第186話 異次元空間の主 10 三人の告白様


「でもちょっと嬉しいかな~そんな状況なのに諦めることなく生きて帰って私達に会いたい、そして抱くんだって思ってくれたのは。どんなときでも立ち上がって、そうやって前を向いて行動する姿は~……好きだよ」





 夕食も終え、宿の借りている個室に戻る途中の廊下でラビコが隣で満足そうに笑う。


 それは以前怒られたのを思い出して行動出来たってのが大きいかな。


 あれはいい糧になったぞ、ラビコ。



「どうだい社長~本当に私を抱いてみるかい? そうしたら私との繋がりが強くなってもっと力が覚醒するかもしれないよ~」


 あのな、俺をからかうのもいい加減に……あれ、ラビコがいつもの冗談言った後のニヤニヤ顔じゃないぞ。すごく自然に微笑んでいる。


 ラビコは基本美人だからな、何か含んだような笑顔じゃなくて、こうやって普通に微笑まれたら耐性の無い男は簡単に落ちるぞ。



「だ、だめですよ、そういうのは私の役目ですから。エロキャベツは引っ込んでいてください」



 俺の左腕にロゼリィが抱きついてきてくれて正気に戻れた。


 あぶね……今、普通にラビコと見つめ合っていたぞ。




「……ちぇ~結構本気で告白したんだけどな~まだまだ社長の理想の女には程遠いのかな~」



 ラビコが水着の上に羽織っているロングコートのフードをかぶって、顔を見せないように宿に借りている自部屋に入って行ってしまった。


 俺がいつもと反応の違うラビコに驚きロゼリィを見る。





「……なんとなくラビコの気持ち分かります。私もラビコが先に行動していなかったら、あなたに迫まるつもりでした。あなたがいなくなった二時間、本当に怖かったです。リーダーがいなくなったという混乱もありますが、大事な人が突然いなくなる恐怖って想像以上に心に堪えました」


 いつもの優しい笑顔ではなく、不安で泣き出しそうな顔で呟くようにロゼリィが言う。


「あなた達が戻って来てくれて本当に嬉しかったです。あなたにベスちゃんにアプティ、ラビコと私……五人が一緒なのが当たり前でしたから……。その内の三人が突然いなくなったわけです、本当に怖かったです」



 俺もラビコ、ロゼリィと分かれてしまったことにすごい不安を覚えたからな。


 自分の不注意を本当に反省したよ。



「そして分かったんです。自分にとって大事な人が誰なのか。終わってみればほんの二時間でしたが、私にとってはそれ以上に長く感じる時間でした。あなたがいない、あなたが側にいない……もう永遠に会えないかもしれない……その気持ちは数秒ごとに不安から恐怖に変わっていきました。無事戻ってきてくれて本当によかった……」


 ロゼリィがゆっくり俺にもたれかかり、服を掴む。


「今、私に沸いている気持ちは、自分の気持ちも伝えないまま会えなくなるのはもう絶対に嫌という想いです。ラビコも多分、同じ想い……だから行動した。冒険者さんってどうしても危険なことをする職業ですし、ある日突然命を落とすかもしれない。ましてや過去に何度も大規模戦闘に参加したラビコは、これまでに多くの人の死を見てきたのだと思います。だからこそ後悔したくない……命あるうちに好きな人には好きと伝えたいんです」


 ラビコの様子が少しおかしかったのはそういうことか。



 気持ちを言った後、自分の行動に気付いてフードで顔隠したってとこだろうか。


 普段落ち着いていて、何でも知っている大人な雰囲気のラビコだが、そういう乙女な部分を見せるときもあるんだなぁ。



「タイミングは悪いですが、私もちゃんと言っておきますね。あなたが将来誰を伴侶に選ぶのかは分かりませんが、その選択肢に私が入っているとすごく嬉しいです。そして私を選んでくれたらもっと嬉しいです……あなたの心に私がいてくれたらいいな……私は、ロゼリィ=アゼリィはあなたが大好きです」


 しっかりと俺の目を見て言い、ロゼリィが俺の頬に軽くキスをして「おやすみなさい」と呟き自分の部屋に入ってしまった。







 残された俺は何が起きたのか理解出来ず、ほけーっと棒立ち。





 ベスが足元で俺のズボンを引っ張り、もう寝ようアピール。



 アプティが今までの一部始終を無表情でじーっと見ていた。


「マスター……大人気です……自分のマスターが人気なのは私も嬉しいです。……私は言葉でマスターを落とすのは無理と判断していますので、テクニックで応戦するつもりです。ご期待下さい……」



 最後は消え入るようにアプティが言い、自部屋に戻っていった。





 ご、ご期待しています……。














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