだ。そういうときぐらい、側にいて欲しい異性を想う一人の女になってもいいだろう。そして誰であろう君の誘いならば仕事より優先したい」


 サーズ姫様がじっと俺を見て言ってくるが、俺じゃあサーズ姫様に釣り合わない気がするんですが。だってただの街の人っすよ? レベルは2に上がりましたが。


 王族とはいえプライベートな時間が大事なのは分かります……が、俺がもしデートに誘ったとしてもお仕事優先でお願いしたい。


「そ、そうですよ! 私は早く騎士なんて辞めてソルートンに行きたいのを超絶我慢しながらお仕事しているんですから! 先生が強引に誘ってくれさえすれば、誰にも文句を言われず晴れてお嫁さんとしてやっと私の人生が始まるのに!」


 ハイラがフンフン怒りながら言うが、ハイラさんは騎士として、国を代表するウェントスリッターを名乗る身としてお仕事と真剣に向き合って下さい。


 あとサーズ姫様の前で騎士を早く辞めたい云々とハッキリ言わないように。そしてお嫁さんって何の話だよ。



「あっはは~まぁラビコさんも一人の女として二人の言い分は分かるけどさ、それでも昨日の夜に充分楽しんだろ~?」


 昨日の夜? 


 サーズ姫様とハイラが何かしたのか?


 俺のほうはピンクのクマさんに襲われて大変な目にあっていたが。


「ふん、毎度いいところで邪魔が入るがな。次こそ着飾らないストレートなこの想いを伝えてみせるさ」


「あっはは! だからさ、その着飾らない想いがストレート過ぎて異様で怖いんだって! 変態姫はそうやって欲丸出しで行くから上手くいかないんだろ~?」


 サーズ姫様とラビコが睨み合うが、内容はともかくこうやって真正面から言い合える関係っていいよな。



「あのサーズ姫様、次回ということでお許し願えないでしょうか……。お世話になっているのにサーズ姫様には何も返せていない想いはいつもありますので、しっかりお返ししたいです」


 どう考えてもお世話になりっぱなしだよな、俺。デートという形でいいと言うのなら、サーズ姫様の貴重な休日を楽しんでもらえるように努力します。


「ほう、そうかそうか、それはよい心がけだ。まとめると、いつも私に想いを寄せていたからデートがしたい。次回までに私の日々の仕事やストレスで疲れ切った体を優しく包み込み癒やしてくれ、快楽を伴う行為も含めたデートプランを練ってくれる、と。そこまで言われたのならこのサーズ=ペルセフォス、その想いに応えねばならんな、うむ」


 ラビコと睨み合っていたサーズ姫様がクルッとこちらを向き超笑顔。


 俺が言った内容が一言も反映されていないのが気になるが。



「ず、ずるいですー! 先生、私も……私も快楽プランが欲しいですー!」


 ハイラが俺に抱きついてきて、おもちゃを欲しがる子供のようにねだってくるが、快楽プランって何。


「はぁ~? 何調子に乗ってんだペルセフォス組~。社長がデートするって女の数に含まれてなかった二人にしょうがなく付き合うだけだなんだからな~。快楽の行為とか~そういうのは私だけにしてくれるサービスだっての~!」


 俺に抱きついていたハイラを引っぺがし、代わりにラビコがぐいぐい体を寄せ抱きついてくる。


 だから俺が一言も言っていない架空のプランに乗っかるなっての。


「あの、わ、私もそのデートプランをお願いしたいです! あなたとは早く子供を作らないと、宿の未来が……!」


 やばい、立場上おとなしくしていたロゼリィまでもが焦って乗っかってきたじゃないか。


「にゃっはは、しっかし毎度すげぇなキングは。こんなことが毎日起こるってンだからたまんねぇ。こんなに面白くて楽しくて強い男は二度と出会えねぇンだから、アタシも本気で奪いにいくぜぇ? セレスティアの未来はキングにかかってンだからよぉ、にゃっはは!」


 くそ、クロまで面白いからって乗っかってきやがった。


 なんで魔法の国セレスティアの未来が俺にかかってんだよ。


 こうなったら頼れる人物はただ一人、アプティさん!


「……私はマスターに満足して欲しいです。自分の欲だけをぶつけてくる人間はマスターの、敵……」


 だめだ、アプティがとてもいい子っぽいけどおかしなことを言っている。


 こうなったら我が自慢の愛犬ベスさん……は俺達の痴話喧嘩に呆れ大あくび。アカン。




「で、では列車の時間なんでソルートンに帰ります! また王都には来ますのでそれでは!」



「あ、こらせめて誰と最初にヤんのか決めてけ~!」


 俺が場を放棄して逃げようとしたら、怒りのラビコが俺のズボンを全下げ。


 な、何してんだこのクソ魔女!


「……敵がマスターに危害を加えようと攻めて来ました。緊急避難モードに入ります……」


 それを見たアプティが下半身裸の俺をお姫様抱っこ。そのまま部屋を出て廊下へ。


 お、おいこれはまずいって! 部屋の中ならまだ不特定の人に見えないから許されたかもだが、マグナム丸見え状態でお城の中走り回ったら伝説になるだろ! 


 や、やめてぇ!



「あ、逃げたぞ追え~! 一番に捕まえた人がプランの権利得られるぞ~あっはは~!」


 やばい、ラビコが超面白いこと見っけた顔してる。


「や、宿の未来の為……! 私の幸せの為! 例えサーズ様が相手だろうが負けません!」


 ロゼリィが一番にダッシュ開始。


 実力者揃いのこの中じゃ一番体力ないんだから無理しないでくれよ。


「ほう、さすがにこういうときはロゼリィ殿が私にも牙を剥くか。いいだろう、女として受けて立つ! 」


 サーズ姫様が楽しそうにロゼリィの肩を叩き追い抜く。国を代表する騎士、ブランネルジュ隊を率いる騎士でもあるからな、サーズ姫様は。


 宿の娘であるロゼリィに体力レースはきついだろ。


「にゃっはは! ここはこれからお世話になるジゼリィ=アゼリィの娘であるロゼリィに肩入れしとくぜ! ホラ、おんぶしてやる! いくぜぇ!」


 猫耳フード装備のクロがロゼリィを背負い走る。お、助かるぞ、クロ。


「これはチャンスかもですー、このまま先生を追いかけるふりしてソルートン行きの列車に……! そして列車内で夜を迎え、溜まっていると噂の先生が我慢しきれず私に襲いかかって……!」


 騎士ハイラが王都脱出計画を口から漏らしているが、俺が溜まっているってのはどこ情報だよ。


 アプティか? ああ、ならその通りだ。




「きゃああーー」

「変態よー!」



 下半身裸状態でアプティに抱えられ廊下ダッシュ。


 お城内に女性騎士の黄色い声が飛ぶ。


 応援とか歓声ではなく俺に対する非難の声の黄色い声、な。



「あれ、もう帰るのかい? また王都に来るんだろ? 待っているよ。やはり君がいるとサーズ様の機嫌が良くてね。悔しいが君には勝てないかな。次までにまた鍛えて君を守れるようにしておく、約束だ!」


 俺とアプティに気が付いた騎士リーガルが軽く並走しながら笑顔で敬礼サイン。


 君を守れるようにとか、約束とかお前はどこまで吐く言葉が王子なんだ。


 俺が下半身露出状態には一言も触れないとか、もはや俺の裸は見慣れて飽きられつつあるんじゃ。



 実際こんな感じで幕引きやんの何度目かって話か。


 すまんな、でも俺のせいではないんだ。ラビコだ、全てあいつが悪い。うん。




「もういい、このまま帰るぞ! サーズ姫様、ハイラ、それでは! また来ます! ラビコ、ロゼリィ、クロしっかりついてこいよ! アプティ、駅まで走れ!」


「……了解いたしました、マスター」


 アプティが廊下の窓からジャンプ。


 うわわっ……下半身に冷たい風が当たる。



「これは追いつけんな。来い我が飛車輪ヴァンゼーレ! 乗れ魔女、送ってやる。ロゼリィ殿とクロックリム殿もどうぞお乗りを」


 建物の屋根をビョンビョンと飛び回るアプティ。


 それを見たサーズ姫様が飛車輪を呼び出し搭乗。それにラビコ達を乗せる。後ろからベスも走ってきてジャンプ搭乗。


 こういうときハイラの飛車輪は怖くて乗れないからな……。速度出す時は壁を蹴って方向転換するし。



「あああ……先生が帰っちゃうー……とっても楽しかったです先生! また王都に来て下さいよー! 妻として待っていますぅー」


 ハイラがよく分からんお別れの挨拶をしているが、また王都には来るよ。


 それは約束しよう。



「お世話になりましたサーズ姫様! ソルートンに帰るぞ、みんな!」



「あっはは~それ~下半身裸男を追っかけろ~目指せソルートン~!」


「はいっ、帰りましょうあなたの家に! 宿のみんなが待っています!」


「にゃっはは! こんな帰り方ありかよ。キングといるとなンでもありだな、すっげぇ楽しくて笑いが収まんねぇ」


「ベスッ!」



「……マスター、この状況で大きくなって……」



 やめろアプティ。


 変に冷たい風が当たって刺激されていたり、結構な数の女性に見られて興奮しているわけではないぞ。


 それは変態さんで、即逮捕案件だ。




 紳士諸君も勘違いはやめて欲しいが、大きくなったのはソルートンへの望郷心な。





 綺麗にまとまったところで、俺は満足顔でズボンを履く──









異世界転生したら犬のほうが強かったんだが 九章 


 ──異世界転生したら学校に通うことになったんだが──  完














  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る