第229話 通信システムと魔法の種類様


「……おはようございます、マスター」



 翌朝、いつものごとく隣の部屋にいるはずのアプティに起こされる。



 今俺がいるのはセレスティア王国のお城の中。


 三人部屋を三つ用意してもらったのだが、結局隣の部屋の割り当てのアプティは普通に朝起きたら俺の横にいる。部屋割り意味ないな。



「ぬぅううーん……」


 身体を起こすと、俺と左のロゼリィのベッドの隙間になにか唸る物体が。これはアンリーナか。どうやらアプティにくっついて部屋に侵入し、何やら頑張ったらしいが天敵アプティには勝てなかったらしい惨状。


「おっはよ~ふわわ~」


 右のベッドのラビコがあくび混じりに起き上がり、アンリーナを見る。


「いやぁ~がんばっていたよ~アンリーナ。まぁ、アプティには歯が立たないようだね~あっはは~」


 うーん、アプティは素晴らしいボディガードだな。



「ぅぅー旅先での想いで作りが……残像、赤い光が揺れる残像、うぅぅ」


 ラビコのベッドの向こうから、ムクッとハイラが起き上がる。おい、なんでハイラまでいるんだよ。


「いやぁ、全く君の護衛はすごいな。三人がかりでも歯が立たなかったぞ、はは」


 ハイラの向こうからサーズ姫様の爽やかな笑顔が……結局全員この三人部屋に集まってるじゃねーか。


 よく分からんが偉いし強いぞ、アプティ。





 今日の十六時発の魔晶列車でペルセフォスに帰るとのこと。


 サーズ姫様とハイラがセレスティアのお偉いさんに挨拶回りに行っている間に、俺はラビコを連れてノギギに会いに行くことにした。




 セレスティアのお城の中の一室、そこはノギギ専用の部屋らしく、いわゆる研究所らしい。さすがに国一番の魔法使いということで、待遇がいいんだそうだ。



「よぅノギギ、昨日の四体のゴーレムの魔法乱れ打ちはすごかったぞ」


「あ、お兄様にお姉さまじゃないですか。よかったです、喜んでもらえたみたいで」


 開いていた部屋の壁をノック代わりに叩き、中に入る。


 なにやら書類を見てムスっと口をへの字にしていたノギギが、俺と後ろのラビコを見て笑顔になった。あのへの字口は機嫌が悪いわけじゃなくて、真面目な顔にしようとするとあれになるらしい。



「今日の夜に帰るんだけど、その前に聞いておきたいことがあってさ」


「え! もうお帰りになられるんですか!? せっかくお知り合いになれましたのに、残念です」


 紅茶を用意してくれていたノギギが驚いてこちらを見る。今回はイレギュラーで来ただけだからな、今度来るときはしっかり予定立てて長居してみたい。



「お聞きしたいこと、ですか。私でよろしければなんなりと」


 ソファーに座りラビコと出された紅茶をいただきつつ、俺は魔法の国の専門の人に聞いてみたかったことを質問してみた。



「俺は魔法の知識が無いから変なこと言うかもしれないが聞いて欲しい。この世界には魔晶石を使った便利な道具がある。例えば魔晶石コンロ、魔晶石ランプ、このセレスティアでは魔晶石の力を利用した暖房設備なんかがある」


 しかし便利な物だよな、魔晶石って。


 これ最初に思いついて作ったやつ天才過ぎだろ。


「魔晶石の力を利用した物は多くあるようだが、一つアイデアがあってな。例えばこのお城から魔晶列車の駅まで連絡をしたいときはどうする?」


 横でラビコが話に加わりたいオーラがバリバリ出ているが、ここはノギギに話を聞かせてくれ。


「お城からですか? 普通は伝令役が走りますね。あとは伝書鳩、でしょうか。これは確実性が危ういですが」


「だろうな、ではこういう物は出来ないだろうか。ここにいながら駅にいる人と話が出来る物を使って、確実に素早く伝える」


 俺が言うとノギギが首をかしげる。


「ここにいながらですか? それは無理かと思います。まぁ、古来から狼煙や光の点滅で伝えるみたいなものはありますが……」


「それの発展だ。魔晶石を利用した装置で離れた場所にいる相手に言葉を届け、相手の言葉を聞き、会話が出来る物が作れないだろうか、と俺は考えている。魔法にそれが出来る可能性があるものはないだろうか」


 話を聞いていたノギギが目を丸くする。


 横のラビコの大人しくしている限界が突破、ガバッと俺に抱きついてくる。こら、まだ話が――。


「あっはは~! ねぇ聞いたノギギ。離れた場所にいる相手に言葉を届ける装置だって~! だいぶ前も少し上から物を見たい、そして何個も固定の視点を作って何ヶ所も同時に脳で認識したいとか~うちの社長はもうこの発想と考え方が面白くてさ~今度はどんな面白いこと思いつくか気になって側を離れられないんだよね~あっはは」


 我慢していた分、ラビコが一気に言葉をまくし立てる。俺の顔に頬ずりしながら大声出すのはやめろ、耳の振動がすごい。


「確かにすごい発想です。少し上からの何ヶ所もの固定の視点を脳で同時に認識する……それは数人の騎士が見ている景色を誰か一人に伝え情報をまとめるということを一人で試行し完結出来ないか、という発想ですか。驚きの考えです」


 いや、単にゲームやるとき複数モニター並べたほうが状況理解しやすいってやつなんだが。この世界にはモニターがないからなぁ。説明が難しいよな。


「遠く離れた人と会話が出来る装置……それは出来たらとても便利になりそうです。しかしどうすればいいかは、私は魔法の使用者であって研究者ではないので知識が足りないかと。お力になれず申し訳ないですお兄様」


 申し訳なさそうに頭を下げるノギギ。


 国一番の魔法使いのノギギでも無理か。これは長い目で見てどこかでヒントを得れないか、と考えていくか。



「あっはは~魔法だって万能ではないからね~。魔法ってのは何かの大いなる力を借りて発動させる物が一般的で~それは借りる先の元の力は超えられないんだ。これは最終到達点ありの魔法だから~ディスティネーションタイプって言うんだ~。でも魔法にはもう一個パターンがあって~それはイマジネーションタイプって言うんだ~」


 ほうラビコさん、魔法の種類とな。


 そんなのがあるのか。ディ、ディス? 


「ほとんどの魔法使いが使うのが『大いなる者の力を借りる』パターンで~これは自分の魔力にその大いなる者の力を借りるから~個人が持っている魔力はそこまで求められないんだ~。火を出すのが得意な大いなる者の力を借りて、その火を出すってやつだね~」

 

 俺にはそれすら使えないんだが。魔法使ってみてーなぁ……。


「でも~イマジネーションタイプってのは~『何の力も借りずに個人の持てる純粋魔力のみを元にして放つ物』で~これを使うにはまず魔法の才能、膨大な純粋魔力、そして想像したものを思い通りに制御出来る能力が求められるから~何でも自由に作り出せる分、難易度が激高で~もはや人間業じゃあないのさ~」


 魔法の才能に膨大な純粋魔力に制御能力だと? 俺、一個もないじゃんか。


「火や熱を出す魔法があるから魔晶石コンロは出来たし~暖房だって熱の魔法があるから出来る装置で~魔晶石ランプだって火の明るさを利用したものなのさ~。でもこの世に無い、離れた人と会話をするような魔法物を作ろうとしたら~そっちのイマジネーションタイプの才能が必要ってことだね~。多分出来る人間はこの世にほとんどいないよ~あっはは~」


 世界でも有数の大魔法使いのラビコを持ってしても人間業じゃあない、と言わせてしまうのか、そのイマジネーションタイプってのは。



 ではこの世界の人間じゃない、異世界の者がそれが使える可能性はないだろうか。




 例えば蒸気モンスター、とか。















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る