第336話 ジゼリィ=アゼリィ本店増築 8 お風呂ベスとお休みに海へ計画様


「どうだーベス。熱くないか?」


「ベッス! ベッス!」



 アンリーナに足湯計画のお話をしたあと、俺の足元に興奮した愛犬ベスが「早く早く!」と絡んできたのでお風呂に入れてあげた。



 宿の奥の温泉施設からお湯を汲み大きな桶に入れ、台車に乗せて移動しお店入口横に置く。その段階でベスが大興奮なのだが、待て待て、まずは体を洗ってからだ。


 軽くベスの体をお湯で流し、汚れを落としてから湯の張った桶に入れる。


 なんか知らんがベスは子供の頃からお風呂が好きなんだよな。綺麗好きなのかね。


 桶の横に座り、お湯にうっとり浸かっているベスの頭を撫でていると、なんだかここが異世界だって忘れちゃうな。



 そしてもう数週間後には俺の部屋が出来上がる。


 何も無い状態から始めたのに、俺も出世したもんだ。





 明日は厨房をせり出させる工事が入るので、完全に食堂の営業が出来ない状態になるとのこと。


 俺発案でお店のメイン収益である食堂が営業出来ないのは申し訳ないな、と宿のオーナーであるローエンさんジゼリィさんに謝っていたら、豪快に肩を掴まれた。


「何謝ってんだい。あんたはこの宿の若旦那だろう? ドーンと構えていなって。それに一日ぐらい営業出来ないのがなんだってのさ。うちはあんたのおかげでどんだけ稼いでいると思っているんだ」


 オーナーの奥様であられるジゼリィさんに恐るべき握力で肩を鷲掴みされ、体を前後に揺すられる。


 俺の視界が残像の世界。


 後、俺は若旦那ではない。






「ってことで、なんと明日はジゼリィ=アゼリィは臨時休業となる。宿の増築が完成したらもう休めないと思って、今のうちにたっぷり休んでおくんだよ!」



 夜、ジゼリィさんがスタッフさんを集め、明日の状況を伝える。


「おおおお! お休みだー!」

「やったー! 新しい流行の服買いにいくんだー」


 明日がお休みだと聞き、みんなが雄叫びを上げる。


 いや、このお店ブラックじゃないぞ。


 週二日はきっちり休みが取れるし、臨時のお休みもかなり融通が効く。


 まぁ、お店自体がお休みという状態が珍しい、という雄叫びなのかね。



「うわぁ、お休みですって! うちのお店がお休みって珍しいです。うわーうわーどうしよう……お休みの日って何すればいいのでしょう……!」


 宿の一人娘ロゼリィが嬉しさを隠せない笑顔で興奮している。


 ロゼリィは週二日のお休みに、よく商店街に行っては新作の化粧品を試し買いしているイメージ。


 いつもの決まった休日じゃないお休みの日ってのは、捉え方が違うのだろうか。


 俺は毎日休みみたいなもんだし、そのへんの感覚が分からん。



「た、隊長! あの……よろしければ明日海に行きませんか!」

「な、なのです! ここからすぐのところにある砂浜なのです。このソルートンの人気スポットで、水着美女がたっくさん来るのです! 隊長にお勧めのパワースポットなのです」


 さて俺はどうしたものかと考えていたら、宿の正社員五人娘のポニーテールがよく似合うセレサと、その持てるボディはロゼリィクラスの破壊力を誇るオリーブが決意した顔で迫ってきた。


 み、水着美女が集うパワースポットとな。


 ほう、オリーブさんは俺の心の動かし方をよく研究しているようだ。



「海か……いいな……」


 そう、最近何かが俺の生活に足りないと思っていたところなんだ。


 冒険者ゆえ、命を懸けた重労働で疲れ干からびた心と体を潤すものは、美女。そう、美女の水着なのだよ。



「お、海行くのかい~? いいね~。宿の食堂がお休みなら部屋で寂しく晩酌になっちゃうけど~ドーンと開放的に海でお酒ってのもいいかな~。適当に食べ物持っていってみんなで宴会しよ~あっはは~」


 右隣りにいた水着にロングコートを羽織った魔女、ラビコが楽しいこと思いついた子供のように抱きついてくる。右腕にあたる柔らかさが至福。


 俺はこのささやかな幸せを絶対に表情に出さないように、超紳士の精神で平静を装う。


 いやまぁ、水着美女の言葉には普段のラビコも含まれているのだが、普段見れない水着が見たいじゃないか。



「え? 海に行くんですか? あ、ど、どうしましょう……水着を出してこないと!」


 左にいたロゼリィが慌てて自分の部屋に走って行った。


 ほう……ロ、ロゼリィの水着かぁ。


 あの素晴らしいボディが水着で飾り立てられ、それを間近で見れる……ふむ。


 無骨紳士の俺には無反応だが、たまにはそういう平民の楽しみってのも良いものだ。


「……あ~あ。社長さ~顔が別人なぐらい緩んでるって~。少しは隠せっての~あ~もう、下のほうも反応してるし~」


 右腕に絡みついていたラビコが、ムスっとした顔で俺の下半身を凝視している。


 あれおかしいな、ラビコの物理的なお胸様とロゼリィの空想のお胸様で、俺の強固な紳士道が砕かれてしまったらしい。


 つーか無理。俺の想像力はもはや魔法なんだ。誰にも……止められない。



 もはや俺にも止められない下半身の暴走エレファントマグナム。


 スタッフ達の視線が集中し、女性陣がなんとも言えない顔をしている。


「……」


 奇声を上げながら部屋に逃げ帰ろうか、と思っていたら、目の前にバニーさんが無言で現れる。


 俺の前に立ち、その豊満なお胸様の谷間からスッと一枚の白いハンカチを取り出すと、俺のマグナムに優しく引っ掛ける。


「……これで隠れました、マスター」


 アプティさんが無表情ながらも自信満々に言う。


 ……が、これ俺のアレにハンカチが引っかかっているだけで、何も隠れていない。


 つーか逆に目立たせる装飾になってねーか、これ。



「あっはは! アプティさ~これなんにも隠れてないよ~。逆にいい的になってるかな~」


 ラビコが俺のマグナムに引っかかった白いハンカチを見て爆笑。


 アプティは意味が分からず首をかしげる。



「と、とりあえずだ。明日はお休みだが、俺は海に行く! おう野郎ども、水着美女が見たけりゃ俺についてこい! 飯も俺が奢るぞ!」


 もう強引に話しを進ませて、股間のハンカチから視線を逸らすしかない。


「おお! 行きますよ若旦那!」

「水着美女……ロゼリィさんとラビコさんとアプティさんの水着……!」


 俺のエロに対する強い想いにスタッフの男達が乗ってきた。



「はぁ、そんな下半身と呼びかけじゃ女性は参加しにくいって~。まぁ大丈夫~この変態君は私がキッチリ面倒見るから、女性陣は気軽に参加しよ~。社長がご飯奢ってくれるって言うしさ~あっはは~」


 ラビコが女性陣の怪訝な顔にすかさずフォローを入れてくれた。


「みんな大丈夫! 私が隊長を抑えているから、参加出来る人は明日一緒に海で遊ぼう!」

「なのです! 私達が体を張って止めるのです! いいですか隊長、暴走したくなったらすぐに私のところに来て下さいなのです!」


 ラビコが俺の右腕に絡みつき、セレサとオリーブが俺の前で両手を広げ規制線を張る。


 なんだ、俺は宿の珍獣か何かなのか。



 そうだ、砂浜で棒立ちでヨダレ垂らしながら水着美女を舐めるように見ていたら犯罪だが、鉄板とか持ち込んで焼きそばとか、冷たい飲み物を売りながら女性の胸を凝視するのは犯罪じゃない。


 鉄板でエレファントも隠れるし一石二鳥。


 すごいぞ、俺って天才じゃないか。



 ……え、見ず知らずの女性にそういうことしたら、どっちも犯罪なのか? 


 ……ちぇ、じゃあ身内のロゼリィとかのお胸様をじっくり見……え、それもあかんの? 


 異世界ってのはもっと夢で溢れていていいと思うんだが。



 主にピンク色系統で。







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