第125話 そうだ、王都へ行こう! 20 ハイラの憂鬱様
混雑するペルセフォス王都駅を抜け、外へ出る。
「うわぁ、綺麗」
ロゼリィが目の前に広がる光景をみて声を漏らした。
駅の前には、学校のグラウンドを真っ直ぐ伸ばしたような広大な公園が広がっていた。
噴水があり、花壇や樹木などの緑が綺麗に整備され、ベンチがあり、とても綺麗で落ち着いた空間となっている。まぁ、そこも人で溢れて大変なことになっているが。
「ここは緑の風通り公園と言って、ペルセフォス国民の憩いの場となっています。長さが千五百メートル程ある縦長の公園で、大きなお祭りなどが開かれる場所となっています」
ハイラがえへんと胸を張り話す。へぇ、縦長の公園って珍しいな。
「来週頭に開かれるイベントは~公園どころかこのペルセフォスの王都全域を使った大きなものなるよ~。私はそのイベントに顔出せと変態性癖女に脅されていてさ~今回の社長の旅行に乗じて消化しようって魂胆さ~あっはは~」
ラビコの言葉に、直前まで笑顔だったハイラが憂鬱そうな顔になる。
「あっはは~それがさ~この世界に名を馳せるペルセフォス王国ご自慢の飛車輪部隊による空中レースでさぁ~この国の威信をかけて開かれる~それはそれはとてもとも大事なレースで~」
ニヤニヤ顔のラビコが語るが、ハイラのテンションがめきめき下がり顔が下を向いていく。
「この国の~絶大な力を~他国に見せ付ける意味もある大事な~と~っても大事な~」
ハイラが頭を押さえブルブル震えながらしゃがみ込んでしまった。
なんか知らんが、ラビコのこの笑顔……確実に楽しんでいる顔だな、止めておくか。
「こらラビコ、その辺にしとけ。ハイラの顔が青ざめているだろうが」
ラビコの頭を軽く撫でる。
「ん~? この王都で私を叱るとか~このラビコ様の天をも統べる力と位の高さを知らないのかな~」
ふふん、と挑発的な顔をしているが、王都でのラビコは知らんよ。
知っているのはソルートンでの自堕落なラビコだな。
「どんだけ偉いとか知らんな。俺にとっては部下であり、頼りになる魔女であり、俺の大切で尊敬する仲間の一人だ。ラビコはラビコだよ」
それを聞いたラビコが満足気な顔で俺に抱きついてきた。
「あっはは、さっすが社長~毎晩三人も女を抱くだけはあるね~」
だからそうやって面白最優先で嘘言うのはやめろと。
今もすげー周りに見られているんだからな。
ロゼリィとアプティがじわじわ側に寄ってきたが、ここで本当に三人に抱きつかれたら、着いていきなり変な目が俺に向けられることになるので勘弁して欲しい……。話題を変えようか。
「ハ、ハイラの様子がおかしいが、どうしたんだ?」
「ん~? その国の威信をかけたレースに出るド新人がびびってるだけさ~実力はあるんだけどね~」
ラビコがニヤニヤ答える。
ふむ、よく分からんがそのレースに出ることが決まっているが、プレッシャーにやられているのか。
ハイラって気弱な性格してるしなぁ、性格で損してるよな……。飛龍のとき見たが、実力は本当にあると思う。
「よし、分かった。ハイラにはお世話になったし、俺は全力で協力するぞ。俺が特訓してやる」
それを聞いたハイラがすっくと立ち上がり、泣きながら俺の手を握ってきた。
「い、いいい……いいんですか!? 私、本当にダメダメで……指導官からも溜息つかれている状況なんです……でもサーズ様の為、栄えあるブランネルジュ隊の名誉の為に格好悪いところは見せられない……ううう、もうどうしたらいいかと……いっそ逃げてしまおうかと……」
ハイラが本当に悩んでいたらしく、すげー早口で捲くし立ててきた。
「ラビコ、レースって戦闘はあるのか?」
「いんや~基本禁止さ~多少のラフプレイはあるだろうけど~武器は持たないで望む飛車輪の操作テクニックを競うレースさ~」
俺の右側に絡み付いているラビコが、俺の耳に息を吹きかけながら言う。
ゾクっとするからやめて。
「なら大丈夫だ、逃げる必要なんてないぞハイラ。俺がハイラの実力を発揮できる作戦を考えてやる」
それを聞いたハイラの顔が明るくなり、安心したようにヘナヘナとしゃがみ込んでいく。
「ううううー……嬉しいですー頼もしいですーうう、先生なんですね? 私の先生になってくれるんですね?」
ハイラがしゃがんだまま俺の足に抱きついてきた。
「あっはは~社長がハイラにつくのか~これは面白いレースになりそうだな~。開会式だけ参加して逃げようかと思っていたけど~一波乱ありそうで今からワクワクしてきたよ~」
お姫様の加速を遥かに上回る、ハイラの直線加速。
これを上手く生かせば勝てると俺は確信している。
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