第263話 紅茶巡り紀行 1 スイートスターとショコラメロウ様
カエルラスター島でちょっとアクシデントはあったが、俺達は当初の目的地花の国フルフローラに着いた。
ペルセフォスの南にある暑い国で、花や紅茶の産地として有名なところらしい。
確かに船から見える範囲でもすでに街中に花畑が見え、大変美しい街と言える。
到着したのは海風と花の甘い匂いが香るフルフローラ最大の港街ビスブーケ。その名の通り、お土産屋さんでは多くの種類の花束が売っている。
「うわぁ、すごい綺麗な街なんですねー。街中が花で溢れていますよ、うわうわー」
船から降りると宿の娘ロゼリィが大興奮。
目をキラキラ輝かせ、キョロキョロとあちこちを見ている。
お店の入り口や歩道の花壇等、あっちこちに花が飾られ、赤、青、黄、ピンク、紫、どこを見ても大変カラフル。
「なんか今までの街と明らかに雰囲気が違うなぁ。男の俺でも結構好きな雰囲気かも」
ロゼリィが今にも花屋さんに走って行きそうだったので、慌ててロゼリィの腕をつかむ。
気持ちは分かるが、アンリーナの指示に従おう。
魔晶列車で移動するらしいし、まずは時間の確認だ。
「現在の時刻は午前十一時過ぎとなっています。最初の目的地ローズアリアまでは魔晶列車で二十分の距離となりますわ」
港から徒歩十分ほどの所にある魔晶列車の駅でアンリーナが時刻を確認してくれた。
なんだ結構近いんだな二十分って。
ビスブーケ駅はペルセフォス王都とまではいかないが、かなり大きな駅で、人もかなり多く結構混雑している。ベスは移動用のカゴで大人しくしていてもらうか。
「そうですわね……えーと午後一時発の列車がありますのでそれに乗りましょう。もうお昼ですし、先にこちらの街でお昼ご飯をいただきましょうか」
ご飯と聞いた俺達は笑顔でハイタッチ。
よっしゃご飯か。どんなご飯があるのかなぁ。
ビスブーケ駅を出てすぐにある大きなメインストリート。
ペルセフォス王都のように大型商業施設は無いが、小さなお店がいっぱい並んでいてなんか楽しそう。
なんにせよ旅慣れたラビコとアンリーナにお店を選んでもらおう。
「ラビコ、ここは何が有名なのかな。暑いから冷たいものがいいかなぁ」
正確な気温は分からないが、この肌にジリジリとくる感じ。三十度以上ありそうだぞ。
「え~っと……ああ、あそこのカフェは一度入ったことがあるよ~なんか冷たいパスタがあったような~」
ラビコが以前入ったことがあるというカフェに入ってみた。
赤い石造りのオシャレなカフェ。中は木の家具で統一され、温かみのある内装。
店員のお姉さんにラビコが食べたことがあるというパスタを人数分頼み、ベス用にリンゴを注文した。
「お待たせいたしました。ビスブーケ名物フェンネルロンになりますー」
十分ぐらい待つと、お姉さんがいい笑顔で大きな深めのお皿を運んで来てくれた。
ビスブーケ名物なのか。
運ばれてきた物は、赤みがかった冷たいスープに平麺が入っている。ちょっとした野菜と鶏肉を蒸したものが添えられ、結構美味しそう。
しかし明らかに他の地域と違うのは、その冷製スープパスタっぽい物の上にお花が浮いている。うん、黄色いお花。
「ラビコ……なんか花が浮いているんだけど……これは飾りで避けて食べるのか?」
「それはスイートスターという有名なお花になりますわ。食用のお花として流通していまして、見た目が綺麗なので花の国フルフローラではよく食べ物に添えられる物です」
俺の問いに、正面に座っているアンリーナが説明がてら自分のお皿からその花をフォークですくい、もしもしと食べ始めた。
く、食えるのか。
あんまりお花って食べるイメージないなぁ。
ああ、食用菊は聞いたことはあるけど、実際に食べたことはない。菜の花はおひたしで食べた記憶があるな。
「どれ……ん、ほんのり甘い感じがする」
そのスイートスターという黄色い花を食べてみた。
ほんのり甘く、クドさはない。極端に言うと、あってもなくてもいい感じ……。まぁ飾りが主な役目なのかな。
「ってよく見たらお水にもその花が沈んでいるぞ」
サービスで運んできてくれたお水の入ったコップにも、そのお花が入っている。
飲んでみると、ほんのり甘い香りのお水。うーん、オシャレ全開の飲み物だな。
でもこれ女性受け良さそうだな。
ただのお水なのに、すっごくオシャレに見える。こういうのはペルセフォスのカフェにも使えるかもなぁ。
「あ~これこれ~冷たくて辛い平麺パスタ。なっつかし~」
ラビコがずるずると麺をすする。
見た目赤かったが、辛いのか。俺も食べてみるか……うんそこそこ辛くて冷たいスープパスタ。
あんまりダシは効いていない……な。辛味で食うパスタなのかな。
まずくも美味しくもない……でも暑いところではこれぐらいの薄味で辛味が乗っている、ぐらいがちょうどいいのかも。
とりあえず全員食べ終えたところで、紅茶セットを頼んでみた。
「どうぞーローズアリア産ショコラメロウになりますー」
お姉さんが持ってきてくれたのはポットに入った紅茶と、ハチミツがたっぷり乗ったスコーン的な物。
「ショコラメロウ……?」
聞きなれない名前に俺が首をかしげていると、アンリーナが自信満々に解説を始めた。
「これがカエルラスター島のホテルローズ=ハイドランジェでも出している銘柄、ショコラメロウという紅茶になりますわ。チョコレートのようなビターな香りにほんのりとした甘みが舌に広がる高級品種です」
ショコラメロウという紅茶の銘柄なのか。
高級……たしかにこの紅茶セット、お一人様四十ゴールドもするんだよな。
俺感覚では四千円で、ちなみにさっきのパスタが六ゴールドで六百円感覚。
まぁ全部俺が支払うからモリモリ食ってくれ。
でも高級品種らしいし、チビチビとゆっくり味わいますか……。
「……マスター、おかわり……」
「ぶっ……」
俺がちょっとづつ高級品種ショコラメロウを味わっていたら、バニー娘アプティが出されたスコーン的な物には目もくれず、ポットごと高級紅茶を飲み干していた。
びっくりして思わず高級紅茶吹いちゃっただろ……。
も、もうちょっと味わって飲もうな、アプティ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます