第122話 そうだ、王都へ行こう! 17 イチゴの街と美しい世界へ想いを馳せる様


「眠い……」




 早朝六時過ぎ、駅に到着。


 と同時に鬼からも解放された。





 車体のチェックと壊れた箇所の補修で数時間足止め。


 駅員さんや列車に乗っていた乗務員の人達に列車を守ってくれたお礼を言われたが、俺はハイラを前に出しやっぱり王国を守る騎士はすごい、と話を盛り上げた。


 どれだけハイラが活躍したかを伝え、皆で拍手を送った。







「ふひー……やっと終わりましたー……」



 お客さんにも喝采を受け囲まれていたハイラが、よろよろと俺達のもとへ歩いて来た。



「で、でもなんで私一人の活躍なんですかーほとんどがあなたの……」


「いいんだよ。国を守る立場の騎士が国民と列車を守る、こんな分かりやすく国民の国へ対する信頼が上がるイベントはないだろ。よく知らねー冒険者が活躍したって喜ばれねーって」


 それに実際頑張っていたのはハイラだ。


 感謝を受け取る権利は一番あるだろ。



「大丈夫ですよ、ハイラさん。私達だけは隠れた勇者の存在を分かっていますから、ふふ」


 ロゼリィが俺を見て微笑む。



 ハイラもアプティを見ていたのだが、飛龍の蒸気でアプティが吐く蒸気は見えていなかったはず。


 高レベルの早足魔法が使える冒険者、ってことにして話しておいた。


 ロゼリィは車内にいたのでアプティ自体見えていないと思うが、ハイラと同じ情報を言っておいた。





「なんというか……あなたが王都にいてくれたら良かったなーって思いました」


 ハイラが俺をじーっと見てくる。



 昨日までは立位置を俺から数歩離れた安全圏と判断した場所にいたのだが、今は普通に目の前に来てくれるようになった。


 ちょっとはハイラの信頼を得れたようだな。




「よく言ったハイラ~。ね~社長~王都に一緒に住もうよ~ハイラも喜ぶし~」


 すかさずラビコがアピールしてくる。


 ハイラは顔を紅くしてわたわたと手を左右に振り、頭を抑えしゃがみ込んでしまった。







「ラビコ、この街はどういうところなんだ」



 着いた駅はラフレという街。


 早朝にも関わらず駅前には結構な人がいる。



「ここはイチゴで有名な街かな~イチゴ狩りは時間的に無理だけど~朝市で新鮮なイチゴ買うか~」


 おお! イチゴか! それは食いたいぞ。急に眠気が吹っ飛んだ。女性陣もイチゴと聞いてテンションが急上昇。







 駅から十分程歩いた屋根つきアーケードがある大きな通り。


 そこで朝市をやっているとのこと。





「うわーすごい人だな、まだ朝七時なってないってのに」


「活気あるね~素材はいい物売ってる街さ~」


 素材は、か。まぁ長居するわけではないし、イチゴだけ買って食おうじゃないか。




 混雑する道を人を掻き分け進み、ラビコお薦めのお店に到着。少し値は張るが、いい物を出しているそうだ。





「えーと、一山単位なのか。四十Gか、そこそこするなぁ」



 買ったイチゴは、大き目のザルに本当に山と積まれたもの。五人で食べても余るぐらいの量はありそう。





 緊急補修も終わった魔晶列車の個室で、皆奪い合うように食べた。


 さすがに疲れた体にイチゴの酸味と甘さは効く。


 イチゴを食べながら、駅に置いてあった無料の小冊子をパラパラとめくって読んでいると、とても気になる写真が白黒で載っている。世界の観光地を紹介したものらしいが、それがとても異世界っぽくて俺の心を掴んだ。



「ラビコ、この写真の街……水の上に浮いているんだが」


 写真は大きな湖に浮かんだように建物が建ち並び、とても幻想的に見える。


「ああ、そこ綺麗だよ~夜とか月が湖面に写ってさ~夏に花火が上がってとっても美しい都市だよ~」


 広大な湖の真ん中あたりに大きな島があって、それに連なるように点在する小さな島とアーチ状の橋で繋がり、写真を見ているだけでワクワクするところだぞ。


「うわー綺麗なところなんですねー私もいつか行ってみたいです。ロマンチックな夜を過ごしてみたいなぁ」


 ロゼリィがほわーと想像の向こう側へ行ってしまった。



 写真は他にも、巨大な円柱状の岩の上に大きな都市があり、雲の上に浮かぶように見えるものや、建物の色が白で統一され、広がる海や空の青さとのコントラストが美しいと文面で書かれた街などいつか絶対行ってみたい場所ばかり載っている。




「いつかみんなを連れて行ってやるぜ」



「毎度~いつも借金の積み重ねをありがとうございま~す、あっはは~」


 俺の夢に向けた純真な決心を一瞬で現実に戻す魔女。



 本当にラビコってどんだけ金持ってんだ、その上美人で世界レベルの魔法使いで……そりゃー言い寄る男も多いんだろうなぁ。



「お~? 何か私に熱い視線を感じるよ~? あれかい? 一度生で見たもんだからって、私の胸を想像していたのかい~?」





 これ。


 これが無ければラビコは最高にいい女だと俺は思う。







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