第278話 ラビコの思い出の場所でフルオープン(被害者)様


 港街ソルートンの南にある砂浜を散歩していたら、危うくラビコに見られながら童貞の証明をするハメになるところだった。



 くそぅ、ラビコは頭の回転が早いから俺とかいう童貞最弱君は振り回されるばかりだな。




「ね~ね~社長~。今この砂浜には誰もいないし~軽くでいいから見せてよ~」



 ラビコが諦めきれないようで、俺のズボンから手を離さない。


 確かに砂浜には他に誰もいないが、俺の目の前にはお前がいるだろうが。


 女性の目の前で気にせず自己処理出来るような選ばれし豪傑だったら、こんな苦労はしてねーよ。



「だから裏の林の奥に小屋があるって言ってるだろ」


 俺は必死に砂浜の後ろにある、林の奥の小屋を指す。


 放置されたボロ屋じゃなくて、人の手が入った小綺麗な様子だから誰か住んでいるんだろう。


「あっはは~残念ながら私には見えないんだよね~。社長にしか見えないよ、その小屋。それに今は誰も住んでいないはずだし~。さ、社長そんなわけだから気にせずドーンと海に向かって青春をぶつけてみよう~あっはは~」


 海に向かって青春をぶつけるって言葉はいいんだが、その内容は人としてどうなんだろうってやつなんだが。



「俺にしか見えない? ほら、林の向こう。結構しっかりとした作りの木の小屋があるだろ」


 砂浜の後ろにある林。その先に木に守られるように建っている小屋があるんだが。


 俺が指すも、ラビコには通じずニヤニヤと俺を見てくるのみ。



「ま、社長をからかうのはこのへんにして、とりあえず近づいてみようか~まだ入れるかな~?」


 ラビコが俺の右腕をつかみ、小屋のほうへ引っ張っていく。


 なんだよ、見えないとか言う割に場所わかっているんじゃないか。


 あとやっぱり面白半分だったのね。



「さっき誰も住んでいないはず、とか言っていたか。なんだ、ラビコはここの小屋を知っているのか?」


 見えないと言うわりには正確に小屋のほうに向かって歩いているぞ。


「ん、ん~……ここはさ、私が子供の頃、魔法の練習をしていた場所なんだよね~。そして教えてくれていたお師匠がそこに住んでいたのさ~」


 ほう、確かにここはかなり広い砂浜でそういう練習には向いていそう。街にも迷惑がかからなそうだし。


 そういえばソルートンが襲われたとき、ラビコは街に被害がいかないようにここに蒸気モンスターを集めようとしていたな。



 ラビコの魔法のお師匠さんか。


 なんか魔法のお師匠さんってイメージ的に白ひげもっさりのおじいさんか、イッヒッヒって笑いそうなおばあさんが頭に浮かぶが。




 砂浜を抜け林に入る。


 地面を見ると、ちょっと獣道っぽい踏み固められた跡があるな。それが小屋まで続いている。


 ラビコは小屋を見ず、その踏み固められた跡を頼りに進んでいる様子。



「どうかな~社長~。もう小屋は目の前ぐらいかい?」


 小屋の五メートルぐらい手前でラビコが立ち止まり、俺を見てくる。


 どうやら本当に小屋が見えていないようだ。


「ああ。もう目の前だな。なんか林の中にあるのに。ほんのり明るいのはなんだろう」



 小屋は林の中にある。大きな木が小屋を守るように生えていて、日当たりは悪い。


 なのだが、小屋の周囲はほんのり黄緑に光っていて少し暖かいと感じる。


 なんだろう、これ。



「あっはは~本当に見えているんだね~。しかも部外者には見えないように張られた魔法結界が視認出来るのか~。やっぱすっごいな~社長の王の眼は」


 魔法結界? 


 このほんわかと暖かくて明るい光を放っている物が魔法なのか。


「ここはお師匠が住んでいたところでさ~他の誰にも見つからないように魔法で隔離された場所なのさ~。入るには結界を張った本人の承認が無いと無理なのさ~」



 隔離された場所。


 なんというか雰囲気は全くの真逆だが、魔王エリィの空間に似ているかな。


 あれは不気味でどんよりとした感じで、本当に誰かを招く気は微塵もない拒絶空間だったからな。


 これはそれとは違う、少し暖かみを感じる。



「子供の頃さ~しょっちゅう施設抜け出してここに来ていたのさ~。最初はなんか不思議なお話をする美人のお姉さんだな~と思って面白がって来ていたんだけど、だんだん仲良くなって魔法を教えてくれるようになったんだ~あっはは~なっついな~」


 施設ってのは孤児院か。


 そしてお姉さん、美人のお姉さんと来たか。


 いつの話かは分からないが、今はもうそのお姉さんはどこぞで結婚して、子供でも育てているのだろうなぁ。



「私は当時お師匠に認められているから、入れるだろうけど~社長はどうだろう」


 どうもこうも、見えているんだぞ。入れるだろ。


 俺は普通に小屋に向かって歩き、ほんのり黄緑色に光る空間に入る。


 うわ、入ると足元からじんわりと暖かさが来る。なんだこれ。



「う~わっ。社長が消えた~あっはは~本当に入れるんだね~どれどれ、久しぶりに入らせてもらいますお師匠」


 キョロキョロと見回し、俺を見失っていたラビコが胸に手を当て、ゆっくりと進み中に入ってきた。


「あっはは、いたいた~。もう~消えるって分かってはいたけど、やっぱり目の前で消えられると不安になるね~」


 ラビコが真面目な顔で黄緑に光る空間に入って来る。


 俺の顔を見た途端いつもの笑顔になり、右腕に抱きついてきた。



「でさ……社長~。ここは本当に他には誰も入れない空間なんだ~。ね、どうする? ここなら誰の邪魔も入らないのが確定しているわけでさ~……私は抵抗しないよ、ううん、こっちから迎えにいっちゃうぐらい。ね、私と大人なことしちゃおうよ~」


 そしてまた火照った顔で迫ってくる。


 さっき俺とかいう童貞もてあそんで満足したんじゃないのかよ。


 もうその手には乗らないぞ、ここは毅然と……ああ、お胸様が腕に当たる……うう、耳に吐息が……。


「はい、油断した~。あっはは~そぉ~れっと! ドーン!」


 急にラビコの目が光り、俺の下半身がスースーしだした。



 なんだろう、この開放感。



「あっはは~すっご~! どんだけ溜め込んでいるのさ~、つんつ~んっと。これ面白~い、あっはは~」


「う、うわあああああああ……!!」


 まんまとその手に乗って油断していたら、俺の下半身がフルオープン。


 勢いよくジャージのズボンが降ろされ、俺のフルカスタムゾウさんが大自然の優しい風にそよいでいる。



「つ、突くな! ここはラビコの大事な思い出の場所じゃねーのかよ! そこで何で俺が露出マンになっているんだよ!」


「あっはは~それはそれはとっても大事な思い出の場所だけど~そこに社長との思い出も欲しいな~と思ってさ~。いやぁ~上手く行き過ぎてラビコさん大満足さ~あっはは!」



 みんな、思い出の場所は大事にしような!



 俺はいい加減、ベルト付きの頑丈なズボンを買おう。


 そう思った童貞生活十六年目、ソルートンの砂浜にて。








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