第214話 再び王都へ 10 魔法の国セレスティア様


 お城の一階にある食堂。


 そこの王族等の位の高い人が使うスペースで朝ご飯をいただいている。


 

 今日のメニューはパンと野菜たっぷりスープにリンゴ。スープはよく分からない酸味と辛味。無言でパンを噛り無言でスープをすする感じ。リンゴは美味い。ベスにはリンゴを小さく刻んでもらった。


 ……そしてリンゴを可愛らしく食べるベスが王都女子に人気。女性が集まりベスをきゃっきゃっと撫でていく。


 俺、歯を食いしばって嫉妬。





「明日で申し訳ないのだが、私達と一緒に魔法の国セレスティアに行ってはもらえないだろうか」



 歯をギリギリさせていたら、この場所に誘ってくれたサーズ姫様が俺に微笑みながらそう言った。


 白い肌、少しつり目の整った顔。飛車輪に乗るときは長い髪を後ろにお団子のようにまとめているのだが、今は自然に下ろしていて大変いい……。うーん、美人。吸い込まれそうな美人だ。


 水着魔女ラビコに肘でゴスゴス小突かれるが、ぼーっと見てしまう。



「セレスティア~? どういうことだい変態女」


 俺がホケーっとしていたらラビコが答えてくれた。


「私達はソルートンの宿ジゼリィ=アゼリィの支店をこっちに出そうと下見に来ただけで~そっちの都合とか興味ないんだけど~」


「ふむ、ジゼリィ=アゼリィの支店? ああ、そちらのお嬢さんのお店か。アーリーガルにすごく美味しかったと何度も聞かされたよ。私もとても興味があるなその話、今度詳しく聞かせてほしい……が、今はこちらの用事を少し強引に進めさせてもらいたい」


 サーズ姫様がロゼリィにチラリと視線を送った後、すぐに俺の目を真っ直ぐ見てきた。


「実にいいタイミングで訪れてくれて嬉しいよ。いや、全てこちらの都合なのは先に謝っておく。もう明日の話なので私も少し焦っていてな、なりふり構わずいかせてもらう」


 サーズ姫様がグイグイ話を進めようとしてくるが、ラビコの隣に座ってスープをすすっていたハイラが露骨に顔をそむけた。


 なんだ? ハイラに関係があるのか?



「ペルセフォスの西にある国、セレスティアを知っているだろうか。我が国とはとても友好の深い国でな、私個人的にもセレスティアの王族とは仲良くさせてもらっている」


 西にある国、セレスティアか。


 その名前は初めて聞いたが、魔法の国という名前は何度かラビコから聞いたな。



「魔法の国と呼ばれていて、その名の通り魔法の扱いに長けた国でな。とても強力な魔法使いがひしめいている国だ。魔法に興味があるなら一度は訪れてみるといい……が、今回は悠長に言っている暇はなくてな。明日にはセレスティアに向かわなくてはならないんだ」


「ああ、そうかあれの時期か~あれは私もちょっと見たいかな~」


 さっきまで否定的だったラビコの物腰が柔らかくなった。なんだ? あれの時期とはなんだろうか。


「セレスティアで行われるイベントに毎年ペルセフォスの代表者が行くことになっていてな、それがもうすぐあるんだ。そして今年の代表者がハイラインなんだが……絶対行きたくないとゴネられてな」


 ハイラが代表者? なんでだろうか、王族じゃないのか。


「今年のウェントスリッターだもんね~ハイラ。そりゃ~行かないとな~、ずっと続いていることなのにここで切ってしまうと国家間に亀裂が走っちゃうかもな~」


「うっ……だ、だっていつ先生が王都に来てくれるか分からないのに、数日でもここを離れセレスティアに行くなんて考えられなかったんですぅ……」


 ラビコが面白いものを見つけた顔でハイラを煽る。


 そうか、ハイラはレースに勝ってウェントスリッターになったもんな。だから今年の代表者なのか。


「そこになんととてもいいタイミングで君が王都に来てくれた。会えたばかりでなく、一緒にセレスティア行くのなら問題はないだろう、ハイライン」


「う、はい……先生が行くならむしろ私は絶対ついていきますけど……」


 サーズ姫様の言葉にハイラが俺をチラチラ見ながら答える。



「どうだろう、この国を救う意味でも一緒にセレスティアに行ってもらえないだろうか。当然私も行くし、それにかかる費用は全額こちらが出す。あとは……そうだな、無理を聞いてもらうわけだ、見返りとして君の言うことをなんでも聞こう。なんでも、だ。はは」


 国を救うって、大げさですって。費用も出してくれるのなら断る理由はないな。だって俺、魔法の国に行きたいし。すごい異世界感が溢れたネーミング、ぞくぞくするじゃないか。


 あとサーズ姫様の最後の言葉のところで、大興奮したピンクのクマさんが迫ってくる映像が脳内に広がるんだが……これはなんなんだ。



「アンリーナ。仕事に影響はないか? 日数が増えることになるけど」


「はい、問題ないですわ。これも王都にお店を開くお仕事の一環だと判断も出来ますし、魔法の国のイベントは私もとても見たいです。しかも師匠と一緒なんて、とてもロマンティックです……はぁ……」


 忙しいアンリーナに聞いてみたが問題はなさそうだな。


 ラビコ、ロゼリィ、アプティも頷いてくれている。よし、決定だな。とてもロマンティックなイベントってのにも興味あるしな。



「分かりました、王都に用事はありますが後回しに出来ます。あと魔法の国ってのにすごい興味がありますし、ちょっと個人的なことで聞いてみたいお話があるのでちょうどいいです」


 あれだ、魔晶石を使った通信システムを作れないかの相談がしてみたいんだ。


 その人脈が欲しい。


 それには個人で行くより、名のしれたサーズ姫様がいるのはとても武器になる。 


 まぁ、ラビコも十分有名みたいだけど、さらにサーズ姫様がいると効果がでかい。申し訳ないが利用させてもらいます。



「見返りに俺の言うことをなんでも聞いてくれるとのことですが……」


 俺がそう切り出すと、全員が興奮して身を乗り出してきた。


 特にサーズ姫様が両手を腰のところで構え握りこぶしをつくり、はぁはぁと息が荒くなっている。


 ど、どうしたんだみんな、とサーズ姫様。



「先ほどもラビコが言いましたが、俺達は王都にカフェジゼリィ=アゼリィを開くつもりで下見に来たんです。この計画をスムーズに進めるにはサーズ姫様の協力を得られると心強いのですが……いい場所とかご紹介願えないでしょうか」


 しっかりとサーズ姫様の目を見て真面目に言ったのだが、聞いていたみんながずっこけた。


 え、何……?


「なんだよ~ここはそうじゃないだろ~この変態性癖女が泣き出すようなエッロいやつをお願いするとこだろ~。裸で奉仕しろとか~俺の体をお前の体で洗え、おもに胸でとか~そういうやつだよ~」


 いや、無理言うなラビコ。


 お姫様相手に冗談でもそんなこと言ったら俺の首が飛ぶだろ、物理的に。



「はは、相変わらずだな。紳士なのはいいが、それでチャンスを逃すのは悪手だと言える。私は何でもと言ったんだぞ、君には本当に何でもするつもりだ。私を抱きたくはないのか? このチャンスを利用して無理矢理抱くぐらい強引に来てもいいんだぞ。クマさんとなった君に力ずくで抱かれるとか興奮が止まらない……ははは!」


 サーズ姫様がはぁはぁ言いながら立ち上がり、俺の手を握ってきた。


 う、またピンクのクマさんが脳内にフラッシュバック……あ、頭がっ! 


 ちょっ……ここ騎士さんがたくさんいる食堂ですよ! 変なこと言わないで下さいって。



「む、無理矢理とか俺の趣味じゃないですって! 俺の心は純情なんです……!」


「はぁはぁ……はは。すまない、ちょっと冗談が過ぎたか。いや、私は本気だったんだが……君は本当に優しい男なんだな。それでいて、いざってときにはぐいぐいと周りを動かしていく。君の周りに有能な人物が集まる理由が分かるよ」


 興奮していたサーズ姫様がいつもの感じに戻ってくれた。よかった……。



「やった! 先生と旅行だ! うう、もう今日にでも行きたいぐらいですー。先生の体を洗うご奉仕は私がしっかりやりますから、楽しみにしていてくださいね」


 ハイラが笑顔で抱きついてきた。


 さっきまでムスっとしていたのだが、やはりハイラは笑顔が似合う。



「くっ……また胸の大きな同行者が……しかもサーズ姫様とか……師匠の人脈ってどうなっているんですか」


 自分の控えめな胸をペタペタ触りながら、アンリーナが苦い顔で唸る。



 よく分からんが、魔法の国に行けることになったぞ。


 これぞ異世界っぽくなってきたじゃないか。














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