第139話 ウェントスリッターへの道 6 レース当日の会場様



 ハイラの臨時特訓から二日後。




 レース当日。



 風もあまりなく、快晴。


 王都は朝から多く人が集まり、熱気が溢れている。





「すごい人だな……」


 俺は思わず声を漏らす。


 俺がいるのはレースのスタート、ゴール地点でもある場所。これから開会式が行われるのだが、なぜか俺達はお姫様、国王と一緒にいる。




「あっはは~さすがに盛り上がってるねぇ~お金が賭かっていると熱が違うね~」


 このレースは国公認で賭けが出来るからな、そりゃー盛り上がるわな。


 ラビコが建物の最上階に作られたバルコニーから下を覗きニヤニヤしている。


 下のイベント会場はもう足の踏み場もないぐらいの人。皆、手に買ったチケットを持ち盛り上がっている。



 俺がいる場所はいわゆる貴賓室。


 建物の高さは五階建ての学校の校舎ぐらいだろうか。そこの屋上に豪華な観覧所が出来ていて毎年開かれるレースの際、国王や招かれた国賓達がここでレースを楽しむんだそうだ。今年は他国からの招待はなく、ラビコが招かれている。俺達はラビコにくっついて、紛れ込んだ感じ。


 ここからならレースコース全部見えるな。


 建物がある最終コーナーは見えないがね。





「ラビコ様ー!」


「おおーラビコ様がいらっしゃるぞー!」


「今年のレースはそれほど注目されているということだな」


 下の観客席に向かって手を振るラビコ。


 しかしラビコって王都じゃすごい人気あんのな。


 ソルートンじゃそんな雰囲気なかったけど。王と同権力、見た目の美しさ、膨大な魔力……人気が出るのは納得は出来る。


 性格は……アレだが。





「あああ……いいのでしょうか、私なんかがこんな所で……」


 ロゼリィはさっきからブルブル震えている。


 隣には国王フォウティア様、サーズ様、ずらりと背後を固める屈強な騎士達。国王を守る役ってことは、さぞ有名な騎士達なんだろうな。


 そんな中に俺達が居ていいものか本気で思う。


 特にオレンジジャージの俺。


 こんな場所で俺は緊張を隠せないでいるが、アプティはアップルティーを飲み、大人の余裕。


 単にレースとかに興味が無いだけだろうが。俺も一口もらおう、落ち着かないし。




「マスター……人間とは集まって何かを楽しむ、ということに長けているのですね……私にはこういう感覚は無いです」


 アプティが椅子に座り、紅茶を嗜みながら静かに言う。俺はそのアプティの頭を撫で笑顔を向ける。


「そうだな、人って何でも分け合う生き物なんだよ。嬉しいとき、楽しいとき、悲しいときですら、誰かとその思いを共有し分かち合う。一人でなんでも出来る奴はそりゃーすげえと思うけど、誰かと頑張る、チームで頑張って結果が出るとさ、喜びが二倍どころか十倍なんだよ」


 アプティはじーっと無表情で俺を見てくる……う、今日はいつものバニーだから、上からだと胸の形がモロに見える。


「なるほど……少し理解出来ました」


 こうしていると忘れがちだが、アプティって蒸気モンスターなんだよな。



 でも話せば分かってくれる。人間だってそうだけど、全員が同じ考えではないし犯罪を起こしてしまう者もいればそうじゃない者もいる。


 蒸気モンスターだって人とこうして共存出来るんじゃないだろうか。


 現に俺達とアプティは共存している。



 これが何かのきっかけにならないものだろうか、とアプティの胸を眺めながら俺は思う。


「格好いいこと言ってるけど~視線と表情が惜しいね~あっはは~」


 ラビコが笑う。くそっ、見られていた……。





「ほぅ……なるほど、その露出の多い服装にはそういう意味があったのか。私も君には興味を持って欲しいからな、今度そういう姿をして君の視線を集めてみようかな」


 サーズ姫様が顎に手を当てながらふんふん頷いている。




 勘弁してください。さすがに国のお姫様にそういう格好をされると、俺への世間の風当たりがとんでもない風速になりそうです。







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