第339話 ジゼリィ=アゼリィ本店増築 11 足湯完成その名もベスの湯様


「これが足湯、ですか」



 ジゼリィ=アゼリィ夏の夜の砂浜大宴会より数週間後、ついにほとんどの増築工事が完了した。




 夜の砂浜大宴会。


 あのあとみんなでイケメンボイス兄さんが作ってくれた海鮮料理を豪快に食べ、スタッフさんによる一芸披露大会などが行われた。

 

 オーナーであるローエンさんが少額ではあるが賞金をだしてくれ、なぜか審査員に俺が抜擢。


 皆、お金目当てで目の色変えてコントやダンスを見せてくれたが、俺が一番すごいなと思った正社員五人娘のヘルブラを優勝者に選んだ。


 なんか床体操でも見ているようなバク転の連続を見せてくれ、俺が盛大に驚いた。


 砂浜で余裕で出来るってすごいぞ。ヘルブラは運動神経の塊みたいな子らしい。



 その後、締めにラビコが例の魔法花火を見せてくれ、初めて見たソルートンスタッフさんが驚きと感動で、とても喜んでくれた。


 なんだか夜の砂浜もいいもんだなぁ。


 またみんなと遊びたいものだ。




 さて、宿増築。建物は完成し、残っているのは新規導入した部分の調整。



 今日は増築工事完了で従業員向け説明会、ということでお店はお休みとなっている。


 とりあえず出来上がった足湯を使ってみることに。


 宿の一人娘ロゼリィが不安そうに腰掛け、素足を湯に入れる。



「どうだ、ロゼリィ。結構いいもんだろ足湯」


 俺もロゼリィの横に腰掛け足湯に素足を入れる。


 おお、これこれ。日本の観光地とかによくあって、こっちに来る前に数回利用したことがある。


「ああ……これいいですね! 気分転換目的でお風呂に入ろうとすると、どうしても髪を乾かしたりとか時間がかかってしまうんですよ。でもこれなら気軽にお風呂の雰囲気味わえて、素晴らしいと思います!」


 そうか、体洗ったり、清潔維持目的で入る以外にもお風呂を利用するのか、ロゼリィは。女性は髪が長いから管理が大変だもんなぁ。


 ロゼリィがニコニコと嬉しそうに足を動かし、お湯の感じを楽しんでいる。



「どうでしょう師匠。いただいた案件のイメージ図を元に作り上げましたが、ご満足いただける出来になっているでしょうか……」


 宿の増築工事の指揮を執っている商売人アンリーナが工事関係者を引き連れ、不安そうに俺の顔を見てくる。


「ああ、バッチリだ。さすがだなアンリーナ。俺のイメージ通りの完璧な出来栄えだ」


 俺がニッコリ笑うと、アンリーナと後ろに控えてドキドキしていた工事関係者が安堵の溜息。


 出来上がった足湯は俺の想像よりはちょっと大きく、畳三枚を横に並べたぐらいの大きさだろうか。


 雨よけの屋根付きで、さすがアンリーナが指揮しただけはある見た目豪華なしっかりとした造り。


 場所は、外から見てお店入口の左側。川側に向かって増築された建物の前に結構な規模の足湯が出来上がった。


 足湯の周りにはちょっとした柵を立て、お店の入り口の動線を邪魔しないようにしてある。



「そして、だ。ここにさらにコレを投入する!」


 俺が用意しておいた、宿の温泉施設でもやっているバラの花を足湯に投下。


 湯が一気に色づき、華やかな空間が完成。


 いい香りも漂い、リラックスするには最高のものじゃないだろうか。


「うっは~バラだ~。足湯か~なんだかすごいね~これ。足だけお湯に浸かるとか~そういう発想はなかったな~。社長ってば本当に商売人向きだな~あっはは~」


 俺の後ろに立ち眺めていたラビコが、我慢しきれないといった感じで靴を脱ぎ、素足を足湯に入れてきた。


「……すごい綺麗です、マスター」


 ラビコの横に無表情で立っていたバニー姿のアプティも、バラ投下でちょっと心動いたようだ。


「ほら、アプティも入ってみろよ。見てるだけじゃ分からんだろ」


 手招きをしてアプティを呼び、足湯に誘う。


「……では……失礼します。…………ぅ、はぅ……なんだか足からふんわりしてきます……」


 アプティが足湯に浸かった途端ちょっと表情が緩み、ふわーと虚空を見上げる。


 おお、いけるぞ。蒸気モンスターであるアプティですら落とせる足湯だ。お客を呼ぶ、いい材料になるんじゃないかな。



 畳三枚を横に並べたぐらいの大きさなので、アンリーナや工事関係者がみんなで入っても余裕の広さ。


 お湯は宿の温泉施設から引いていて、循環するようにしてあるそうだ。



「ベス!」


 みんなでプレで入ってみて、感想を言い合っていると、我が愛犬ベスが大興奮して足湯に飛び込んできた。


 盛大に水しぶきが飛び、みんなにかかる。


「うわっ……こらベス! 入るならそっと入れ!」


 飼い主として叱るが、足湯を必死に泳ぐベスを見て皆笑っている。


 底は一番深いところで五十センチぐらいで、浅いところは二十センチぐらいの深さとなっている。底が階段状に段差を設けてあり、小さなお子さんでも安心して使えるように設計したそうだ。


「まぁ~いいじゃない社長~。ベスだって入りたかったんだし~」


 ラビコがニヤニヤしながら腕に抱きついてくる。いや、しかしマナーが……。



「怒らなくても大丈夫ですよ、ふふ。ベスちゃんお風呂大好きですし……あ、どうでしょう、ここの名前を『ベスの湯』とするのは」


 ロゼリィがニッコリ笑いながら足湯に命名してきた。


 ベスの湯って……。


 うーん、確かにここに足湯があると、気付いたらベスが勝手に入ってそうだな。一応お湯は循環してるから、衛生面は大丈夫なんだろうか。



「まぁ……名前は必要だしなぁ。一応王都のカフェジゼリィ=アゼリィでは、マスコットとしてベスの銅像があるし……それでいいか……」


「了解いたしました! ではすぐに名前入りの看板を作りますわ。看板設置でこの足湯は完成となります」


 俺のセリフの途中でアンリーナが乗ってくる。


 ベスの湯、ねぇ。


 さすがにそれだとベス専用の物に聞こえるので、ちゃんと別に注意書きの看板をアンリーナにお願いした。


 犬が入ってきますが、それが大丈夫な方はどうぞご自由に。とか、そういうのな。


 あと、ベスが湯船から簡単に昇り降り出来る、木のはしごも追加でお願いした。何度も飛び込まれたら敵わんし、分かりやすくはしご作っておけば、そこから静かに入るだろ。




 よし、これで足湯チェック完了。


 お次は食堂に新たに作った魅せる調理ステージ。


 食堂にせり出させた調理スペースに料理人が入り、お客さんの目の前でその手際のいい調理を見せ、それをパフォーマンスとして楽しんでもらう。



 さっきイケメンボイス兄さんが何度も鏡見て、寝癖がないか気にしていたが……。





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