第267話 紅茶巡り紀行 5 アンリーナの妄想婚約と女体にさわれない俺様
「気ぃつけてなー! 頑張れよ彼氏君、わはは!」
「またいつでもおいで」
元気なグリン夫妻に見送られ、馬車で農園を後にする。
一度ローズアリアに戻り、そこから魔晶列車でお次の目的地ラベンダルへと向かう予定。
グリンさんの農園では、二種類の紅茶にスイートスターというお花を手に入れられた。充分な成果だぞ。
「ヌゥゥ……おかしい、おかしい、おかしい……」
あれ、さっきまで格好良くて頼れる姉御商売人だったアンリーナが不満そうにウヌウヌ唸っているぞ。
「師匠、私達は新婚旅行で来ているはずですわ。なのになぜグリンさんの目には師匠が私の旦那様ではなく彼氏に見えたのでしょうか」
パッと顔を上げ、アンリーナが真顔で俺を見てきた。
いや、それアンリーナだけの妄想設定だろ……。
「さ、さぁ……。でもアンリーナ、人からどう見られようが本人達の愛に変わりは無いんじゃないかな……という設定でいいんじゃ……」
「はっ、そうですわ! 申し訳ありません師匠……私が間違っていました……! 他の方からどう見えるかではないですよね。私達の愛はまだまだ歩み始めたばかり……グリンさん達のような誰が見ても幸せそうな夫婦というものを時間をかけて目指していけばいいのですわよね! 例えその道が険しくとも、愛する二人は手を取り輝く未来へと……」
アンリーナが食い気味に演説。
「いや~おいしかったな~アランルージュ~」
「ですねー、柑橘の感じがよかったです」
もはやラビコにロゼリィは、アンリーナだけが妄想している俺との妄想婚約は相手にしていない模様。
楽しそうに紅茶の感想を言っている。アプティは俺の腕をつかんで早く早く、と次の紅茶を求めている。
たまに疑問に思うが、俺達ってまとまりないのかね……。
馬車に揺られること三十分、俺達はローズアリアに戻ってきた。
すぐに駅へと向かい、時刻を確認。
「現時刻は午後三時半、ラベンダル行きの魔晶列車は午後四時ですわね」
アンリーナが時刻表を確認、すぐにラベンダルへと向かうそうだ。魔晶列車で三十分ほどで着くらしい。
そういや移動移動で愛犬ベスをカゴから出せていないなぁ。もうちょっと我慢してくれ、ベス。
そして今気付いたが、あまり薄着美女を堪能していない。
これはイカン。
紅茶は順調だが、むしろメイン目的である南国美女の柔肌を全く堪能出来ていないじゃないか。
俺は慌てて周囲を見渡しサーチ開始。
「おお、いるいる」
とりあえず列車が来るまでは駅で待つことになったので、並んでいる椅子に座り駅舎内にいらっしゃる薄着美女をさりげなく視界に入れる。
うーん、さすがにロゼリィクラスのボディをお持ちの方はいないなぁ。隣に座っているロゼリィの破壊力に勝てる逸材はいないか。
ロゼリィは南国ということで薄い白のワンピースを着ている。
おお、座っていると太ももがよりエロく見えるじゃないか。
滅多に見れるもんじゃないし、南国美女は諦めてロゼリィの太ももをさりげなく凝視しよう。
「う~わ……社長さ~ギリギリ言葉には出さずに行動しているんだろうけど~思い出したように際どい服装の女性を探して眺めて、隣のロゼリィと比べたらそうでもないな~って気付いてロゼリィの太もも凝視するのやめたら~?」
ぶっ! ゴッフ。
おい、おかしいぞ。
俺の心の声から一連の行動まで全て見事にラビコに言い当てられたぞ。
俺喋ってた? って思わなきゃおかしいレベルだって! ラビコお得意の魔法か? 魔法なのか? クソッ、こんな恐ろしい魔女を野放しにしちゃいかん。
モジモジと恥ずかしがっているロゼリィを横目に、俺は冷や汗を流し顔を真っ赤にして立ち上がり獣のような俊敏な動きでラビコを壁際に押しやる。
そして伝説の壁ドン体勢で説得開始。
「な、なぁラビコ……物は相談なんだが、あんまり魔法で俺の心を読むのは止めて欲しいなぁーなんて思う今日このごろなんだ」
「はぁ~? 私にそんな能力は無いよ~だ。急にキョロキョロしだして肌の露出の多い女性の方向で動き止めて、溜息付きながらロゼリィ眺めだしたから~そのまま言っただけだよ~だ」
俺の圧迫面接にビクともせず、ラビコが不満そうに俺の目を真っ直ぐ見て言い返してきた。
ちっ、さすが歴戦の大魔法使い。眉一つ動かさず言い返すか。
「それに社長がこういう脅し的なことをしても無駄さ~。大きく出たところで女を触る度胸もないくせにさ~そんなだからいつまでも童貞なんだよ~。あっはは~悔しかったら今ここで私の胸を触って見ろってんだよ~あっはは~」
い、い、い言ったな……!
何もこんな駅の中でちょっと周囲がざわついているときに言わなくてもいいじゃないか。
もぅ怒った、やってやる……お望み通りやってやるよ!
俺はニヤニヤ笑うラビコの胸を水着の上から凝視する。
う……や、柔らかそう……。ロゼリィほどではないが、充分に大きいラビコの胸。
カエルラスター島で顔でその柔らかさを味わったことがあるが、あれは良いものだった……。
「な、泣いたって……し、知らないからな!」
俺は右手をラビコのその大きな胸の数センチ前に構える。
冷や汗まみれのド緊張でその手はブルブル震えているけど……や、やってやる。
「あっはは~誰が泣くもんか~どうせ触れないよ~ホラホラ~」
「はい、二人共そこまでです。ここは駅なんですよ!」
「ンゴッフ」
「いった~」
背後からノシノシと近づいてきたロゼリィの手刀が俺達の脳天直撃。
チラリと鬼のオーラが見えたので、ラビコと二人で瞬時に謝った。
「皆様、お戯れはそこまでですわー。列車が来ますので早く改札に来て下さーい」
「……マスター」
アンリーナとアプティが買ったキップをひらつかせながら向こうで呼んでいる。
そして駅舎内で結構注目を浴びていた。
やべーやべーあまりに核心を突かれたもんだから周りが見えてなかったわ。
「わ、悪い。すぐ行くよ」
「ふ~んだ、ロゼリィばっか見てさ~……私を見て私に言ってくれればさ……あ~あ、なんでもないっと! ホラ行くよ社長~いざラベンダル~あっはは~」
ラビコが聞き取れない小声で何事かつぶやき、すぐに笑顔になって俺の腕を引っ張りはじめた。
なんて言ったか聞き取れなかったが、俺達は次の目的地のラベンダルへ向けて列車に乗り込む。
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