第268話 紅茶巡り紀行 6 ラベンダルで俺の噂と欲のカメラ様
「何か先程ローズアリアの駅で、獣のように素早く動いて壁際で女性を半裸にむき押し倒した痴漢が捕まったそうですわ。怖いですわねぇ」
花の国フルフローラに来た俺達は美味しい紅茶を求め、アンリーナのホテルと契約をしている農家を巡っている。
ソルートンから乗ってきたアンリーナの船、グラナロトソナスⅡ号をフルフローラ最大の港街ビスブーケに停泊させ、そこからは魔晶列車で移動を開始。
ローズアリアと言う街の郊外にあるグリン農園さんで、ショコラメロウとアランルージュという美味しい紅茶とスイートスターという食べることも出来、見た目も美しい花を仕入れる契約が出来た。
今はその農園からローズアリアの街に戻り、すぐに魔晶列車に乗り込み次の目的地ラベンダルへと向かっている最中だ。
「へ、へぇ……。痴漢ね。で、でも捕まったんだね」
「みたいですわ。まったく、随分と大胆な犯行です。女性を優しく扱ってくださり、心身共に紳士でいらっしゃる師匠を見習ってほしいぐらいですわ」
売店がある車両から帰ってきたアンリーナが、飲み物を片手に道中聞いた魔晶列車内の噂を話してくれた。
それ俺だわ。
そうか、傍から見たらそう見えるのか。
半裸にむくって……ラビコは元から水着だったんだが。
ソルートンでは当たり前に俺の変な噂が広まっているが、初めて来た花の国でも変な噂が出来てしまったようだぞ。
まぁ、滅多に来ない場所だし……いいか。
「きっとその痴漢君はヘタレなんだろうなぁ~あっはは~」
ラビコが俺を見ながらニヤニヤ笑っている。
いや、彼は童貞ながらも精一杯頑張っていた。
今思うと見事に挑発に乗せられたな、とは感じるが。
うーん、完全にラビコのおもちゃにされたってことか。つーか、俺が暴走してあのまま胸に触っていたらどうするつもりだったんだよ、ラビコ。
魔晶列車に揺られること三十分。午後四時半、ラベンダルに到着。
ローズアリアからは西の内陸側に位置するラベンダル。街自体がちょっとした高原にあるようだ。
「皆様、ここが紅茶の里ラベンダルになります。少し標高の高い位置にある街で、とても紅茶の生産に向いている場所となっています」
魔晶列車を降り、アンリーナが駅舎内の周辺地図を指しながら説明してくれた。
たしかにグリン農園さんのところのように少し涼しい気温。
「世界中で手に入る紅茶は全てここ産であると言われるぐらい、とても多くの種類の紅茶が作られています。こちらにもうちのホテルと契約していただいている農園がありますので、そちらに向かおうと思います」
ほう、このラベンダルが紅茶の本場なのか。
駅の売店を見てもたしかに紅茶が数多く売られている。ソルートンのジゼリィ=アゼリィで飲める紅茶もここから買っているんだっけか。
そういえばイケメンボイス兄さんがお勧めの銘柄と産地を教えてくれたな。
「たしかメモったはず」
イケボ兄さんから聞いたメモをポケットから出し見てみる。
えーと、産地ラベンダル。銘柄はデイズアイにミンダリノワール、か。
「アンリーナ。このデイズアイにミンダリノワールって銘柄はあるのかな。ジゼリィ=アゼリィで出している紅茶はこれらしいんだ」
「はい、ありますわ。しかしさすがですわね、あのシェフ。まさにその二つがうちのホテルで仕入れている銘柄になりますわ」
へぇ……ってことは結構な高級銘柄なのか、ジゼリィ=アゼリィで何気なく飲んでいる紅茶って。
そういやジゼリィ=アゼリィで飲める紅茶って二種類あったか。
俺達がいつも飲むのは安い方のポット一個で十ゴールドのやつで、その上にポット一個で二十五ゴールドのがあったな。
「うわーそうだったんですか。うちのお店ってアンリーナさんの高級ホテルと同じ味を楽しめていたのですね。ちょっと嬉しいです、ふふ」
ロゼリィがアンリーナのホテルと同じ紅茶と聞いて笑顔になった。
そのへんはさすがイケメンボイス兄さんだな。聞いてみると、俺達がいつも飲んでいるのがデイズアイというものだそうだ。
よし、ソルートンに帰ったらお高い方のミンダリノワールを頼んでみよう。
駅舎を出て外へ。
ようこそ紅茶の里ラベンダルへ、と木で作られた大きな看板が掲げられている。駅前には多くの商店が並び、色々な銘柄の紅茶が置いてある。
時刻は午後四時半、早くしないと夜になってしまうぞ。
「それでは駅前の馬車乗り場から、契約していただいている農園のほうへ向かいますわ」
アンリーナが皆を引率し馬車乗り場へ。
四時四十分馬車で農園へ向けて出発。
アンリーナによると、二十分ぐらいで着くそうだ。
街を抜け、郊外へ向かう。
風景はもう素晴らしく美しい花畑と紅茶畑がパノラマで広がっている。やはり木はあまり生えていなく、丘陵の先に綺麗に地平線がみえるほど見晴らしが良い。
「うわぁ、幻想的です。よく観光パンフレットに描いてある風景です、これ」
ロゼリィが馬車から見える風景に大興奮。たしかにカメラがあったら記録に残しておきたいほどの景色だ。
そういやこの世界ってカメラあるよな。相当お高いらしいが、俺は金ならあるんだ。今度買ってやろうかな。
「はっ……!」
俺は気付いてしまった。
カメラがあればラビコの水着姿やアプティのバニー、ロゼリィの薄着写真撮り放題ってことじゃないか。
なんてこった……なぜ今まで気付かなかった……。
たまにアクシデントなんかが起きてロゼリィのスカートがふわっと、そう風が優しく世界を包み込むようにふわっとソフトにマイルドにスカートをめくってくれるかもしれない。
こっちの世界のカメラは秒に何コマの連続撮影が出来るのだろうか。
オートフォーカスは必須。画素数も当然二千万以上は欲しいところだ。
ああ、そんな物はこの世界にないのは分かっている。
ジゼリィさんが一個持っているし、ペルセフォスでもサーズ姫様達と写真を撮ったときに見たが、俺の世界の物とは全く別物で、魔晶石を使って景色を紙に焼きつけるものだったはず。
ズーム? そんなものはない。まんま等倍に紙に焼き付けるだけ、なんの夢も無い。
くそぅ、そんなんじゃ俺の欲は満たされないのに……!
「社長~花畑と紅茶畑を見てどんなエロい妄想膨らませているのさ。ちょっと想像力高すぎじゃない~?」
はっ……しまった、強い欲にとらわれて我を失っていた。
しかしどうして何も喋っていないのにラビコは俺の頭の中が分かるんだ。どういうトリックがあるんだ。
俺は狭い馬車内で中腰で構え、握りこぶしを作りハァハァ言っていたようだが……これだけでどうしてエロいことを考えていると分かるのか。
──分かるな。すげぇヨダレ出てるし。ちょっとみんな、引いてるし。
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