第233話 脳内永久保存とウエディングなお姫様
王都ペルセフォスのお城の二階にある客室。
そこをサーズ姫様のご厚意で使わせてもらい、湯上がりに俺はソファーに横になり満足気にぐいっと身体を伸ばす。
「うう、見られてしまいました……」
宿の娘ロゼリィが部屋の隅で顔を真赤にしたままモジモジしている。
そこに水着魔女ラビコがニヤニヤと笑いながら近づいていく。
「あれ~社長に見られるのが嫌だったのかい~? っていうか社長以外に誰に見せるっていうのさ~他の男ならよかったのかい?」
「ま、まさか! 他の男の人とか絶対嫌です! そうではなくて、その、シチュエーションが……その……もっと美しい思い出になるようなものが良かったなぁと、その……」
俺は思う、異世界に来て良かった。
本当に異世界に来て良かった。
素晴らしいものを俺の目に、脳に焼き付けられたのだから。
「……マスター紅茶です……」
バニー娘アプティがソルートンから持ち込んでいる葉を使い紅茶を用意してくれたので、ありがたく頂く。勝利の美酒ってやつだな、うん。
「……マスター……」
一口飲み終えた紅茶をテーブルに置くと、アプティが俺の横に座り身体を寄せてきた。どうしたんだ、お尻はよく掴んでくるが身体を寄せて来るのは珍しいな。
「……申し訳ありません。マスターのご期待に応えられず、醜態をさらしてしまいました」
ああ、ラビコに足を抑えられたことか。気にするな、結果オーライだ。
「……マスターに付けていただいた名を呼ばれ、身体から力が湧き上がるあの不思議な感覚……あれが恋というものでしょうか……」
真面目な顔でアプティがボソボソ語るが、それは恋じゃねーぞ。
「……本で読みました、恋する乙女は強いと……。きっとこのことなのですね……少し人間の気持ちが分かった気がします。マスターに名を呼ばれると心が震えます……これからもマスターのお側でこの気持を感じたいです……」
何の本を読んだのか知らないがそれも違うぞ、アプティ。側にいてくれるのは嬉しいが。
翌朝、いつものペルセフォスの制服に身を包んだハイラが元気に部屋に入ってくる。
「おはようございます先生! 今日はお休みをいただいていますので、存分にご奉仕いたします!」
ハイラとサーズ姫様は今日はお休みをいただけたそうだ。
貴重な休みだというのに、サーズ姫様がカフェに貸し出してくれる場所まで案内してくれるとか。
「おはよう。はは、今日はプライベートなのでな、私服で失礼するぞ」
ハイラの後ろから、身体中にヒラヒラの飾りがついた豪華なウエディングドレスみたいな服を着たサーズ姫様が現れた。うわっ、これはザ・お姫様だ……思わず見とれるぞ。スカート部分は短めで、生足がスラリと見える。これはたまらん。
「ぶっ……おいコラ変態~なんの真似だよそれ~。何が私服だ、国支給の制服しか持っていないくせに~。喧嘩売ってんのか~?」
それを見たラビコが吹き出し、サーズ姫様に詰め寄る。普段着が水着のラビコに言われてもな、と思うが。
「馬鹿を言え。制服以外にも服はあるが、あれは主に室内用でな。クマさんはデートに着ていくのには向かないと思い、急遽私服を作ってもらったんだぞ。タイトルは愛の成就の形、だ」
サーズ姫様が自信満々に答えた。
「ああああ……今日はデートじゃねーっての~! それにデートという設定でウエディングドレス着て愛の成就とかおかしいだろ~!」
「む? 先を見越して行動した結果だ。お互いの裸を見たあとのデートだ、期待をして何が悪いのか」
サーズ姫様とラビコが揉めているが、早く案内をしてくれないかな……。ここは否定しておくが、サーズ姫様の裸は見ていないぞ。バスタオル越しに、なら見たが。
「うう、私も攻めの私服を着てくるべきでした。お城の中ではどうしても制服を着てしまいますぅ」
ハイラが自分の制服姿を後悔しているが、ラビコの水着、アプティのバニー、サーズ姫様のウエディングドレス、これ以上目立つ服を着るキャラは勘弁してくれ。
ああ悪い、オレンジジャージにオレンジマントの俺自身も目立っているか。
あと不思議と皆の視線が俺の股間に向いてくる。どうしてだろうか、以前もこんなことがあったが。
「お、おはようございますサーズ様……」
「おはようございます……あの、その格好……」
「む、おはよう。皆、今日は私用でな、これで失礼するよ。はは」
お城の中を移動するが、すれ違う騎士達の驚いた顔とあんぐり開いた口。
気持ちはよく分かる。自分の仕える上司がウエディングドレス姿でうろうろしているんだからな。
「ラビコ、どうにかならなかったのかよ」
「だから言ったよ~聞かないんだってあの頑固変態が~」
小声でラビコとやり取りするが、さすがにウエディングドレスは目立つぞ。
半端なく。
「で、でもさすがに王族。とても美しいですわ……」
「そ、そうですね……豪華な服に負けない美貌が羨ましいです」
アンリーナとロゼリィが軽くフォローするが、自然な笑顔ではない。
七枚ある防壁を越え、お城の敷地外に出る。
出てすぐ右に美術館みたいな巨大な建物があるが、それが図書館なんだそうだ。
「あの図書館の向かいにある土地、今は花壇として整備されているが、あそこが王族所有の土地となっている」
サーズ姫様に指示されたところは確かにちょっとした公園のようになっていて、花壇が綺麗に並んでいる。しかし中には入れないようになっていて、通りすがりに楽しむように作られている。
図書館はここから見るだけでも出入りが激しく、かなり人が集まっているのが分かる。その上、お城に務める騎士達の数は相当なもの。
駅直結の大型商業施設とまではいかないが、かなりいい場所だ。
アンリーナがきょろきょろ辺りを見渡し、状況を計っている。さすがに行動が早い。
俺と目があったアンリーナの顔に迷いはなく、二人で勝利を確信する。
「いけますわ」
「ああ、これはいける」
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