第317話 アプティVSペルセフォス組とオールレンジパンチラ様


「……お二人をマスターの敵と判断します。お覚悟を……」



 俺が助けを呼ぶと、バニー娘アプティが上空から現れ着地。


 土煙とアプティが放出する蒸気が周囲を覆う。



「ほう。ベス君がいないから安心していたが、そうか、君にはもう一人忠実な仲間がいたな。ハイライン、対象を確保、維持せよ。これより私は目的の障害となるものを消し去る」


 サーズ姫様が俺から離れ、身構える。


「え、あ、は、はい! 先生、危ないのでこちらへ!」


 サーズ姫様の声に慌てて敬礼をしたハイラが俺を建物側に寄せ、がっしり抱きついてくる。うっふ、髪からいい香りと柔き物が腕に押し付けられているぅ。



 ぼーっとハイラの体を堪能していたら、着地の衝撃で発生した土煙が薄れてきた。


 このままでは、アプティの口から出ている蒸気が目立ってしまう。


 なんだかアプティさんが軽く本気モードなんだが、お互いに怪我でもされたらまずい。



「アプティ殿、あなたとは一度手合わせをしてみたいと思っていたんだ。以前、ラビィコールの研究所ではベス君に抑えられてしまい見ているだけだったが、やっとこうして戦える。ははは、あああ楽しみだ……ゾクゾクするよ。どうして君の周りにはこうして実力者ばかり揃うのか」


 アプティに本気出すなよ、と言おうとしたら、サーズ姫様がニッコリ笑顔で本気モード。


 血に飢えた戦闘狂か何かなのか、この人。



「ははは、おそらく私では勝てないな。この感じ、強者だ。はははは……ありがたい! 君といればこうして強い者と何度も対峙出来る。国内で強いと思い自惚れていた自分を律することが出来る……! 君には礼を言うぞ……さぁ来い、アプティ殿!」


 サーズ姫様が狂喜の笑顔。


 なんでそんなスイッチ入っちゃったんすか……。


 

 俺は指を使い口元でバツ印を作り、アプティにメッセージを送る。


 蒸気を出すな、そして本気出すなと伝えたのだが、アプティがコックリ頷き蒸気を出すのをやめた。


 よかった、伝わったか。


 あとは二人共、怪我だけはしないでくれよ。




「サーズ=ペルセフォス、参る!」


 言葉とともにサーズ姫様が体から緑の輝きを放ち、床体操のような側転を繰り返しアプティの間合いの直前で大きく上空へジャンプ。


 アプティはその不規則な動きに構えを崩さず、目線だけ上空のサーズ姫様を追う。



「アプティの間合いが分かるのか、サーズ姫様。すごいな、動きも速い」


 俺が感心して言うと、ハイラがさらに胸を押し付けてくる。


「はい、サーズ様は目標との距離感が上手いんです。あと天性のものもありますが、魔法のコントロールも上手いんです。ああやって風の魔法を全身に巡らせ、あまり筋力を使うこと無く、魔法を放つことで速く動くことが出来るんです」


 なるほど。サーズ姫様は風の魔法の使い手なのか。


 そういや初めて出会った時、空飛ぶ鮫、ベルメシャーク相手に何度も風の塊を放っていたな。


 風を纏い、手と足が地面につく瞬間にその風を放ち、人間の筋力では不可能な速度と高さを叩き出している。



 駅で俺を浮き上がらせたハイラの魔法も緑の風だったな。


「ハイラも風の魔法の使い手なのか?」


「はい。飛車輪という物が風の魔法で動いているので、乗り手も風の魔法が使えたほうが都合がいいんです」


 ほう、あの便利な空飛ぶ車輪、飛車輪ってのは風の魔法のアイテムなのか。



 そして俺はとても大事なことに気がついた。

 

 サーズ姫様はヒラヒラのミニスカートで動き回っている。


 しかも結構どころか、かなり開脚状態。


 お分かりか紳士諸君、モロ見えである。



「……下着も青系か。さすがサーズ姫様、ペルセフォス精神に溢れているなぁ」


 俺はサーズ姫様のペルセフォスという国への想いを強く感じ、カメラを持っていないことを後悔する。


 これまでにも何度もカメラさえあれば……という場面がかなりあった。


 なぜ俺は学習しないのか。


 俺はこの世界の全てを見ると誓った。なのに俺はこの世界を巡るパートナーを用意していない。


 何たる失態。


 世界を巡り、美しい風景や共に過ごした仲間との大事な時間を形に残すことが出来るカメラ。


 目で見て美しいと感じることはとても大事だ。


 だがそれは一瞬の輝き。


 永遠に照らせる光ではない。


 ならばその瞬間を人間の英知で切り取り、長く形として残したっていいじゃないか。


 ああ、残したい。



「え、なんです先生。何か言いました?」


 今俺の前の光景は、俺厳選、世界の美しい風景にランクインした。


「トップはロゼリィの裸。サーズ姫様のパンチラは……七位、いや、六位……うーん」


 俺は小声で呟き、持っていないのにカメラのファインダーを覗くように構え悩む。


 やはり下からのアングルが正義か。


 いや、躍動するパンツ様はどこから見ても美しい。これぞオールレンジパンツ。


「先生、どうしたんですか、ぼーっとして」


 ハイラが不思議そうな顔で俺を覗き込んでくる。む、さすがに不審な行動が過ぎたか。



「いや、サーズ姫様とアプティの動きがあまりに美しくてな。見惚れていた」


 高く飛び上がったサーズ姫様が風を纏い、アプティに迫る。


 軽くしゃがみ、足に力を込めたアプティが一瞬でサーズ姫様の背後に回る。


 気付いたサーズ姫様がすぐに背後に風の塊を放つが、アプティがそれを紅く光る足の装具で蹴り、切り裂く。



「そうですよね! サーズ姫様はとにかく動きが美しいんです! 飛車輪の走法もそうですが、普段の身のこなしも無駄のない動きで綺麗なんです」


 ハイラが鼻息荒く答えてきた。


 そうだな、これはとても美しい。


 せっかく異世界に来たんだ。魔法の一つぐらい使ってみたかったが、諦めてもいい。


 諦めるから神様、俺の目に録画機能を下さい。リリース後のバージョンアップは出来ないっていうんなら、カメラ売っているお店教えろ! 今すぐにだ!



「ははは、強いなぁアプティ殿。その動き、我流か? どの国でも見たことのない独特のリズム。的確に急所を狙い、全て寸止め……飛び散るのは我が服のみで、こちらの攻撃は全く届いていない。ははは、化け物か……ハイライン、来い!」


「は、はい!」


 サーズ姫様がハイラを援軍で呼んだ。


 アプティは俺の声の通り、怪我をさせないようにしてくれているな。



 ハイラも俺から離れ風を纏い、道の両脇に建っている建物を蹴り、素早い方向転換で高速移動をする得意のバウンディングダンスを見せる。


 飛車輪が無くても生身で再現出来るのか。すごいな。



 しかし、やはり二人は地に足を付けた戦闘より、飛車輪を操る高速移動と空中戦が得意なタイプ。


 今はその飛車輪はないので、能力の全てを出しているわけではない……が、アプティが二人を同時に相手をし、それでも余裕があるふうに見える。


 ペルセフォスでトップクラスの実力者、サーズ姫様と部下であるハイラの連携攻撃を、いとも簡単に受け流すアプティって何者なんだ……って蒸気モンスターか。


 たまに疑問に思うが、蒸気モンスターって全員こういう戦闘タイプなのか? 



 言葉が通じなければ、力が物を言う野生の動物の世界になるのは分かるが、言葉が通じるタイプもこうしているんだろ? 


 なら俺達とアプティみたく、争わずにある程度対等な関係が作れると思うんだが。


 しかし俺が銀の妖狐を対話で追い返した話は、魔法の国セレスティアに行ったとき、サンディールン様が話し合いが通用するの!? と驚いていたな。


 蒸気モンスターと人間の長い戦いの歴史が変わる出来事、とも言っていたか。


 ってことは過去にそういう関係は作れなかったってことか。



 そりゃあ人間だって悪い奴はいる。でも良い奴もいる。


 蒸気モンスターだって同じではないのか? 銀の妖狐だって話せば分かる奴だった。


 アプティは完全に俺達の中に溶け込んでいる。


 今までこの世界では、長い間殺し合いが続いていた。それをいきなり仲良くしろとか、無理な話。


 だが今のままでは、世界も人間も蒸気モンスターも疲弊してしまう。


 それでは未来がない。


 全部は無理でも、少しづつ、俺達みたいな関係が築けるんだとお互いに感じて欲しい。


 アプティの正体を知っているのは俺とラビコのみ。


 これをバラしたとき、皆がどう反応するか分からないが、アプティは俺の大事な仲間だ。何が起ころうが、必ず守ってみせる。




「うひゃああ……」


 おっと、サーズ姫様のパンチラを見て、世界の行く末を真面目に考え込んでいたら服がボロボロになったハイラが俺のほうに転がってきた。


「むきゅ……せ、先生……死ぬ前にちゅ、ちゅーして下さい……!」


 ハイラがゴロゴロと転がりつつ、俺の目の前でがばっと両手を広げ抱きついてきた。


 サーズ姫様に比べ、防御の風の張り方が不十分らしく、ハイラの着ている服があちこち切れてボロボロ。


 おお、下着どころかお尻がちょっと見える……! すげぇ。


 これはアプティからの、日々真面目に生きている俺へのご褒美か!


「何が死ぬ前に、だ。手加減しているアプティにコテンパンにやられたのか、まだまだだなハイラ」


 俺は元気にちゅーと口を伸ばしてきたハイラの顔を抑え、自慢のオレンジジャージの上着を脱ぎ着せる。


「す、すいません先生! こんなんじゃ先生の横にいれない……もっと強くならないと! ああ、先生の上着から先生の匂いが……! すこーすこー!」


 コラ、ジャージを吸うな。



 二人で挑んだものの、ハイラがあっという間に離脱。


 サーズ姫様が防戦一方。さすがにこれ以上はまずい。


 なぜか人通りが少ない場所だけど、この音に気付いた人が何人か見ているし。



「そこまでだアプティ。サーズ姫様もお下がり下さい。今日は俺の仲間の稽古に付き合っていただき感謝です! アプティ、礼!」


「……はい、マスター。礼……」


 アプティが足を止め、サーズ姫様に頭を下げる。


「おっと、少し熱くなり過ぎたか。すまない、人が集まってしまったな」


 サーズ姫様も周囲の人に気付き、動きを止める。




「ははは、強いなぁアプティ殿。結構本気だったんだが、私も修行が足りないな」


 二人が俺の近くまで来て握手をしている。なんだ、拳でしか分かり合えない何かが芽生えたのか。



 そしてサーズ姫様もハイラと同じく服がボロボロ……。


 アプティは無傷、強いな……。


 さて、これは服を弁償しないとならないな。


 と、その前に二人のエロい姿をさりげなくじっくり見ておこう。




 その後、服がボロボロの状態では出歩けないので、俺は意を決し三人の女性を連れピンクのホテル、ローゼドロームに入店。


 変装をしているのでカウンターの男性店員さんには二人の正体は気付かれていないっぽいが、三人の女性を引き連れてご休憩コースを選んだ俺にすごい視線を向けられた。


 しかも内二人が服ボロボロ。かなり不審がられている……。



 もうしょうがないんだって! 


 ここに三人預けてこのホテルの側にあった商店街で女性物の服買って来るしかないんだって! 


 エロいことは一切しません! 俺は童貞です!



 俺はご休憩の部屋には入らず、カウンターで受付を済ませたらダッシュで商店街へ。


 女性物の服屋さんで、セットで吊り下げられていた物を購入。


 ここでも店員さんに変な目で見られたが、お金払っているんだからそういう目はやめて下さい! 女装とかそういう趣味もねーっす!



 買った服を持ってダッシュでピンクのホテルへ。


 このホテルの利用法を絶対間違っているが、いつかは俺もまっとうにホテルを利用してみたいものだ。



 部屋の入口でアプティに服を渡し、二人がその服を着て出てきた。


 まぁ、サイズ分からんし、適当に買ったんでお二人には申し訳ない。





 ラビコと約束した十四時を過ぎていたので、慌ててカフェに帰還。



 二人の服が変わっていることに不審がったラビコに問い詰められたが、アプティが助け舟を出してくれ「……マスター、とても激しかったです……」とおっしゃって下さり、サーズ姫様も「ははは、まさか服がボロボロになるまでヤラれるとは思わなかったよ。とても有意義な時間だった」と主語を抜いた、大変厄介な言葉を発してくれた。


 ハイラも何か言おうとしたが、俺は慌てて彼女の口を塞ぎ、これ以上の状態悪化は防いだ。



 それを聞いたラビコとロゼリィが怒りの闘気を出し、カフェ三階の個室スペースで長いお説教を受けることに。


 なんで必死に童貞を守った俺が怒られんの……。




 夕方、カフェで夕飯。


 そこでやっと怒りの収まった二人が話を聞いてくれ、誤解は解けた。




 なんか疲れた……でもサーズ姫様のパンチラは貴重な経験だったなぁ……ウヒヒ。











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