第211話 再び王都へ 7 王都到着と土下座のまま夜空へ舞う俺様
列車に乗りのんびり窓に流れる風景を眺め、異世界を満喫しながら考える。
この世界には魔法がある。
火を生み出したり、雷を生み出したり。キャベツ状態のラビコは空を飛ぶことが出来る。
では魔法とはいつからあるのだろうか。魔法が発展したから科学が発展しなかったのだろうか。
そして魔晶石という存在。
魔力が込められた輝く石。その力を利用しエンジンが動き、この魔晶列車は走っている。魔晶石を使ったコンロもある。この世界は魔法と魔晶石によって発展していると言える。
魔晶石とはいつ、誰が作った物なのだろうか。
「ラビコ、魔法って何なんだ?」
「ふぁ? 何なんだって言われても~魔法は魔法だよ~」
窓際で本を読むラビコに聞いてみたが……うむ、まったく要領を得ないな。
ラビコ達にとって、普通にある物を普通に使っているだけだからな。俺だって電気って何だって言われても、あんまり説明出来ない。頭が悪いなりに言うと便利な物、か。ほら、頭悪い。
「じゃあ、魔晶石って何だ?」
「ううん? どうしたんだい社長~、ずいぶんと魔法について悩んでいるみたいじゃないか~。あっはは~どうやったって社長は魔法は使えないんじゃないかな~、だって街の人だし~あっははは」
爆笑するラビコ。
く、俺はまだ諦めていなからな。異世界に来たんだ、魔法ぐらい使ってみたいんだよ。
「魔晶石とは、魔力を結晶化した物ですわ。簡単に言うと、魔力というエネルギーのある水を入れておけるコップの役割を果たす石、ということでしょうか。使うと、石ごと蒸発するように消えて無くなってしまいます」
アンリーナが横から話に入ってきてくれた。
おお、さすが魔晶石販売の世界的メーカーの娘。
「作り方は残念ながら企業秘密ですが、遥か昔にとある魔法使いの女性が作り出した物とか。創業者であるローズ=ハイドランジェ様がその女性の協力を得て作り出した、と我が社の歴史に残っています」
へぇ、どんな世界にもそういう天才ってのがいるんだな。その女性の発明がその後、この世界をここまで発展させたと教えてあげたいぜ。
「なるほど。その遥か昔っていつぐらいなんだ?」
「はい、うちの会社は創業八百年を超えています。なのでそれぐらい昔のお話かと思いますわ」
は、八百……。なんだよアンリーナの会社ってすごい老舗じゃないか。そんな昔からあるのか、魔晶石って。
ふーむ、このあたりも含め王都の図書館で色々調べてみたいなぁ。
最後のパンも食べ終わり、時刻は夕闇を超え夜へと移っていく。
王都に近づくにつれ風景が自然の物から人工物が増えていき、外を歩いている人も多く見かけるようになり活気が出てきた。
「もうすぐ王都か、さすがに半分の一日で着くってのは快適だな」
「そうだね~体の負担は少ないかな~いや~お金持ちになった社長様々だな~」
俺が窓に張り付き王都の方角を見ていると、ラビコが背中にのしかかってきた。ラビコって一体どれぐらいのお金を持っているんだろうか。
皆で降りる準備を始め、二十二時過ぎ、ついに王都に到着。
「王都だー! おお、この混雑具合、周りの人の着ている服のレベルの高さ。整備された駅、直結の巨大な商業施設! たまらんね」
夜も二十二時を超えているというのに、この駅の混雑ぶり。
さすがに商店は閉まっているが、お酒やご飯がいただけるお店はそこそこ開いている。よく分からないけど人がいっぱいいるとテンション上がるよな。
「皆様お疲れです。無事王都に到着となりました。しかし時刻は二十二時過ぎ、まずは泊まる宿を至急探さないと、朝まで開いている飲み屋さんに居続けることになってしまいますわ。さぁ! 休む間なく動きますよ!」
俺が着いた感動に浸っていると、アンリーナがまだまだゴールじゃないですよ、と激を飛ばしてくる。しかし最悪お城にお世話になれないかねって図々し過ぎか。
「なぁラビコ、ご自慢の専用研究所に泊まれないのかね」
「ん~? そうだね~広さだけならすごいもんだよ~ま、布団もな~んにもないけど~あっはは~」
ラビコに専用研究所のことを聞くが、布団ないのか……。買って持ち込むにしても、布団が売ってそうなお店はもう閉まっているだろうし。これは早く泊まるところ探すか。
「警備兵! 整列! ラビコ様に道を開け!」
改札を過ぎてどうしようかと揉めていたら、どこからともなく低い声が響き、ドカドカと音を立て甲冑を着た騎士たちが集まってきた。
ものの数分で何十人もの騎士が集まり整列し、駅から外へと道が出来上がる。向かい合った騎士同士が剣をかかげ、クロスした剣のアーチが出来上がる。うへ、相変わらず王都でのラビコの扱いがすごいな。
「いや~どうもどうも~お騒がせしますね~、皆様こんばんは~」
ラビコを先頭にそのアーチをくぐり、駅の外へ出る。
ラビコが騎士の一番偉い雰囲気の人に握手を求めると、騎士さんは真っ赤な顔で申し訳なさそうに手を出した。すっごい嬉しそう、騎士さん。
駅前の宿屋を総当りするが、時刻が時刻なだけに受付もしてくれない状況。まずいぞ、これ。
宿屋ではなくホテルは空いていそうだが、ラビコ曰くアホみたいに高いらしいので却下。
ちぃ、二十四時間開いているファミレスはないのか! 異世界ぃぃ!
「まずいですわね、これは出費覚悟でホテルでしょうか」
アンリーナが溜息をつく。
うーん、知り合いの家とかどうかな。ホラ、あいついたろ。レースで不正して負けたメラノス。ラビコに憧れていたみたいだし、泊めてくれるんじゃね。
「じゃあ私の研究所に行くかい~? 本当になんにもないよ~布団もないし。ただの広い空間に朝まで五人身を寄せ合う感じかな~あはっは~」
「それ、いいかも……寒いと余計に密着度が増して次第に二人は……」
ラビコの提案にロゼリィが向こうの世界に行ってしまった。戻ってこいロゼリィ、まだ宿屋は諦めていないぞ。
開いている宿屋はあった。が、ペットお断り。くそ、うちの犬かわいいだろ! 泊めてくれよ。
「アカン、ラビコ様……よろしければ僕達を野宿からお救い下さい」
俺がラビコに土下座をする。ロゼリィとアンリーナが慌てて止めるが、俺はこれしか頼み方を知らん。
「あっはは~一千万G持っている男とは思えない行動だな~。実はここにいるメンバーって結構すごいんだよ~? 私とアンリーナ、そして社長の持っているお金合わせたら小さな国ぐらい作れちゃうんだぞ~。そうしたら社長は王様だ。王の眼を持つ社長にはふさわしい未来だと思うな~」
お、王? おう、それより寝床をくれ。
「はー……ほー……へぇ……国を作るとか大きすぎる夢かと思いますが、師匠がやる気ならこのアンリーナ=ハイドランジェ、全面協力いたします」
いや、なんでラビコの冗談に乗り気なんだよアンリーナ。
そうじゃなくて今は早く寝る場所を……。ロゼリィとアプティまで頷いているけど、俺そんなことしねーから。
「当然お姫様は私、アンリーナが師匠と甘い夜を……」
アンリーナが鼻息荒く演説をし始めたら、ものすごい風切音と壁叩くような大きな音がリズミカルに近づいてきた。
な、なんだ……化物でも近づいてんのか?
「せんせーーーい!!! いたっ……いましたー! 本当だ本物だ実物だ現物だ……!」
音が聞こえる夜空を見上げると光輝く物が一直線に飛び、壁で方向転換を繰り返し、驚くほどの速度でこちらに近づいてくる。
あれ……あの飛び方、もしや。
空飛ぶ車輪がまっすぐ俺に向かってきて、それに乗っている女性が手をかざすと空気の塊が生まれ、俺に放たれる。
「うわわっ!」
空気の塊に包まれた俺は土下座の体制のままフワッと空へ浮き上がる。
そこへエサを見つけた鷹がごとく空飛ぶ車輪が突っ込んできて俺を抱え、月が綺麗に輝く夜空へと舞い上がっていく。
その光景を見ていた周りの人が騒ぎ出す事態に。
これ、ちょっとしたダイナミック誘拐じゃねーか。
「先生! 先生……先生だ……うううう、寂しかったですぅ」
空飛ぶ車輪で空へと連れ去られた俺は、その搭乗者にがっしり抱きしめられる。
いい香り……うん、やっぱりハイラか。あの壁を蹴る飛び方、上手くなったなぁ。迷わず見事にコントロール出来ていたな。
「こらハイラ、王都の人がびびっているだろう。あと夜に建物の壁は蹴らないようにな。うるさいって苦情くるぞ」
「はいっ! 分かりました! ううう、この優しい声と喋り方……うわーん先生ー……!」
ハイラが俺を見て涙をボロボロ流しながら抱きついてきた。
はぁ、国を代表する騎士、ウェントスリッターになったってのに泣き虫は相変わらずか。
俺は久しぶりにハイラの頭を優しく撫でる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます