第368話 火山と砂漠の都市デゼルケーノ2 カサカサ乾燥空気と火の国の騎士様


 四日半の大移動を終え、ついに俺達は火の国デゼルケーノに着いた。



 石を積み上げて作られた建物が多く、木の建物はほぼない。


 まぁ、砂と灼熱と乾燥で長持ちはしなそうだしな、ここじゃ。




「カサッ、カサカサカサ……! あああ……用意はしてきましたが、現地は想像以上に乾燥しています!」



 駅に着いたのは夜二十二時過ぎ。


 さすがに夜なせいか気温は灼熱ではない感じ。それでも二十五度以上ありそうだが。


 デゼルケーノに降り立ってまず感じるのは、やはり乾燥。風がからっからしている。これはしっかり対処しないと、肌荒れがすごそうだぞ。


 敏感な乾燥センサーでも付いているのか、宿の娘ロゼリィが真っ先に気付いて、慌ててクリーム追加塗りし始めた。



「あ~ロゼリィ、砂漠であんまりクリーム厚塗りすると……」


 それを見ていたラビコが気まずそうな顔で止めるが、ロゼリィはすでにクリームを塗り終わったあと。


「ひぅっ……す、砂が顔に……! ううう、じゃりじゃりします……」


 吹いている風で軽い砂がかなり舞っている状況。その砂が一気にロゼリィの厚塗りクリームを襲った。



 うーむ、ここの常識がまだ頭に入っていないからこういうトラブル多そうだぞ、デゼルケーノ。




 地面のあちこちから白炎が噴き上がっているが、ここはさすが王都だからなのか、きちんと柵が設けられている。これならある程度安心して歩き回れそうだ。


 朝に停まった街は野ざらしで白炎が噴き上がっていたからな……。



「なんか来る前に、昼は灼熱、夜は氷点下みたいなこと言ってなかったかラビコ。夜だが普通に暑いぞ、ここ」


「ああ、それは内陸の広大な砂漠のお話だよ~。ここは海が近いから、比較的安定した気温が保たれているね~。さすがに王都建設の場所は選んだみたいだよ、あっはは~」


 なんだ、てっきり王都ですら昼は四十度以上に夜はマイナス気温かと思っていた。




「ん~? な~んか駅の雰囲気がおかしいね~」


 時刻は二十二時過ぎ。


 さっさと泊まるとこ探さないと、と思っていたら、水着魔女ラビコが顎に手を当てて周囲をサーチし始めた。


 う、これは結構マジモードのラビコだぞ。



 言われて周囲を見てみるが、初めて来る場所なので何が普通で何が異常なのかが分からない。


 見た感じ本当に冒険者が多い。しかもごつい装備の高レベル系。


 ソルートンではまず見れない魔王とでも戦っていそうな剣士さんとか、デカイ斧担いだ戦士さんとか。最終決戦直前のゲームの世界みたいだぞ。


 愛犬ベスはいたって普通にしている。鼻が乾燥するのか、しきりに舐めているぐらいか。


 バニー娘アプティも無表情で普通にしているな。大事そうに紅茶葉の入ったカバンを背負い、じーっと白炎の場所を確認中。


 やっぱ苦手なのかね、あの白炎。


 いや人間の俺だって近付きたくないけど。すっげぇ熱いらしいし。


 ベスとアプティの様子を見る限り、周囲に異常はなさそうだが……。



「ラ、ラビコ様……ラビコ様ではないですか! まさか……これが幻……? い、いや本物ですよね。おお……なんとありがたい! よくぞ来てくださった! あなたがいれば百人力、いや万の兵にすら勝る戦力!」


 ラビコを先頭に駅舎から出ようとしたら、出入り口で周囲の人間を警戒モードで見ていた一人の男が興奮して声をかけてきた。



 すっとした細身長身で、動きやすさ重視の軽鎧を装備した若者。


 ポスターを何本もリュックに刺した同人誌即売会の勇者かよ、という感じで武器を二つ背負っている。


 三本の鋭い爪型の武器。いわゆるクローというやつだろうか。普通と違うのは、その刃渡りが五十センチから八十センチはありそうな長さ。


 そして見た目の一番の特徴は、左顔半分に仮面を付けていることだろうか。


 なんというインパクトのある姿か。



「あれ~? 火の国の騎士様がこ~んなとこでサボっているぞ~? 非番なのかな~? 私の左目で真実を見抜いてやる~あっはは~」


 ラビコが左目を広げるポーズで答えるが、知り合いなのか? 


 あと、向こうは結構緊迫した感じなのに、軽ーい感じで冗談言うなよラビコ。



 火の国の騎士、か。


 そんな人が駅で目を光らせているって、何かあったのかね。








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