第261話 花の国フルフローラへ 12 俺よ安静に様


「はふはふ……クフンクフン」



 う、胸が重くて暖かい。なんだろう。


 そういえばラビコの胸の柔らかさを味わっていたような……。



 ペロン


「うっひゃ……顔舐めるとかよせ……って、ベスか」


「ベスッ」


 目を開けると視界全てが俺の愛犬ベス一色。


 寝ている俺の胸の上に陣取り、俺の顔をじーっと不安そうに見てくる。


 大丈夫だ、ベス。


 そんな悲しそうな顔すんなって、俺はなんともないよ。



 ベスを抱えベッドから上半身だけ起き上がるが……どこだここ。


 広い個室だが、ホテルの客室じゃあないな。病院みたいな雰囲気。そういや着ている服も病院で着るようなやつだな。


 窓の外が明るいな、時計は……午前八時過ぎか。


 もしかして昨日の夕方からがっつり寝てしまっていたのか。




「あ、よかった……うう、アプティとラビコがあなたを抱えて帰ってきたと思ったら、全身血まみれで意識なくぐったりされていたので……もう心配で……でもよかった、よかった……うぅ……わああ」


 ドアを静かに開け入ってきたロゼリィが俺を見て泣き崩れてしまった。


 よく見たら腕から足からお腹から包帯まみれだな、俺。多少痛むが、もう一日休めば大丈夫じゃないかな。


「大丈夫だ、ロゼリィ。もう一日休ませてくれたら、すぐに花の国フルフローラに行くぞ」


 俺が笑顔で言うと、ロゼリィが俺の側に来て右手を軽く握ってきた。


「私もお父さんやお母さんみたいに魔法が使えれば、あなたをずっとお守りすることが出来るのに……」


 そういやロゼリィのご両親であるローエンさんとジゼリィさんは元勇者パーティーの一員で、手練れの冒険者だもんな。二人の子供であるロゼリィはその優秀な血を引き継いでいそうだけど……。


「バカ言え、ロゼリィに守られたら勇者である俺の立場が無いだろ。ロゼリィはそのままでいいんだよ。俺にロゼリィを守る格好いい勇者ってのをやらせてくれよ、な」


 泣き顔のロゼリィの頭を優しく撫でる。

 

 俺の冒険者カードに書かれている冒険者ランクは街の人、なんだけどね。いいだろ、妄想では勇者を演じているんだよ。



「ところでここってどこだ? 病院か?」


「あ、いえ……ここはアンリーナさんのホテルの中にある医務室です。昨日すぐにお医者さんがあなたを治療してくれました。まだ痛みますか?」


 そうか、ここアンリーナのホテル内の医務室なのか。この設備の充実度、さすがだなぁアンリーナ。


「いや、動かすとちょっと痛むぐらいかな。明日には行けると思うぞ」



 その後、お医者さんが来て経過を診てくれたが、広範囲ではあるものの浅い切り傷と打撲程度で済んだそうだ。明日には動いていいと言ってもらえた。





 ホテルローズ=ハイドランジェ十四階の部屋は昨日一日のみの貸し切り。


 さすがに全フロア単位は一日が限界で、今日からは予約で一杯。アンリーナがなんとか空いていた十二階の大部屋を取ってくれた。


 せっかくの最上級クラスだったが、泊まれなくて残念。仕方ないけど。



「まぁ、歩くぶんにはなんともないな。医者に言われた通り、無茶しないで今日は休ませてもらうよ」


 医務室から歩いてきたが、なんとかなりそう。



 アンリーナがひたすら自分の責任だと謝ってきたが、俺とアンリーナだったから被害が最小限に済んだんだと頭を撫でた。


 実際アンリーナはホテルに戻り、すぐに避難指示を出し、近隣ホテルにも走り情報の共有に奔走したそうだ。揃えれる限りの武器、冒険者や傭兵を雇い住民や観光客の避難の護衛に就かせたとか。


 おかげでこれだけ観光客が多くいる状況なのに、混乱も起きず、スムーズに避難が完了していたらしい。


 ラビコとアプティが俺を抱えて戻ってきた時にも冷静にラビコと相談し、蒸気モンスターはラビコが倒した、と宣言を出したそうだ。


 世界的に有名な大魔法使いラビィコールが蒸気モンスターを倒したという宣言はあっという間に広がり、住民や観光客もそれなら大丈夫と安心して戻り、いつもの混雑するカエルラスター島の日常がすぐに戻ったとか。


 そのあたりの判断の早さはさすがアンリーナ。俺には真似出来ないな。



 予想はしていたが、やはりラビコからは怒られた。


 自分の命を天秤にかけるな、と。


 でも、俺は側にいたアンリーナを守りたかったんだ。





 昼頃、それまで姿が見えなかったバニー娘アプティがフラーっと部屋に入ってきた。


 ちょっと落ち込んだ感じの表情で俺のベッドに腰掛ける。


 なんか悪いことをして怒られた子供のような雰囲気だが……どうしたのか。



 ちなみにあの時、ロゼリィはサウナ。ラビコは温泉。


 そしてアプティはカフェでテーブルいっぱいにアップルパイを並べモリモリ食べ、高級紅茶をズルズル飲んでいたそうだ。


 満喫していたんだなぁ、アプティ。



「……申し訳ありませんマスター……」


 あの場面に一番に来てくれたのはアプティだろ。何を謝る必要があるんだ、と頭を撫でる。

 


 ちょっと予定は狂ったが、明日からはいつもどおりに行くぜ。


 カエルラスター島はまた今度来たいと思う。


 そうだ、船で来れるならジゼリィ=アゼリィのスタッフさん全員との旅行とかよさそうだぞ。南国でバイト五人娘の水着姿とか、想像するだけでヨダレが出る。




「社長~たくましいのはけっこうだけど、この状況でよくエロい妄想できるなぁ」


 いつのまにか水着魔女ラビコが部屋に入ってきていて、ジト目で見てきた。



 やべっ……まぁそれぐらい回復してるってことでご勘弁を。






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