第228話 雪の夜空に咲くマリアテアトロ 4 ノギギショーと背中で語る健全紳士様


 次々とセレスティアの雪の舞う夜空に魔法の花火が打ち上がる。


 今年のマリアテアトロを決めるセレスティア王国一大イベントで、マイナス一桁後半の厳しい寒さにも関わらず多くの観光客が集まり、その美しい光景を大事な人と共に楽しんでいる。



 参加者は五人一組で川岸に作られたステージに上がり、制限時間内で魔法を打ち上げ競う。


評価は芸術点で決まるようで、俺達がいる王族観覧席の側に審査員席がある。


 ズラリと並んだ審査員達が紙に何やら書き込み、評価が決まっていっているようだ。




『参加者の皆様ありがとうございました。これより審査に入りますが、その間は我が国が誇る魔法使いノイギア=ギリオン様のショーをお楽しみ下さい。それではどうぞ!』


 司会者のアナウンスが入り、さっきので全ての参加者のアピールタイムが終わったようだ。


 初めて見る俺にはどの魔法の花火も美しく、甲乙付けがたかったが、審査の結果はどうなるのか。


「お、ノギギが出てきたぞ。なるほど、審査の時間を利用してショーを見せてくれるのか」



 先程のステージに赤いマントを羽織ったノギギが現れ、杖に刺さったカボチャを天に向かって突き上げた。


「我こそはラビコお姉様の一番弟子、ノイギア=ギリオン! 我が魔法の力にてこの夜の暗闇すら追い払ってみせよう! ククッ……出てこい! アルバルゴーレム!」


 ノギギが叫びマントを放り投げ、カボチャの刺さった杖で地面を叩きつける。



「出るよ~ノギギがこの魔法の国でナンバーワンにのし上がった魔法が」


 ラビコがニヤニヤしながら呟く。公式の場でラビコの一番弟子を名乗ったが、そこは突っ込まなくていいのか。


 聞くとノギギは十八歳。


 その歳でこのセレスティアでナンバーワンになれた理由か……というかカボチャ使うのか。なんかラビコに憧れている理由が分かるような、分からないような。



「ククッ! これぞ我がカボチャの力! お姉様、見ていて下さい!」


 杖を叩きつけた地面からボコボコッと四つのゴーレムが生まれ、ノギギを守るようにその巨体を揺らす。


 高さは三メートル以上はあるゴーレムで、一つは火を纏い、二つ目は水、三つ目は風、四つ目はゴツゴツとした石を纏っている。


「さぁお前ら、空を焼き払えぇ!」

 

 ノギギが叫ぶと、四体のゴーレムが一斉に大口を開け空を向く。次の瞬間、赤、青、緑、黄色の輝きがそれぞれのゴーレムから打ち上がり、轟音と共に夜空に大輪の花が咲く。



「で、でけぇ……さっきまでの人とは桁違いの大きさだぞ」


 俺がその花火の大きさに驚いていると、ラビコが説明をしてくれた。


「あっはは~あれが魔法の国の戦闘スタイルで~普通は一体のゴーレムを作り出し、自分を守らせるんだ~。でもノギギは同時に属性の違う四体のゴーレムを作りだし操るのさ~。あれが出来るのはセレスティアではノギギだけだね~」


 なるほど、自分の分身を四体呼び出せるようなものか。すごいんだなノギギって。


 打ち上がる魔法の花の大きさ、迫力が今までの参加者とはレベルが違う。初めて見る俺でもそう思うのだから相当なことなのだろう。


 打ち上がり、魔法の大輪が咲く度に周囲が昼間のように明るく照らされる。うっは、本当に夜の暗闇を追い払っているような光景だ。



「はは、すごいなノイギア=ギリオンは。セレスティアの魔法の力というものを見せつけられるな」


 サーズ姫様もノギギの桁違いのショーに感嘆の声を上げる。


「だがサンディールンもすごいんだぞ、その血筋が成せるセレスティア王族魔法の使い手だからな」


「あはぁーやだサッちんってばー。あんまり褒められたら柱が出ちゃうよー、十二本」


 サーズ姫様の横にサンディールン様が寄り添ってきて甘え始めた。


 そうか、サンディールン様も魔法使いなのか。まぁ魔法の国の王族様だしな、ここで超接近戦で素手の武闘派だったらおかしいわな。


「お、おいやめろよサンディールン。ここで柱はよせ」


 柱か。どういう魔法なのか見てみたいが、サーズ姫様が慌てて止めている。



『ノイギア=ギリオン様、ありがとうございました。四体のゴーレムから放たれる魔法は圧巻でしたね。さぁ、審査の結果が出たようです。今年のマリアテアトロとなるのは――』




 優勝者は大人しそうな女性の魔法使いさん。確かとても色彩が豊かで、形の綺麗な花火を打ち上げていた人。


 あの人が今年のマリアテアトロか、ペルセフォスでいうハイラになるのか。



 優勝式典が始まり、吹奏楽団による格調高い音楽が流れ始めた。


 嬉しそうだなぁ、優勝したあの女性。努力と苦労が見事花開いたわけだ。



「素晴らしかったですわね、師匠。雪の夜空に打ち上がる魔法の花。それはどんな人の心にも何かしら触れるものがあるはずです」


 アンリーナがすすっと寄ってきて俺の左手を握ってくる。


「大丈夫です、師匠。その湧き上がる想いはこのアンリーナ=ハイドランジェが受け止めてみせます! さぁ師匠、心のままに……さぁ! その欲をこの私に――」



 さて、イベントも終わったしお城に帰ろうか。


 俺は興奮した小柄なアンリーナを背負い立ち上がる。


「ほぉぉ! 師匠の大きな背中が今私の目の前に! 独り占めです、これはこれで独り占めの世界ぃぃ!」


 本当に元気だよなアンリーナって。なんかかわいい妹に見えてきた。



「あ~それいいな~。ねぇねぇ社長~次は私ね~ほらほら私前座で頑張ったし~疲れたな~あ~疲れたな~」


 アンリーナを背負ったらラビコがニヤニヤ擦り寄ってきた。その後ろにはロゼリィが並び、アプティ、ハイラも並ぶ。



「おお、順番か。それは公平だな、うむ」


 サンディールン様に挨拶を済ませたサーズ姫様も並び、秒単位で計られ全員同じ時間背負うことに。ベスも意味が分からず最後尾に並ぶが、お前は背負わないからな。


 なんなんだよ、この俺アトラクションは……。



「でもまぁ、なんというか……いいものだ」


 順番に女性陣を背負いながら、俺は背中に当たる物の大きさの違いを楽しむ紳士っぷり。これぞ健全な紳士ってやつだな、うん。












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