第185話 異次元空間の主 9 無事生還と俺の卒業はだいぶ先様
「ではケルシィのランヤーデでいいんだな?」
「ああ、頼むよエリィ」
魔王エリィが魔法少女のような動作で円を描きゲートを開く。
しっかし便利な能力だなぁ、これだよこれ。こういうのが俺にあるべきだと思うんだ。
「なかなか面白い時を過ごせたぞ、人間。また我と遊んでくれ、くふふ」
いえ、今日みたいのは勘弁。命懸けで遊ぶのはリスクしかない。
普通にお茶飲んで話すぐらいにしといてくれ。
元の姿に戻った愛犬ベスをしっかり抱き、アプティの手を握ってゲートをくぐる準備。
「またなエリィ、ジェラハスさん。ソルートンの宿、ジゼリィ=アゼリィに来てくれれば美味いもん食わせてやるからな」
ゲートをくぐり地面に着地。
相変わらず混雑し、多少雑な造りで配色も暗いケルシィの駅、ランヤーデに俺達は無事戻ってこれた。
場所はちょっとずれたらしく、駅の入り口あたり。
「戻った……よかった……やったぞアプティ! 俺マジでもうだめかと思ったぞ」
俺は全員無事に戻ってこれた嬉しさでアプティに抱きつく。よかった、マジでよかった。ベスも俺の足に顔を擦り付けてくる。
「マスター……いくらでも私の胸でお泣きなさい……」
よく見るとベスもアプティも結構ケガをしている。
まぁ俺もかなりなケガをしているし、こりゃ一日ぐらい列車乗るの延期するか。
「……へぇ~さんざん人を心配させといて、混雑する往来のど真ん中でアプティの胸に顔埋めてるってどういうことかな~」
あ、ラビコ……。やばい、かなりご立腹のお顔だぞ。
でもこれも無事戻って来れたからだよな。なんか久しぶりにラビコを見た気がするが、時計を見たら十三時過ぎであれから二時間ぐらいのものか。
いや、二時間もラビコとロゼリィに心配をかけてしまった、か。
俺はラビコに抱きつき戻ってきたことを実感する。
ああ、この感じ……ラビコだ。
「ちょっ……社長どしたの~いきなり……え、血……すごいケガだらけじゃない! アプティもベスも……ロゼリィ~! こっち、いたよ~! みんなすっごいケガしてるから手を貸して~!」
駅の外を右へ左へ走り回っていたロゼリィがラビコの声に気付き、こっちに全力で走ってきた。
「はぁっ……はぁっ……! よ、よかった……みつかったんですね。え、血が……もう……何があったんですか……いきなり消えたと思ったらケガだらけで戻ってきて……ううう」
ロゼリィがマジで泣いている。
かなり心が痛い。
「……すまない、俺の不注意がベスとアプティにケガをさせてしまい、ラビコとロゼリィに心配をかけてしまった」
ひんひん泣くロゼリィの頭を撫でて全員に謝る。
「と、とりあえず宿で治療だよ~話は後で聞くから~ロゼリィは社長の肩持って~私はアプティを支えるから~」
宿に戻り応急処置をしてもらい、さすがに俺はそのまま寝てしまった。
ベスとアプティは結構元気だったが、俺は戻って来れた安心で緊張の糸が切れたらしく、まぶたが重くてだめだった。
結局目が覚めたのは次の日の夕方。
俺はぼーっとする頭を抑え宿の個室を出る。
包帯は巻いているが、もう痛みはほぼない。これなら明日にはマルタートに出発出来そうだ。
「よぉー今頃目が覚めたぜ。夕飯は何かなー」
宿泊しているケルシィの港町ランヤーデの宿、過去にラビコが利用したことがあるからという理由で泊まっている。
ご飯ははっきり言って美味しくはないがね。
「社長~こっちこっち~」
ラビコが手を振って俺を招いてくれる。
テーブルの上には宿のメニュー以外に、商店街で買ったと思われるフルーツがたくさん乗っていた。あれ、持ち込みいいのか。
ラビコ、ロゼリィ、アプティがすでに席についていて、ベスも俺の部屋からトコトコ出てきて、俺の足元に座る。
「……ということがありまして……魔王がいる異次元世界から帰ってきた、ということです……」
アプティがリンゴを頬張りながら言う。
ああ、俺達に起こったことを説明してくれていたのか。これは手間が省けたぞ。
「ふぅ~ん、なんにせよ生きて帰ってこれてよかったね~まさか魔王ちゃんの根城に行っていたとはね~社長の目って本当にすごいんだな~」
「ま、魔王とか、本当にいたんですか……驚きです」
ラビコとロゼリィが俺のケガしている部分を見ながら言う。
「ああ、ケガなら大丈夫。明日には列車でマルタートに行こうと思っているぞ」
「よかったです……今日全く目を覚まさなかったので不安でした」
ロゼリィが心配そうに俺の左腕をさすってくる。この上目遣いがたまらんね。戻ってこれて良かったと思える瞬間だぜ。
お腹も空いているしとりあえずフルーツいただくか、この桃うまそう。
「しっかしベスが神獣化とはね~その話、今度詳しく聞かせてよね~社長~。あとジェラハスの胸はどうだった~?」
ギク。
その話もしたのかよ、アプティさん……。
そこは気を使ってあえて伝えない暗黙のルールなんじゃないんですか。
ラビコがニヤニヤ、ロゼリィがなんとも言えない複雑な顔でじーっと見てくる。
「神獣化したベスの力を使って抑え込んで、あの魔王ちゃんの側近ジェラハスの服めくって胸を見たって……社長神獣の使い方絶対間違っているよ~あっはは~。でもそれ聞いて安心したよ、ああ、うちの社長だってね~」
無言だ、ここは沈黙でやり過ごす。
こういうのは下手に弁解したら大変なことになるんだ。
「……ああ、それとマスターが元の世界に戻ったら私達全員を抱くと宣言していました……皆さん今夜の準備をしたほうがよいかと……」
アプティの一言に俺が口から桃の水を噴き出す。
それ一番言っちゃいけないやつでしょ、あんたやっぱ人間じゃねぇ、人の心が分からない……いや、空気が読めない蒸気モンスターだよ!
「え!? ケガはいいんですか!? あ、あ、わ、私急いでお風呂入って来ます!」
待ていロゼリィ、違うんだってあれは生き残るための方便で、それを本当に実行するわけじゃないって!
「あっはは~う~わ社長って女を抱くって欲の為なら、魔王の根城からでも生きて帰ってこれるんだね~。そのパワーはすごいっていうか、呆れを通り越して尊敬の域まで突き抜けるかな~あっはは~」
くそ、ラビコ俺にはそんな勇気がないって分かってて笑ってやがるな……ほ、ほ本当にややややってやんぞ! ああ、だめだわ。心の声ですらどもっているし。
俺の卒業はだいぶ先になりそうです。
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