第142話 ウェントスリッターへの道 9 レーススタートと空中は密室様


「行けハイラ!」




 レースが始まり、二十個の飛車輪が一斉にスタート地点から飛び立っていく。


 ハイラはスタートダッシュが決まり、トップを飛んでいる。直線ではおそらくハイラは誰にも負けないはずだ。俺は声を出してハイラを応援する。









「五本煙突……! スピード落として……丁寧に!」


「ははは! なんだよハイラ! トップで入ってそんなに減速するのかよ!」



 最初のポイント、五本煙突に差し掛かった。


 それまでトップだったハイラがメラノスに抜かれ、次々と後続に抜かれ、三本目の煙突でビリになってしまった。


 他の選手は綺麗に最短距離でスラロームを抜けていく。


 ハイラはやはり大回りのコース取りで遅れを取った。それでも頑張って曲がるほうに体重をかけて、ハイラなりに小さい弧を描いていると思う。



 五本煙突を抜けた時点で、メラノス含むトップグループ、二番手グループ、そして最後尾のハイラという構図になる。



 予想通りの展開にイベント会場は大盛り上がり。


「あはは! 見ろ! いきなりビリだぜ!」


「二番手グループにも入れないってどういうことだよ」


「期待通りだな。チケット買ったやつもう帰ったかな、わははは!」





 短い直線の後、ペルセフォスの守り木といわれる巨大な木の向こう側を次々回っていく。


 ハイラは直線で少し遅れを取り戻したが、やはり木を回るカーブでまた遅れを取る。ハイラが木を回った時点で、トップグループはすでに次の商業施設の看板に着いている。




「直線……! 行きます!」


 木を回り終えたハイラが一気に加速をし、飛車輪から雲を引く。


 早送りかと思えるような速度で二番手グループに追いつき、看板で左に曲がる。









「なかなか善戦しているじゃないか、ハイラインは。君の指導は効果があったようだね」


 サーズ姫様が俺に笑いかけるが、俺がハイラに教えた勝つやり方はこれじゃあない。悪いがこんなんじゃメラノスには勝てないんだ。


「……おや、少し気が急いてしまったかな。君達が見ているのは最終コーナーみたいだね、でもここからだと建物があって見えないか……いいだろうハイラインの勝利を信じて見に行こうか」


 そう言うとサーズ姫様は自分の飛車輪を呼び出し、トンと綺麗に乗ると俺に手を差し出して来た。



「君の作戦とやらが見たい。うちのハイラインが大きな壁を乗り越え、この国に新たな風を巻き起こす瞬間をこの目で見たいんだ。ふふ……もう朝からワクワクして何度クマさんをかぶったことか……!」


 クマさんはよく分からないが、俺は迷うことなく興奮するお姫様の誘いを受ける。


「空中で逃げられない状況で~うちの社長に手ぇ出すなよ~変態性癖女~」


 ラビコがムスっとした顔で釘を刺してくる。


「おお、そうか……それは思いつきもしなかった。ふむふむ、そう言われれば空中に連れ出せば逃げられないし抵抗もあまり出来ないか。ほうほう」




 サーズ姫様がなるほどといった表情。いや……レースを見させてください。







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