第264話 紅茶巡り紀行 2 アプティ審査会様
今俺がいるのは、花の国フルフローラ最大の港街ビスブーケという大変暑いところ。
街中が花で溢れていて、とても雰囲気がいい。
ここにはペルセフォス王都のカフェで出すおいしい紅茶を探しに来た。
お昼に駅前にあるカフェで高級紅茶ショコラメロウという品種を頂いたのだが、これがまた美味しい。
紅茶の前に食べた辛めのスープパスタは美味くもまずくもなかったが、紅茶はさすがに産地なだけあって納得の味。
アンリーナの説明では、チョコレートのようなビターな香りにほんのりとした甘みが舌に広がる高級品種とのこと。
たしかにチョコのような香りに、あとからふわっと甘みが来る。
結構お高い紅茶なのでちびちび味わって飲んでいたら、紅茶が好物なバニー娘アプティがポットごと一瞬で飲み干してしまった。
「……これ美味しいです……」
アプティが中身の無くなったポットをじーっと見てはチラチラ俺を見てくる。
おかわりっすか……これかなりお高いんですが……まぁいいか。
俺は店員のお姉さんを呼び、ショコラメロウのポットごとを単品で頼む。
「そ、そうか……もうちょっとゆっくり飲んでもいいんだぞアプティ。ほら、そこにお菓子もあるだろ。それと一緒に、のんびり流れる食後のひと時を会話と楽しむように……」
ズルルルルル……チュッ
店員さんが新しく持ってきてくれた紅茶のポットがテーブルに置かれた途端、アプティがポットをつかみ、注ぎ口から直で一気に飲み干した。
「……マジで」
俺達はアプティのその行動を、目を丸くして見ることしか出来なかった。
いや紅茶……かなり熱いだろ。そんなに一気に飲めるものなの?
そこは蒸気モンスターならではの強靭な舌と喉の耐久度なのだろうか。
でもあれか。紅茶にはうるさいアプティが、がぶ飲みしてしまうほど美味いってことか。ふむ、アプティの味覚を信じてみるか。
「アンリーナ。このショコラメロウって銘柄が欲しい。紅茶好きなアプティがここまで美味いって言うんなら、俺も自信を持ってカフェで出せるってもんだ」
「な、なるほど……。たしかにこのショコラメロウと言う銘柄は、カエルラスター島のホテルでも男女年齢問わず人気でしたわ。少々値が張るのはネックかもですが、それに見合う味を確実にご提供出来ますわね」
よし、この紅茶選びの旅はアプティの味覚を信じて行こう。
流行りや一時の人気ではなく、確実に美味しい物を選定出来そうだ。
お昼ご飯も食べたのでカフェを出て、予定通り午後一時発の魔晶列車に乗り込む。
目的地、ローズアリアまでの時間はここから南に二十分ほどと近い。
空いていた席に座り、車窓に流れていく美しい花畑を眺めながらのんびりと美しい風景を楽しむ。
「到着ですわ。ここがカエルラスター島のホテルと契約している農家があるローズアリアという街になります。あ、師匠、頭を撫でて下さい」
列車を降り、駅舎から外に出るとアンリーナが説明をしながら唐突に撫で撫でを求めてきた。
よく分からんが……撫でておくか。案内してもらっているわけだし。
「ヌッフゥー栄養が……養分がこの身に染みていきますわぁ。じわじわ新婚旅行っぽくなってきました。あとはホテルで逃した初夜を……!」
お、アンリーナが元気になってきたぞ。
蒸気モンスターに襲われ、俺が怪我をしたもんだからちょっと落ち込んでいたようだけど、やっとアンリーナの本領が出てきたな。
ま、当然、もちろん後半のセリフはスルっと聞き流したけど。
ローズアリアか。
ビスブーケに比べたら小さな街っぽい。
建物が赤みがかった石造りだったり、あちこちに花が飾られていたりと、雰囲気は似ているけど。
フルフローラに着いてから、ロゼリィがずっとニコニコしているな。花で溢れている風景はロゼリィにはたまらない状況らしい。
「このローズアリアで有名な紅茶に、先程いただいたショコラメロウ、あとは柑橘のような甘みのアランルージュという品種がありますわ」
「よし、その紅茶もアプティ審査会にかけるぞ。合格したらそれも仕入れる」
アンリーナが新しい紅茶の名前を教えてくれた。柑橘系か、普通にうまそうだぞ。
俺の言葉を聞いたアプティが早く早く、といった感じで俺の腕をつかんできた。
いつも無表情で感情の起伏があまりないアプティだが、今回は違うな。
アプティも俺が怪我をして以降、誰かに怒られたかのようにしょんぼりしていたが、今はとても楽しそう。
ご飯は普通だが、紅茶はたまらなく美味い国だぞフルフローラ。
これはペルセフォス王都のカフェで出す紅茶はかなりの物になりそう。
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